第8話 ミステリア騎士団三人娘 【h】

 風呂上がりの少女にビンタで意識を奪われてから数刻。


 俺は体を引きずりながら、集合場所であった食堂にやってきた。頬がひりひりと痛む。ゴブリンの攻撃より数段強力なものであった。間違いない。


「おー、来た来た!遅かったじゃない!私からのプレゼント、喜んでもらえたかな?」


「ビンタというおまけももらいましたよ⋯⋯!」


 やっぱあんたの仕業かこの野郎。


 これが上司になるのか⋯⋯先が思いやられる⋯⋯。


「やっぱりあんたの仕業だったのね!!なんてもん屋敷に入れてんのよ!」


 ミステリアさんの後ろには3人の少女。その1人、先ほどばったり遭遇した金髪の少女が顔を真っ赤にして叫んだ。


 ⋯⋯それにしてもひどい。まるでゴキブリのような扱いだ。


「別にいーじゃん、減るもんじゃないし~。リンカちゃんいい体してるんだから、もっとアピールしていくべきだと団長思うぞっ」


 そう言って目にも止まらぬスピードでリンカの後ろに回り込むミステリアさん。


 そしてそのまま、彼女の胸を揉み始める。手慣れた手つき。この団長が毎日のようにセクハラを働いていることがすぐに分かった。


「しれっと胸揉むなっ!⋯⋯んっ」


「うわっ、エロい声~!可愛いよ~リンカちゃん!」


 烈火のごとく怒り狂うリンカに対し、油を注がんばかりに追加のちょっかいをかけるミステリアさん。裁判の時にも思ったが、この人の心臓は鉄で出来てるのだろうか。俺にはできない。


 ⋯⋯俺はどうすればいいのだろうか。帰りたい。帰っていいですか?


「ふ、2人とも⋯⋯あの方がぽかんとされてますから、そろそろ」


「そーですよっ!早くしましょーよ!」


 蚊帳の外の俺を憐れに思ったのか、他の2人が会話に割り込む。


 ⋯⋯馬車の中でミステリアさんの言っていたことに偽りはなかった。この2人も系統は違うが相当の美少女だ。自然と顔が熱くなる。


「あー、それもそうだね。⋯⋯よし!待たせたね青年!うちの可憐な仲間達を紹介しよう!じゃあリンカちゃん⋯⋯」


「はぁはぁ⋯⋯」


 魔の手から解放された直後なのか、荒い呼吸を繰り返すリンカ。ミステリアさんはニヤニヤしながら再び話し始める。


「⋯⋯はちょっと無理そうだから、カコちゃんからいこうか!」


「あたしからですかぁ!?んーとんーと⋯⋯!」


 カコと呼ばれた少女は何も考えてなかったのか、頭を抱えて悩みだした。


「あーこれは長いかなぁ。じゃあソフィちゃん!行こうか!」


「えっ⋯⋯は、はい!」


 銀髪の少女、ソフィは戸惑いながらも、姿勢を正した。


「初めまして。ソフィと申します。騎士団では事務全般と魔法関係を担当しています。不束者ですが、よろしくお願いします」


 そんな簡潔な自己紹介を終え、ゆったりとした動作で頭を下げる。雪原のように透明感のある銀色の長い髪が僅かに揺れる。


「あ⋯⋯ヴォ、ヴォルクです⋯⋯よろしくお願いします⋯⋯」


 どうしよう⋯⋯めっちゃ可愛い。深緑の美しい瞳。白い陶器のような肌。身に纏う純白のワンピースが彼女の儚さ、清楚な雰囲気をより強く創り出している。⋯⋯天使ってこういう子のこと言うんだろうな。


「おい青年~、顔がでれでれしてるぞ~」


 にやにやしながら尋ねてくるミステリアさん。


 ⋯⋯この表情、無性に腹が立つな。


「で、でれでれしてないですっ!」


「ほんとかなぁ~、おっ、カコちゃん準備できた?」


「はい!」

 

 茶色い髪の少女が元気よく返事する。


 そして呼吸を整えると、滝のようにしゃべり出した。

 

「カコです!年は15才!趣味は食べることです!将来の夢は素敵な男の人と結婚してハッピーな新婚さんになることです!ヴォルクさん、でしたっけ?もしよかったらお兄さんって呼んでいいですか?あたし、お兄さんが欲しかったんです!仕事は勿論ですけど、お休みの日もたっくさん遊びましょうね!それからそれからぁ!」


「か、カコちゃん?それくらいでいいんじゃないかな?」


「ええっ!?まだ半分もいってないですよ!?」


「まだリンカさんがしてないから、ね?」


「むぅ⋯⋯そうですね⋯⋯」


 ころころと表情を変えるカコ。元気でとてもいい子そうだ。こんな明るい子なら俺の女性免疫向上の助けになってくれるかもしれない。


「ヴォルクだ。カコさん、よろしくな」


「呼び捨てでいいですよ!よろしくお願いしまーす!」


 他の女の子より少しリラックスして話せるし。


「じゃあ残りはリンカちゃんだね」


「⋯⋯」


 ⋯⋯めっちゃ睨まれている。目で魔物をも殺しそうな勢いだ。確かにガン見してしまった俺も悪かったが、全ての元凶はミステリアさんだ。


 そこのところを考慮⋯⋯は期待できなさそうだ。


「よ、よろしく」


「話しかけんな。あんたによろしくされる筋合いはない」


 そう吐き捨てると、リンカは食堂から出ていってしまった。


「ま、まぁ彼女は素直じゃないからさ⋯⋯ともかく!」


 ミステリアさんが手を叩く。


「自己紹介が終わったところで、早速仕事をしてもらおうかな!」


「⋯⋯仕事?」

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