第9話 踏んだり蹴ったりの初任務

 時間は馬車旅の時まで遡る。


『実は青年を私が預かろうとしたのには、私なりに理由があるんだ』


『理由?』


『さっき私の騎士団の話したでしょ?』


『あぁ⋯⋯あの騎士団と呼んでいいか分からないやつですね⋯⋯」


『そうそれ。実はそこの所属する子達、ちょっとくせ者揃いでね⋯⋯君は王宮騎士団でのし上がってきたでしょ』


『まぁ⋯⋯かなり苦労しましたけど』


『君のことは結構調べたからね。年齢は18才、身長172、平民出身、性癖は⋯⋯』


『ほんとに何言ってんですか!?』


『にゃははっ!うそうそ!そこまでは知ーらない!』


『⋯⋯』


『ごめんごめん!それでさ、君に彼女達の指導係をしてほしんだ!』


『教育係』




 回想終了。


 時は現在の時間まで戻る。


「⋯⋯教育係か」


 ささやかな歓迎会から一夜。


 俺はソフィ、カコとともに洋館近くの森に来ていた。


 新生活初日、タイミングを見計らったように騎士団に魔物の討伐依頼が寄せられたのだ。


「すみませんヴォルクさん。本当はリンカも連れてきたかったのですが⋯⋯」


「い、いえ」


 申し訳なさそうに頭を下げるソフィ。銀色の髪が揺れ動き、甘い香りは鼻を刺激する。これは良くない。


「よーし!お兄さんにいいとこ見せちゃうぞ!」


 一方カコはテンションが高い。ぶんぶんと手に持った弓を振り回す。元気すぎるのは考えものだが、ないよりはよっぽどましだろう。


「あんまりはしゃぎすぎないようにな。どこから魔物が出てくるか分からないから」


 俺もカコちゃんに対しては冷静に話せる。なぜだろうと考えた時、カコちゃんの場合女性というよりも小動物と戯れているという気持ちになるからだろうか。とても失礼な話ではあるだろうが。


「もー大丈夫ですよっ!ボアなんかに遅れは取りませんから!」


 自信があるのか、カコの亜麻色の寝癖がぴょこぴょこと動く。


「それに今日は団長から私達の現時点の力を見せるようにと言われています。ヴォルクさんのお手を煩わせたりはしません」


 ソフィも手に持った杖をぎゅっと握りしめる。


 そんな決意表明を終えた後であった。


 茂みから、岩のような体をした巨大な猪型の魔物がゆっくりと俺達の前に姿を現した。。


「っ!2人とも戦闘準備!」


「お兄さん!手出しむよーですよ!」

 

 こいつが依頼に来ていたボアか⋯⋯!かなり大きいな!


『ブリザードっ!』


 真っ先に動いたのは意外にもソフィであった。


 氷のつぶてがボアの体を抉る。抉る。しかしボアの体に傷はない。


「⋯⋯っ!」


「はぁっ!」


 間髪入れず矢の雨が降り注ぐ。ボアにダメージはない。ほとんどの矢が魔物ではなく、地面に突き刺さってしまったからだ。


「ええっ!なんで当たらないの!?」


 2人に動揺が走る。ボアもそれを感じ取ったようだ。


「ブモオオオオオオオオオ!!」


 けたたましい叫び声をあげる。地面を蹴る。そのまま肩を怒らせて、突進してくる。


「きゃあああっ!」


「カコちゃんっ!?」


「カコ!」


 体当たりをもろに受け吹き飛ばされるカコ。小さな体が木の幹に叩きつけられる。すぐにソフィが側に駆け寄る。


 くそっ⋯⋯ほんとに大丈夫なのか!?


『ヒール!』


 カコの体が淡く光る。しかし生まれた隙。ボアは見逃してくれない。再び体を膨張させ、突撃する。


「⋯⋯っ!『ブリザード!』」


 再び氷の雨が獣を襲う。だが岩石のように大きな体。びくともしない。


「『ブリザード!』『ブリザード!』⋯⋯!」


 ソフィの杖から氷が止まる。⋯⋯まさか魔力切れか!?


「カコは!?」


「あ⋯⋯あ⋯⋯」


 弓を手放し、震えるカコ。その瞳には涙を溜めこんでいる。


 ⋯⋯委縮して体が動かないのだろう。


 ボアが鋭い牙を動けない2人に振り下ろさんとする。これ以上は、取り返しがつかなくなる。


「2人とも!すまん!」


 剣をボアの脳天に叩きこむ。2、3度魔物を呻く。巨体はふらつき、ゆっくりと倒れた。


「すごい⋯⋯あの魔物を一撃で」


「2人とも、けがはないか?」


「は、はい」


 2人の無事を確認し、安堵の息を吐く。


「それにしても」


 力なく横たわるボアを横目で見る。


 否応なく襲い掛かってきた魔物。やはり魔物は凶暴化している。このままではいずれか王国に甚大な被害が出るかもしれない。


『人為的に魔物が操られいる可能性がある』


「⋯⋯」


 ウィルが言った言葉を思い出しながら、森での初任務は終わりを告げた。


 





 

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