第28話 地下洞窟へ

「ここです⋯⋯」


 トロピアスの中心部から北に砂漠の中をしばらく歩いて。


 俺達の目の前に砂をかき分けて大きな口を開けた空間が現れた。どうやらこれがクレアさんの言っていた地下洞窟のようだ。


「サリア、案内ありがとう」


「あっ⋯⋯」


 ここまで案内してくれた少女の頭を撫でながらお礼を言う。よし触れる。俺も少しはモテる男に近づいただろうか。


「うわっ⋯⋯ロリコン野郎ね、やっぱり」


「リンカさん、事実としても言ってはいけないこともありますよ」


「お兄さん!あたしも撫でて下さい!」


 ⋯⋯やっぱり気軽に女の子に触るもんじゃないな。不名誉なニックネームを付けられるし、何より咎めるような視線が痛い。そそくさと手を離す。


「⋯⋯それでどうしようか?」


「サリアちゃんのことですね?」


「ああ」


 この先にもし教団の奴らがいれば、高い確率で戦闘になる。


 そのような危険な場所にサリアを連れていくべきではないだろう。どうするべきか。時間はかかるが、一度彼女を街まで送り届けた方がいいだろう。


「ま、待って」


 しかしサリアはそう思わないようだった。


「わたしも、付いていきたい」


「だが⋯⋯」


「おにいちゃんのこと、不安なの」


「サリアちゃん⋯⋯健気ですっ!!」


 感極まったようにカコが騒ぎ出す。


 そして熱のこもった視線を俺に向けてきた。


「お兄さん!サリアちゃんはあたしが守ります!だからお兄ちゃんに合わせてあげましょう!ねっ!」


 満面の笑顔の奥から、こちらに嫌とは言わせない圧を感じる。


 ⋯⋯だが、危険な場所に一般人を連れていくのはやはり躊躇われる。


「いいんじゃない連れていけば」


「リンカ⋯⋯?」


「私が2人とも守ってあげるわ。大船に乗った気分でいなさい」


「リンちゃん⋯⋯!」


「リンちゃん言うんじゃないわよ」


「⋯⋯仕方ないか」


 ここでこの2人が折れるとは思えない。周りに最新の注意を払いつつ、連れていくしかないだろう。


「じゃあ⋯⋯入るぞ」


 そうして洞窟に足を踏み入れる。先ほどまでの柔らかい砂の感触から打って変わり、固い岩の感触であった。


「空気がひんやりしてますね⋯⋯砂漠の中とは思えません」


「そうだな⋯⋯サリア、寒くないか?」


「は、はい⋯⋯大丈夫です」


 俺の問いかけに小さく笑う少女。


「じっー!」


「な、なんだよカコ?」


 視線を言語化するうちの最年少のことが気になり、思わず声をかける。


「いいえ~別になんでもないですよぉ?ただ、お兄さんがいつもよりも優しいなぁと思って!⋯⋯ほんとに小さい子が好きなんですね」


「え、ちょ、ちが」


 やめてくれ。


 普段、尊敬のまなざしを向けてくれる子からの非難の視線は心にくる。何とか、何とか弁明しなければ本格的にロリコン認定されてしまうっ!


「ソフィ、わかってくれるよな!」


「⋯⋯⋯⋯こ、個人の趣味嗜好は自由かと思いますよ」


 ⋯⋯ああ。


 底冷えしそうな視線。言い換えると軽蔑に近い視線が俺に突き刺さる。


 四面楚歌。


 俺のロリコン戦線、状況は絶望的だ。


 ひとまず、話題を変えるしか⋯⋯!


「と、ところで、なんでこんなに涼しいんだろうな?」


「ち、地下に水が流れてるんだって。それで涼しいんだって。お母さんが言ってた⋯⋯」


「なるほど⋯⋯」


 つまり、この地面の下に水が流れているのか。改めて自然の不可思議さ、偉大さをまざまざと見せつけられる。


「へぇー!落ちたりしないんですかね!えいえいっ!」


 ぴょんぴょんと跳ねるカコ。


「か、カコちゃん。ここ意外と滑るから怪我す」


 ソフィが注意しようとした時。


「あいたっ!!」


 カコは勢いよく地面に倒れこむ。


「い、痛いです⋯⋯」


「言わんこっちゃないわねっ⋯⋯ちょっと見せなさい。⋯⋯あー、ちょっと血が出てるわね。手当てするからじっとしときなさ⋯⋯待って、何この音」


 リンカの言葉に一同耳を澄ます。


 何かが、折れるような音。割れる音。


 ⋯⋯嘘だろ。絵本の世界じゃあるまいしそんなこと⋯⋯。


「きゃ!地面が揺れっ!」


「全員掴まれー!!」


 その瞬間、地面が割れ、体が宙を浮く。


 待つは流れる水。


 近くにいたサリアを抱き込む。


「ちょ、待って、私泳げな」


 そんなリンカの声は誰にも届かず。


 4つの水しぶきが上がるのだった。



 




 


 


 




 


 


 




 

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