第14話 単独行動と悲惨な末路 【HH】

「では、お願いします」


 一礼し、家を出る。これでこの周辺の家はあらかた回り切っただろうか。掃討作戦の成功には、領民の協力が必要不可欠だ。


「結構話し込んでしまったみたいだな⋯⋯」


 訪問前は上空で転々と輝いていた太陽。しかし今は色を変え、山の影に隠れようとしている。街灯が付き始め、街が夜の準備を始めていた。


 でもさっきの話し合いですべての準備が終わった。後はこちらの用意が出来次第、山賊達の砦に攻め入るだけだ。


「お、お兄さーん!」


 振り返ると、息を切らせたカコが走っている。ひどく慌てた様子だ。


「た、大変です!大変なんです!」


「ど、どうした?落ち着いて。深呼吸深呼吸」


「は、はいっ!すーはー、すーはー」


 両手を広げて空気を息に取り込むカコ。少しずつ呼吸が整っていく。


「落ち着いたか?」


「はいっ!」


「それでどうしたんだ?なにかアクシデントか?」


「そーなんです!大変なんです!リンちゃんが!」


「⋯⋯リンカがどうかしたのか?」


「地図を持って、1人で山賊の砦に行っちゃったみたいなんですっ!」


「⋯⋯なんだって!?」






【リンカ視点】

「ったく⋯⋯歩きにくいわね。ちゃんと整備しなさいよ⋯⋯」


 山賊の砦近く。私は1人、傾斜のついた山道を登っていた。全然手入れしていない自然の道。明かりを使えないことも手伝い、かなり難儀な山登りになっている。


「賊如きに慎重になっちゃって⋯⋯そんな奴ら私1人でぶっ潰してやるわ」


 自然と手に力が入る。昨日の屈辱が脳裏によみがえってきた。


『詰めが甘いこと。それが君の弱点だ』


 イライラする。変態野郎に負けたうえに、弱点まで分析された。あいつは分かっていない。私が今までどれだけ努力してきたか。積み上げてきたか。それが昨日の敗北で全てぶち壊されたのだ。


「私ならやれる⋯⋯!仲間なんていらない⋯⋯!」


 自分の力で完膚なきまでに叩きのめす。そしてあいつらに泡吹かせてやる!


 そんなことを考えていると。


「おいっ!そこで何をしているっ!」


 突然、前から数個の火の玉が近付いてくる。


 ボロボロの衣に、無精ひげ。この辺りを支配する山賊どもで間違いない。


 それにしてもなんで気づかれたの⋯⋯!?


 松明も使っていないのよこっちは!


「んん?よく見たらいい女じゃねぇか⋯⋯捕まえて売りさばくかぁ」


「動くなよ⋯⋯、抵抗しなければ怪我しなくて済むぜ?」


 いやらしい手つきでにじり寄ってくる山賊達。気持ち悪い視線が体を撫でまわしてくる。⋯⋯やっぱり男なんて碌なものじゃない。


「ひひひっ⋯⋯ひっ!?」


 だからその下衆の顔に一発蹴りを見舞ってやった。当然よ。捕まってやる気なんて微塵もないもの。


「⋯⋯このアマっ!」


 こいつらも本気になったみたいね。気色悪い笑みから一転、険しい顔つきで武器を構えた。予定より少し早いが、まぁいいかしら。


「かかってきなさいよゴミ共。私の槍の錆にしてあげる」


「ぬかせ女っ!」


 一斉に飛び掛かってくる山賊ども。思わず笑みがこぼれる。


「ぐはっ」


「ぎゃあっ!」


「があっ!」


 ⋯⋯弱すぎ。もう3人か。


「あの変態でももうちょっと動けてたわよ?」


 トロ過ぎてつまんないわ。あくびでそう。


「これならあいつらなんていなくても余裕ね」


「⋯⋯調子に乗るなよっ!これを見やがれ!」


「なっ⋯⋯!」


 私の目の前に現れたもの。


 それは少女であった。服を全て剥ぎ取られ、後ろ手に拘束されている。


 如何にも下衆共がやりそうなことね⋯⋯!


