第20話 フィリアとミステリア
「ヴォルクさん、馬車操れるんですね」
「子供の時にちょっとな」
「凄いです!あたしもやりたいですっ!」
「ちょ、馬車の中で跳ねるんじゃないわよ!危ないでしょうが!」
翌日。
俺達4人は馬車に揺られながらトロピアスに向かっていた。片道半日の旅。意外と近い。良かった。
「⋯⋯泊りとかあったら生きた心地しなかったな」
こっちに来て多少慣れてきたとはいえ、まだまだ女性に対する免疫は無いに等しい。車中泊などあろうものならとても目的地まで体力は持たない。あんな車中泊など一度っきりで十分だ。
どこぞの無神経美人に心の中で悪態を吐いていると、ソフィが心配そうに声をかけてきた。
「ヴォルクさん大丈夫ですか?顔青いですよ?」
「だ、大丈夫。ちょっと昔のトラウマを思い出しただけだから」
「トラウマ⋯⋯?」
「ああ、ミステリアさんとの馬車旅」
「⋯⋯あぁ」
理解できてしまったのかソフィは苦笑いを浮かべる。大方彼女はミステリアさんのハイテンションに俺が疲れたのだと思っているだろうが。
可能なら女耐性がないことはバレたくない。いらない気を遣わせてしまいそうだし。
「そういえばヴォルクさん」
「ん?」
「私に聞きたいことあるんじゃないですか?」
鋭い。なんでわかったんだろう?
「なんでわかったんだ?」
「昨日から少し視線を⋯⋯」
「⋯⋯えっ、そんな見てた?」
「は、はい」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯やっちまった!!可能な限り見ないようにしていたんだがなぁ。
女性が視線に敏感なのは事実のようだ。大丈夫だよな?変なところ見てなかったよな?
「それでなんでしょう?」
「あ⋯⋯お姉さんのことなんだけど、団長と知り合いなのか」
「そういえば話していませんでしたね⋯⋯実はお姉ちゃんはミステリアさんとかつて一緒に冒険してたんです」
「えっ、そうなのか!」
まさか冒険仲間だったとは。予想外の展開だ。
「色々な冒険をしたみたいです。遺跡で封じられた水晶を探したり、海賊達と戦ったり、お城で大立ち回りしたり⋯⋯」
なにそれ普通に気になる。でも我慢。今聞きたいことはそれじゃない。
「じゃあなんで、お姉さんは⋯⋯」
「⋯⋯詳しいことは分かりません。数年前、気を失ったお姉ちゃんをミステリアさんが担いで連れてきたんです。あの時教えてもらいました。お姉ちゃんは重い病気にかかってしまったって」
「⋯⋯」
視線を落とすソフィ。帰ってきた姉が死にかねない病気になっていた。どれほど辛く、悲しいことであっただろう。
「その後ミステリアさんが私達の領主になり、私を騎士団に招き入れて下さいました。その上お姉ちゃんの病気について研究して、薬を配合したりしてくださったんです」
「そうか⋯⋯」
ミステリアさんの顔が浮かぶ。
あの人が何を考えているか俺には分からない。しかしあの笑顔の奥には抱えきれないほどの思いがあるのだろう。俺はあの人について何も知らない。もっと知る努力をするべきなのかもしれない。
「これが私の知ってる全てです」
「⋯⋯ありがとう。そしてごめん、辛いことを思い出させて」
ソフィは首を振る。
「いいえ。ヴォルクさんには知っておいてほしかったですから」
そう言って優しく微笑んだ。不謹慎だが、その儚げな表情は美女神のように美しいものであった。
これだけの信頼を寄せてもらっているのだ。
必ず信頼に報いなければならない。
「すみません、私からもいいですか?」
「なんだ?」
「カコちゃんから聞いたんですけど、ヴォルクさんに最近特訓をしてもらってるって」
「ああ、そうだけど⋯⋯」
「ぜひ私も特訓をつけてほしいんです。いつまでもミステリアさんに守られているわけにもいかないので⋯⋯」
「⋯⋯そうか」
答えは決まっている。
「できる限り力になるよ。一緒に頑張っていこう」
「⋯⋯はいっ!」
さて、新しい特訓を考えなければ。
馬車の先に茶色い野原が見え始めた。
トロピアスはもうすぐそこだ。
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