第21話 いざ砂漠の都へ
砂漠の都、トロピアス。
この街に来て分かったことが1つある。
「クソ暑い」
「暑いです⋯⋯溶けちゃいます⋯⋯」
「カコちゃん頑張って。はいお水」
照りつける太陽。光り輝く砂漠の砂。
その上に絨毯を引き、たくさんの商人達が自信の品をなんとか売り込もうと声を張り上げている。本当に頭が下がる思いだ。
「何よあんた達、これぐらいで情けないわね」
「⋯⋯なんだそのフード?暑くないか?」
「日焼け対策よ。男のあんたには分かんないでしょうけど」
そう言ってリンカは白いフードを深く被り直す。
⋯⋯日焼け対策は結構だが、その姿は見てるだけで暑くなるからやめてほしい。
まぁ、本人には言えないんですけどね。怖いから。
「とにかくまずは手分けして魔物について聞き込みをしてみよう」
「この魔物かい?うーん知らないねぇ⋯⋯」
「すみません、見たことないです」
「それよりも干し肉買わねぇか?」
聞き込みをして半日。
汗水たらして歩き回った結果は悲しいものであった。
大体返ってくる答えは知らないか商品の押し売りかのどちらか。騎士団時代、偵察部隊が情報を集めてきてくれたことはこんなにもありがたいことだったのか⋯⋯!
「少し休憩するか⋯⋯」
ちょうどよく近くに木が生えているしな。そのままゆっくりと腰かける。
やはり木陰の影は涼しいな。普段はあまり感じないが、本当に暑いとその恩恵がよく分かる。
そんな安らぎの時間を過ごす俺に1つの影が近づいてきた。
「あら休憩なんていいご身分じゃない」
「リンカ」
そこにはリンカがにやっとした笑みを浮かべて立っていた。弱みを握った言わんばかりの顔。薄々気づいていたが、やはり彼女は少しひねくれている。
「そっちはどうだった?」
「外れね」
「そうか」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
⋯⋯どうしよう。会話が続かない。
こういう時、どういう会話をするのが正解なんだ?
多少は女性が喜びそうな話題について勉強しないといけないな⋯⋯彼女がそれで喜ぶとは想像できないが。
「⋯⋯ん」
突然、目の前に何かが差し出された。木製のコップに何か入っているもの。
リンカと目が合った。どうやら受け取れということらしい。何だろう⋯⋯?
「⋯⋯なに警戒してんのよ?」
「い、いや、リンカから何か貰うのって初めてだから⋯⋯これは?」
「頑張っているあんたへ飲み物の差し入れよ⋯⋯もっとも何か入れてるかもしれないけど」
「⋯⋯」
こいつニヤニヤしやがって⋯⋯!
飲み物はありがたいけど!
でも俺は学習した。ここで飲むのをためらってはリンカの思うつぼ。
よし⋯⋯飲んでやろう!
男を見せろっ!ヴォルク・スゥベル!
「いただきますっ!」
「えっ⋯⋯ええっー!!」
悲鳴を上げるリンカをしり目に、ドリンクを胃の中へ流し込む。口の中に果物の甘みが広がる。何かを混入した感じはないようだ。
「ふぅ⋯⋯美味しかったよ。ありがとう」
凄い。真っ赤な顔で震えてる。真っ赤になる理由はよく分からないが、ささやかな仕返しができたようだ。
「ヴォルクさんとリンカさん、ここにいらっしゃったのですね!」
「お兄さん!リンちゃーん!」
ソフィとカコもこちらに駆け寄ってきた。まだ約束の時間ではないが全員集合してしまった。
「んん?なんでリンちゃん顔赤いんですか?」
「あ、赤くないわよぉ!!というかあんた、何よその服」
「あ、これですか!ソフィお姉さんが買ってくれたんです!」
「露店で売っていたんです。カコちゃんにすごく似合っていたのでつい⋯⋯」
「あんた⋯⋯カコにほんと甘いわね⋯⋯」
「お兄さんどうですか?可愛いですか?」
見せびらかすようにくるくると回る過去。普段のタンクトップにハーフパンツから一転、薄めのローブを頭に被り、腹部を大胆にさらした衣装。
⋯⋯可愛いというより、セクシーだった。
「か、かわ、いいよ?」
「なんで疑問形なんです?」
⋯⋯ぶっちゃけこの衣装チェンジを喜んでいいのか分からない。
いや、魅力的なのは否定しない。
だがm俺の唯一の安全地帯が遠くに行ってしまった。そんな気がした。
「本当はソフィお姉さんと一緒に着るつもりだったんですけど⋯⋯」
「ソフィも⋯⋯この衣装を⋯⋯!?」
思わず妄想してしまう。
『ちょっと恥ずかしいですけど、貴方のために着てみました⋯⋯に、似合っていますか?』
「⋯⋯あっ」
最高。これで鼻血吹いても後悔ないです。
「ちょ、あんたっ!?⋯⋯なんて幸せそうな顔してんのよ⋯⋯」
「あたし⋯⋯お兄さんを悩殺しました!やったー!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよっ!ヴォルクさん!大丈夫ですかー!」
こうしてトロピアスでの滞在初日は幕を閉じた。
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