第29話 急転直下 【h】

「いやー、濡れましたね!」


「ほんとあんたのせいよ。どうしてくれんのよ」


「ま、まぁまぁリンカさん⋯⋯サリアちゃん大丈夫?」


「は、はい⋯⋯」


「⋯⋯」


 洞窟の床が抜けた後。


 俺達は水路の水に流されて、ここに流れ着いた。ちょっとした湖のような場所だ。どうやらこの洞窟の水はここに集まるようだ。


 今俺、はそんな湖のほとりにある背の高い岩に体を預けて休んでいる。


 そして⋯⋯この裏では女子達が濡れた服を乾かしているところだろう。


 ⋯⋯待てよ?


 服を乾かすということは⋯⋯岩の影では⋯⋯!?


「ちょっとあんた!絶対に覗くんじゃないわよ!」


 そんな俺の邪な考えを直感的に感じ取ったのか。


 リンカの声が俺をけん制してきた。


「の、覗かないって!」


「ちょっとカコ、サリア!もう少し奥行きなさい。あいつの狙いはあんたらなんだから!」


「⋯⋯ほんとに俺を何だと思ってるんだ」


「変態ロリコン以外にあると思ってんの?」


 ⋯⋯ここまではっきり言われると少しへこむ。そしてそれを否定しきれない自分の行いにまたへこむ。


 しかしこれでいいのだ。


 こうして人はまた1つ、大人になっていくのだから。


「にしても綺麗なお水ですね!ちょっと持って帰ろ!」


「カコちゃんよくビンなんて持ってるね⋯⋯あれ?カコちゃんそういえば怪我してなかったけ?」


「あれ?どこでしたっけ?」


 そんな女子達の会話に耳を傾けてると。


「⋯⋯ん?」


 ⋯⋯遠くから何か聞こえる。


 これは、人の声だろうか?男性が、何かを叫んでいるのは分かった。


 ⋯⋯ここが洞窟のどこかは分からないが、かなり奥ではあるはず。その更に奥から聞こえる声。正体は見当がつく。


「リンカ」


「な、急に話しかけんじゃないわよ!⋯⋯なによ」


「向こうから声が聞こえた。少し見てくる」


 リンカの返答を聞かず、声のした方へ足を向ける。


 岩の影に隠れた穴。風が吹いている。声もここから聞こえるし、この先に声の主がいるのだろう。


 足音を殺して歩いていくと、すぐに出口に辿り着いた。


「あれか⋯⋯」


 影から顔を出すと、そこには数人の男女を引き連れた男が何かを訴えていた。内容までは分からなかったが、大事なことはそこではない。


「ジュン⋯⋯!」


 連れ去られたジュンもそこにいた。


 ⋯⋯しかし様子がおかしい。


 誘拐されたと言っていたが、それにしては表情が明るい。まるで新しい遊びを覚えたような⋯⋯。


「⋯⋯あいつらが例の教団って奴らかしら?」


「リンカ」


 気がつくと女子4人が後ろにいた。


 これでいつでも乗り込める。


 そんなことを考えた時だった。


「えっ⋯⋯何あれ」


 ソフィが呟く。


 彼女の驚いた理由はすぐに分かった。


 突然ジュン達の周りに描かれる模様。あれは⋯⋯魔法陣?


「なんか光ってますよっ!?」


 そして魔法陣が紫色に発光しだす。


 それと同時にジュン達にも変化が現れだす。


「う、ううううう」


「あああああああ!!」


 膝をつき、苦しげに呻き声を上げ始めたのだ。


 本能が訴えてくる。


 あれはまずい。すぐにやめさせろと。


「みんな行くぞ!あれを止める!」


 そういって剣を引き抜き、飛び降りる。


 絶対に助けてみせる。


 


 





  


 

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