第27話 誘拐

「⋯⋯っつ」


 赤く染まった頬がひりひり痛む。


 まさかここでもビンタされるとは思っていなかった。


 地震が起きた時、真っ先に心配になったのは3人のことだ。クレアさんの家は贔屓目に見ても、あまり立派ではない。最悪の事態が思い浮かんだ。


 そして気がつけば、駆け出していた。


 そして結果はこの有様だ。3人には怪我がなく、俺の頬が赤く染まっただけ。


 誰か俺のことを慰めてほしい。


 ⋯⋯それにしても。


「クレアさん」


「なんでしょう?」


「先ほどの地震はよくあることなんですか?」


 気になったことがあった。


 俺が部屋に戻ってきたのは地震発生直後のはず。しかしながらクレアさんを始め、他の従業員も冷静に事後処理を行っていた。妙に手慣れた手つき。


 ⋯⋯もしかしたら地震には慣れっこなのではないかと。


「ええ、数年前から起こりだして今では結構頻繁に」


「そうですか⋯⋯」


 数年前。


 王国内で魔物が凶暴化した時期と重なる。


 これに関連性がある⋯⋯と考えるのは考えすぎだろうか?


「おまたせしましたぁ~!」


 そこに着替えを終えた3人が戻ってきた。


「お、おまたせしました⋯⋯」


「⋯⋯」


 ご機嫌な表情のカコ。


 その彼女の後ろには真っ赤な顔したソフィとリンカ。


 あとで謝っておこう、うん。


 今後のアフターフォローを考えていた時であった。


「お、お母さん⋯⋯!」


 外から息を切らせた少女が入ってきた。


「サリア!あんた、奥の部屋にいるんじゃ⋯⋯」


「お兄ちゃんが連れていかれちゃった!」


 誘拐⋯⋯!?

 

 部屋に緊張に走る。

 

「なんですって⋯⋯!?誰に連れていかれたの!?」


 クレアさんも目を見開き、焦った様子で娘に質問をぶつける。


「わ、わかんない⋯⋯黒い服を着た人達だった⋯⋯」


「黒い服⋯⋯?」


 つまりさっきのスキンヘッド集団ではないようだ。では一体だれが⋯⋯?


「リンちゃん、もしかしてですけど⋯⋯」


 カコが口を開く。彼女の言うことが理解できたのか、リンカも黙って頷く。


「もしかしたら教団って奴らかも。広場で同じような服装の奴らが集会してた」


「なにっ⋯⋯!?」


「どこに連れていかれたか分かる?」


「えっとね⋯⋯街の外れに言ってた」


「街の外れ⋯⋯」


 そこに奴らのアジトがあるのかもしれない。


 しかし少女の漠然とした情報だ。そのアジトを見つけるのにどれほどの時間がかかるだろうか。せめてある程度範囲を絞れれば⋯⋯。


「⋯⋯っ!もしかしたら」


 クレアさんが棚から地図を取り出し、街の外れの辺りをペンで囲った。


「ここの地下に大きな洞窟があるのですが、もしかしたらそこかもしれません。広いですし、隠れるにはうってつけかもしれません」


「なるほど⋯⋯」


 本当はもう少し情報を集めてから捜索をしたいところではあるが、今回は一刻を争う。


 ここにいると信じるしかないだろう。


「みんな行こう、この地下洞窟に」

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