第15話 囚われの女【HH】
【ある山賊視点】
俺は元々名もない農家であった。
妻と2人、朝から晩まで農作業。それはそれは貧乏で慎ましい生活であった。
でも、幸せだった。よく笑う妻。その笑顔が見れるだけで。
だが、そんな生活は突然終わりを告げた。
ある日、いつも通りの静かな夜。
魔物の軍勢が村に押し寄せた。
畑は荒らされ、大切にしてきた家畜には逃げられ。
⋯⋯妻は殺された。
目の前が真っ暗になるという感覚。
絶望という言葉の意味を噛み締め、俺は変わり果てた村の跡地で立ち尽くすことしか出来なかった。
だが、本当の地獄はここからであった。
村が襲われて数日、数名の生存者に対して、村長からとんでもない知らせがあった。
『騎士団の派遣はなし⋯!?』
『ああ⋯⋯お上がそう決められたそうだ』
『ど、どうすんだよ!食いものなんてもうない!魔物もまだ近くにいる!何より家屋の瓦礫の下にはまだ人が!』
『お上が、決められたことだ』
『⋯⋯!』
王国が、俺達を見捨てたのだ。
今考えればちょうどこの頃、魔物の襲撃が各地で頻発していた時期であった。うちのような小さい村に割ける人員などなかったのであろう。
頭ではそう分かっている。
だが、はいそうですかと理解できるはずもない。
ただでさえ妻を始め、多くの人が死んだのだ。
それに加えて王都から薬が届かず、運よく助け出された人も治療できず衰弱死した。
本来なら彼等だけは助かったはずだ。
王国が数名でも救急隊を派遣してくれていれば⋯⋯。
妻の墓は作れていない。
彼女の亡骸は焼け野原となった村の跡地に穴を掘って埋めた。
立派な墓など作ってやることは出来なかった。
⋯⋯俺は王国は許さない。
絶対に生きて、この事件のことを世界中に伝えてやる。
そしていつの日か、妻に立派な墓を作ってみせる。
そのためなら、薄汚い山賊でもなんでもやってやる⋯⋯!
「お頭ー!」
そんな俺の過去はしゃがれた男の叫び声にかき消された。
気がつくと、砦の入り口付近に人だかりが出来ている。
先ほど侵入者がいるとかなんとかで偵察に行った奴らが帰ってきたようだった。
「おいおい、お前は見に行かねぇのか?」
近くを通りかかった名前も知らない男が声をかけてくる。
「興味ないからな」
「お前そりゃ勿体ないぞ!今回のはすげぇぞ!⋯⋯女だ!」
「女?」
「そうだ!侵入者は女だったんだ!それもかなりの美人らしいぜぇ!見なきゃ損だろ!」
男は俺の手を掴み、人混みの方へ引きずっていく。
あまり気乗りしなかった。
男だらけの山賊。とりわけこいつらは女に飢えている。例えオークのような醜い女であっても大喜びするほどだ。
さて、どんな女か⋯⋯。
「⋯⋯っ」
思わず言葉を失った。
そこにいたのは、美しい少女であった。
太陽のように輝く黄金色の長い髪。
宝石を埋め込んだように美しく、大きな瞳。
そんな彫刻のように可憐な少女が、一糸まとわぬ姿で拘束され、連行されていた。
「見惚れてるなぁ」
「ち、違う」
「隠すなって!気持ちは分かるぜぇ!あんなエロい女、滅多に見れるもんじゃないからなぁ!」
だらけきった男のにやけ顔。
「⋯⋯にしてもエロい体だなぁ!胸もでけぇし、尻もむちむちだ!あー、めちゃくちゃにしてぇ!お前もそう思うだろ?」
「⋯⋯」
否定は、できなかった。
そんな俺の目の前で、彼女はどんどん砦の奥に連れていかれる。
「くくっ⋯⋯どうだ?エロい体晒してる気分はよぉ」
「真っ赤な顔して恥ずかしいのかぁ?可愛いじゃねぇかぁ」
普段見れない女性にテンションが上がっているのか。
野次馬達は愉快そうに少女を言葉で辱める。
「くっ⋯⋯触るんじゃないわよ!離しなさい!」
しかし彼女も只者ではないのだろう。
数十人の男に囲まれつつも、挫けずこいつらを睨みつけている。
「ひひっ、その生意気な態度、いつまでとれるかなぁ?」
「ボスに見せた後ゆっくり可愛がってやるからなぁ」
だがその態度は逆効果だ。
山賊は望むものは力づくでも手に入れ、逆らう者は徹底的に屈服させる。
こいつらにとってはそんな彼女の勝気な様子もお楽しみの前の前菜に過ぎない。
「この⋯⋯変態共が⋯⋯!」
そう彼女が吐き捨てた時であった。
「そいつが侵入者か?」
地面に響くような低い声。
砦の奥。
ゆっくりとこちらへ歩いてくる男の姿があった。
少女の二倍ほどの巨大で筋肉質な体。
流石の少女も言葉を失っていた。
「ボス!!」
山賊達は姿勢を正す。
そう。
この大男こそ、この周辺で極悪非道の限りを尽くす山賊達のリーダーである。
「その女が侵入者か?」
「へい!ボスの作った物見搭から発見しやした!」
「そうかぁ、作って正解だったな」
ボスの後ろで聳え立つ巨大な搭。
砦への侵攻を真っ先に感知するために作られたものだ。
この少女もこれの餌食となったのだろう。
「さて」
ボスの巨大な手が少女の顎を持ち上げる。
「貴様の名を教えろ」
威圧するような声。
普通の人間であれば失禁してもおかしくないほどの迫力である。
だが、彼女は違った。
「⋯⋯⋯⋯ぺっ」
⋯⋯なんと男の顔に唾を吐いたのだ。
まさかの行動に、騒いでいた山賊達も言葉を失う。
「薄汚い山賊に名乗る言葉なんてないわ。さっさと解放しなさい」
更に命令口調でこう言い放ったのだ。
「お、おい⋯⋯あの女自分の立場分かってんのか?」
「命知らずだな⋯⋯」
流石の山賊達も動揺が隠せない。
中には心配そうな顔をした者もいる。
確かにここまでやっては殺されてもおかしくはない。
「⋯⋯くく」
しかしリーダーの反応は違った。
「がっははははは!!随分生意気な小娘ではないか!」
まさかの大笑いである。
そんなボスにつられたように他の山賊も笑い出す。
「楽しんでもらえたかしら?なら早く解放」
「気に入った。貴様は念入りに屈服させてやる」
「⋯⋯は?」
「お前達!」
「へい!」
ボスの声に山賊達は返事をする。
筋肉男の顔には醜い笑みが浮かべられていた。
「このお嬢さんに世の中の厳しさを教えてやれ。ただし傷はつけるなよ⋯⋯商品としての価値が下がるからな」
「へい⋯⋯ボス」
「ま、待ちなさい!⋯⋯きゃあ!」
奥に下がろうとするボスを引き留めようとする少女。
だがそれはかなわない。
彼女の細い体は数名の男達によって地面に組み敷かれてしまう。
「さあ、待ちに待ったお楽しみタイムだぁ!」
「今までの生意気な態度、たっぷりと反省させてやるからなぁ」
「でもすぐには壊れるなよ⋯⋯つまらないからさぁ!」
「い、嫌っ⋯⋯いやぁ!!」
少女が悲鳴をあげる。
しかしここは山賊の砦。
助けなどこない。
君も分かっただろう。
この世の中、強くないと生き残れない。
君のように弱い存在は強い者に貪り喰われておしまいなのだ。
せいぜい、来世では頑張ってくれ。
そう思って俺は目を背けた。
その時。
突然の爆音。
物見砦が燃え上がったのだ。
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