第13話 気に入らない男を追い出すために
その日の夜。
俺は騎士団の面々を食堂に集めた。
「珍しいな。リンカがいるなんて」
「まぁ今日ぐらいはね?それで用件は?」
⋯⋯妙に上機嫌だな。女は本当に難しい。
でも触れたらまたビンタが飛んできそうだし、さっさと本題に移るか。
「今日、街で山賊による襲撃があった。幸い死者は出ていないが、積荷が奪われ、その上女児も誘拐された」
「そんなことが起きてたんですね⋯⋯知らなかったです⋯⋯」
「そこで俺は山賊の掃討作戦を提案したい。ソフィ、賊の情報を」
「はい。皆さんこれを」
ソフィが食堂の机に大きな紙を広げる。どうやらこの周辺の地図みたいだ。
「ここがシルニフィア領。隣にはネズ領がありますが、賊はこの領地境界線に聳える山に砦を築いているようです」
「砦か⋯⋯中々大規模だな」
「そうですね⋯⋯相手の人数もわかりませんし、骨が折れると思います」
「ソフィちゃん。補足いいかい?」
これまで黙っていたミステリアさんがひらひらと手を挙げた。
「どうされました?団長」
「山賊の人数、50人ぐらいだと思うな」
「だんちょー、どうしてわかるんですか?」
「ちょっと見てきたからね。信じてもらっていいよ」
役に立つだろと言わんばかりにニヤニヤするミステリアさん。見てきたという言い方といい、この人は底が見えない。
「⋯⋯50人か。それなら⋯⋯」
「ヴォルクさん?」
「俺に案がある」
聞いてくれるか、と続けようとした時であった。
リンカがすっと手を挙げた。
「リンカ?どうした?」
「あんたさ⋯⋯何仕切ってんの?」
「えっ?」
「来たばかりの新参者が⋯⋯しゃしゃりすぎじゃない?」
「リンカさん!」
「あらソフィ?そいつ庇うの?あんたも尻軽になったわね」
「⋯⋯っ」
「リンカ。前、俺が無礼を働いたことなら謝罪する。⋯⋯だからソフィにそんなこと言わないでくれ。仲間だろ?」
「仲間?はっ⋯⋯虫唾が走る!」
リンカは馬鹿にしたように顎を上げる。
「私に仲間はいないわ。ここだって宿代わりに使ってあげてるだけ」
「リ、リンちゃん⋯⋯怖いです」
「⋯⋯勝負しなさい。ヴォルク・スゥベル。あんたが勝ったらなんでも言うこと聞いてあげる」
つかつかと近づくリンカ。その足は俺の前で止まる。
「私が勝ったらこの騎士団を出ていきなさい。私の前から失せろ」
「リンカさんいい加減に⋯⋯」
「⋯⋯いいだろう」
「ヴォルクさん」
「ミステリアさん、構いませんよね?」
俺の言葉にミステリアさんは笑顔で頷く。
「青年の自己紹介も簡単にしか出来なかったしね。ここらで君のこと、もっと知ってもらっちゃおうか」
「一本勝負でいいか?」
場所を変えて中庭。リンカと対峙する。彼女の腕には背丈ほどの長さの槍が鈍い輝きを放っていた。
「なんでもいいわ。私が勝つのだから」
ソフィやカコと違い、リンカの強さは全く分からないが、この自信である。おそらくかなりの実力なのだろう。油断はできない。
「準備はいいかしら?今降参すれば、土下座で許してあげてもいいわよ?」
「生憎、俺は好奇心旺盛なんでね。降参もしないし、勝ちにいくさ」
「⋯⋯そう。ケガしても知らないわよっ!」
リンカが間合いを詰めてくる。勢いのまま放たれる突き。横っ飛びで交わす。リンカも体を回転させ、追撃してくる。槍の先端が頭上すれすれを通過していった。
「どうしたの!?攻撃してきなさいよ!」
自身の優位を感じ取ったか、挑発するようにリンカが叫ぶ。
彼女は強い。槍を早く、正確に自分の体のように操っている。これほどの使い手は中々いないだろう。
「すごい⋯⋯!ヴォルクさんを押してる!」
「リンちゃんあんなに強かったんですねっ!」
「勿論リンちゃんが強いのもあるけど、相性もあるね」
「相性?」
「そう!槍は剣に比べリーチが長いという大きなアドバンテージがある。人によっては剣で槍に勝つには数倍の力量は必要と言われるほどね」
「ええっ!じゃあお兄さん相当不利じゃないですか!」
「そうだね~、でも彼がこんなもんははずがないでしょ」
期待が重いっ!
こっちは割と余裕ないんだけど!?
「決闘中に考え事!?随分余裕じゃないっ!」
「やばっ⋯⋯!」
いつの間にか跳躍し、空中を舞うリンカ。体重を乗せた一撃が振り下ろされる。地面が割れ、砂埃が舞った。剣が空中を舞い、突き刺さる。
リンカはそれを確認し、高笑いした。
「やった!勝ったわ!何が王宮騎士よ!大したことなかったわね!」
余程手ごたえがあったのだろう。武器を下ろし、完全に油断しきっている。
⋯⋯なるほど彼女の弱点が分かった。
それを伝えることにするか。
「本当にそうかな?」
「えっ⋯⋯?きゃあっ!」
驚いただろう。何しろ声がした途端、視界が回転したのだ。
そのままリンカを地面に組み伏せる。完璧な形で抑え込んだ。流石の彼女ももう何もできないだろう。
「⋯⋯なんで、剣ははじいたのに!」
「詰めが甘かったな。お前は強い。だが勝利を確信し、とどめを刺すことを疎かにした」
「ぐっ⋯⋯」
「はい勝負あり!2人ともお疲れ~!」
ミステリアさんが拍手しながら近づいてきた。
なんとか勝つことができた。来て数日で追い出されるなんて洒落にならない。
「⋯⋯大丈夫か?」
地面にうつぶせのまま動かないリンカに手を差し出す。
だが、その手が掴まれることはなかった。
「⋯⋯っ!」
「リンカさん!」
リンカは俺の手を払いのけ、屋敷の中に走り去ってしまった。
⋯⋯泣いていたな。当然か。彼女にとって俺は嫌悪の対象。そんな奴に負けた。プライドを傷つけてしまったかもしれない。
「手を差し伸べるべきじゃなかったな⋯⋯」
全く俺は女性の扱いがなっていない。反省しなければ。
「はいはい!もう遅いし今日は解散!明日、作戦会議した後夜に決行!そゆことでお疲れ!」
後味の悪い決闘を経て、夜は更けていく。
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