 何より、首元には鋭い短剣が突きつけられている。


 どういう意味かは瞬時に理解できた。


「⋯⋯人質とらないとあんた達戦えないの?とんだ臆病者ね?」


「う、うるせぇ!動くんじゃねえぞ!少しでも抵抗したらぶすりだっ!」


「ひっ⋯⋯!」


 少女の肌にナイフが食い込む。皮膚が少し切れたのか。出血し始める。


「やめなさいっ!」


「じゃあ武器捨てて、跪いけ!両手は頭の後ろだっ!」


 武器を捨てるということ。


 それはつまり降伏を意味した。


 この私がこんな奴らに負ける⋯⋯?


 そんなの、ありえない。


 私は負ける訳には⋯⋯!


「早くしろぉ!このガキ殺しちまうぞ!!」


「⋯⋯っく!」


 愛用の武器を放り投げる。


 丸腰に、なってしまった。敗北がすぐ側まで迫っている感じであった。


 ⋯⋯次は跪くのだったわね⋯⋯。


「おっとちょっと待て。⋯⋯せっかくだからここで身体検査もするか。おら、脱げっ!」


「はっ、はぁ!?なんでよ!武器は捨てたじゃないっ!?」


 こんな奴らの前で脱ぐなんて⋯⋯!そんなの出来る訳⋯⋯!


「うるせぇ!ガキがどうなってもいいのか!?」


「⋯⋯っ!」


 震える手で、青色のジャケットに手を伸ばす。こんな奴らの前で脱ぐなんて⋯⋯!屈辱以外の何物でもない。


「おらおらっ!早く脱げや!じゃねえと待ちくたびれてうっかり殺しちまうかもなぁ!」


「この、下衆どもがっ⋯⋯!」


 ジャケットを放り投げ、ブラウスに手をかける。


 ボタンをはずし終えた時、男どもから歓声があがる。


「でけえ~!」


「あの巨乳なら高く売れるぜっ!」


「揉みしだいてやりてえなぁ!」


 浴びせられる不埒な言葉の数々。耐えろ。耐えろ私。あの子のために。


「お、おねえさん⋯⋯」


 少女と目が合う。


 そんな不安そうな顔すんじゃないわよ⋯⋯。大丈夫。大丈夫だから。


「大丈夫よ⋯⋯絶対助けるから⋯⋯」 


「おらっ次はスカートだっ!」


「⋯⋯」


 覚悟を決めなさい、リンカ!


「おっ!意外と躊躇なくいったなぁ!」


「ブラも行くかぁ?」


 言われなくても分かってるわよ⋯⋯!外せばいいんでしょ!外せば!


「「「おおっー!」」」


「⋯⋯っ!!」


「綺麗な桜色じゃねぇか!」


「こりゃまじで得した!」


「真っ赤な顔してるぜ!恥ずかしいか?恥ずかしいよなぁ!ヒャハハハハ!」


 虫の這うような視線が胸に集まる。まじで、見るんじゃないわよ⋯⋯!


 ナイフを突きつける男もニヤニヤと笑う。


「まさかガキ守るためにここまで従順になるとはなぁ⋯⋯褒美だ。下は勘弁してやろう⋯⋯さぁ跪け」


「⋯⋯」


 悔しい。


 こいつらの汚い手如きで、あっけなく負ける自分の力のなさに。


 膝をつき、両手を頭の後ろで組む。完全なる敗北。


 ⋯⋯馬鹿ね、私。


 こんな時になんで、あの変態の顔が⋯⋯。


 あいつだって下衆な男の1人なのに。


 でも。






「⋯⋯⋯⋯助けて、ヴォルク」



 






 


 



 


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