第22話 忍び寄る過去
次の日。
俺達は情報収集のために再び市場に繰り出していた。
「あれ?カコとリンカは?」
「何か気になるものを見つけたみたいで、どこか行ってしまいました⋯⋯」
「全く⋯⋯」
本来の目的忘れてないだろうな、あいつら⋯⋯。
⋯⋯しかしこれはチャンスだ。特訓の話をする、チャンスだ。他意はないぞ。
「ソフィ、ちょっといいか?」
「は、はい。なんですか?」
「特訓のことなんだけど、先にソフィの課題について話をしておきたいんだけど⋯⋯いいか?」
「はい!お願いします!」
メモを取り出すソフィ。うん真面目なのはいいけど、もう少し気軽に聞いてほしいな。
「⋯⋯やっぱりソフィの弱点としては魔力の少なさだと思うんだ。これを改善するのは正直難しい⋯⋯なんたって生まれつきのことだからな」
「はい⋯⋯」
ソフィは残念そうに視線を落とす。
そう、魔法の源である魔力は先天的なもの、遺伝で決まることが多い。よって修行や訓練で増やすことはとても難しいのだ。
「だが⋯⋯方法はそれ以外にもある」
「えっ?」
「例えば魔力の使う量を調節するとかだな」
「魔力の⋯⋯調節?」
「ああ。例えば、ブリザードの威力を半分にしても倒せる相手には少し加減して打つとかだな。これによって魔力の消費を抑える」
「な、なるほど⋯⋯」
「あとは魔力の回復速度を速めるとかだな。睡眠や瞑想が効果的らしい」
「⋯⋯」
⋯⋯しまった。少し早口で話しすぎたか?話も抽象的だったし、困ってしまったのかもしれない。
「大丈夫か?難しいことを要求していることは理解している。少しずつ身につけていこう」
「は、はい。頑張ります⋯⋯!」
ソフィへの話が終わりかけた時であった。
「そこの御方、少しよろしいでしょうか?」
「ん⋯⋯?」
振り返ると、そこには白い髭を蓄えた老人が立っていた。ステッキを持っているが、背筋はピンと伸び、若々しい印象を与える。
何より砂漠で涼しい顔してタキシードを着こなす姿はただただ凄いとしか言えない。
「お引き留めしまして申し訳ございません。旅の御方ですか?」
「旅の⋯⋯?ど、どうなんでしょうか?
「まあよそ者だから間違っていないだろう⋯⋯そうですが」
そう答えると老紳士は懐から何かを取り出す。随分古びた写真である。
「実は人を探しておりまして⋯⋯この方なのですが」
「⋯⋯」
写真には1人の少女が花束を持って満面の笑みを浮かべている。長く美しい金髪と青い瞳が目を引く。
これ⋯⋯もしかして。
頭に仲間の少女が浮かぶ。
「カリン様です。私がお仕えする貴族のご令嬢なのですが、実は数年前から行方不明でして⋯⋯」
「そうですか⋯⋯それは心配ですね」
執事に同情するソフィ。しかしなぜだろうか。
リンカのことを言ってはいけない気がする。
別に根拠はない。だが言ってしまえばよくないことが起こる。そんな気がした。
「⋯⋯ヴォルクさん、どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
⋯⋯ともかくリンカのことは言わない。
名前も違うし、きっと別人だ。
何より、こんなやさしそうな令嬢がああいう風にひねくれるイメージが湧かない。
「そうですか⋯⋯残念です」
「お力になれず、申し訳ありません」
ソフィが老紳士に写真を返す。
「いえいえ。こちらこそお時間をとってしまい申し訳ありませんでした⋯⋯では、失礼します」
老紳士は写真をしまうと、恭しく頭を下げた。そして人混みの中に消えていった。
「お嬢様見つかるといいですね⋯⋯」
「⋯⋯そうだな」
心の中に引っ掛かりを感じながらも、俺はそう答えた。
「⋯⋯あの2人、匂いますね。調べてみますか⋯⋯」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます