第2章 三人娘と初任務

第7話 最悪な第一印象 【H】

 ミステリアさんとの波乱の馬車旅を終えて。


 俺はようやくシルニフィア領の中心街にたどり着くことができた。だが目の前に現れたのは俺の想像の斜め上をいくものであった。


「ミステリアさん⋯⋯これは?」


「ん?領主の館兼騎士団の宿舎だよ!私こう見えてもこの領地の領主だからさ~、権力者なんだよ~」


「⋯⋯幽霊屋敷の間違いじゃないですか?」


 目の前の屋敷は大きさこそ豪邸そのものであるが、他がひどい。


 レンガ造りの壁は至る所が欠け、ひびが入っているところもある。


 突風なんか吹いたら倒壊しそうなほどのボロ屋敷である。


「ここに他のメンバーも暮らしているんですか?」


「時々床抜けるけど、広いし住みやすいと思うよ!」


「それって住みやすいって評価していいんですか?」


「そんなこと言わずにさ!内部はそこそこ綺麗だから!さあさあ入った入った!」


 こっちはただでさえ女性オンリーの新職場に辟易しているのに⋯⋯。足が鉛のように重い。正直入りたくない。


 ⋯⋯だがしかし。いつまでもウジウジしているわけにはいかない。ミステリアに助けられたことは事実だし、何よりウィルを襲った奴の正体を突き止めないといけない。


「ここで頑張るしかない⋯⋯よしっ!」


 気合をいれろヴォルク・スゥベル!お前にはやるべきことが山ほどある。


 覚悟を決めて、館の中に足を踏み入れる。内心床が落ちないかビクビクしていたが、館は床を軋ませただけだった。


「ようこそシルニフィア領ミステリア騎士団へ!私達は君を歓迎するよ!」


 ミステリアが両手を広げ、歓迎の意を示す。古びた洋館に派手なドレスを着た美女。ミスマッチっぷりが半端ない。


「歓迎したところで他のメンバーと自己紹介をしなきゃね!みんないるかなぁ」


 いよいよか。3人しかいない同僚との対面だ。⋯⋯その前に。


「すみません、お手洗いってどこですか?」


「んー?あ、トイレね!向こうの階段近くのドアを開けたところだよ!」


 彼女の指が階段付近のドアを指し示す。


「じゃあ先に皆を集めとくから!食堂集合ね!ちなみに食堂はこの正面の大きな扉を開けた先だよ」


「ありがとうございます!すぐ行きます!」


「いえいえごゆっくり~」


 ミステリアさんと別れ、彼女に教えてもらったドアの前に立つ。


 みんなを集めると言っていたが、他のメンバーは全員ここに住んでいるのだろうか?


 だとしたら共同生活か⋯⋯。この体質がでないことを祈るしかない。特に第一印象は大切だ。そんな時にあれの力で胸を揉みしだこうものなら⋯⋯。


「間違いなく死ぬ⋯⋯社会的に、職場的に⋯⋯」


 その後は針の筵の中、過ごさなくてはならなくなる。何がラッキースケベだ。俺にとってはアンラッキースケベじゃい。


「ともかく今は自己紹介だな⋯⋯気の利いた自己紹介って何を話せ⋯⋯」


 そんな思考を巡らせながら開けたドアの先。




 1人の美少女が、タオル片手に全裸で立っていた。




「⋯⋯ば」


 目を背けなくては。頭ではそう分かっていても、体は言うことを来てくれなっかった。

 

 向日葵のように美しい黄金の髪、こちらを見つめる空色の瞳。何よりミステリアさんにも劣らないプロポーションの体。10人が10人美少女と答えるであろう美貌である。

 

「⋯⋯」


「⋯⋯」


 両者の間で沈黙が流れる。


 ⋯⋯状況は最悪だ。第一印象もクソもない。なんとか弁明しなくては⋯⋯!


「お、俺の名はヴォルク。こ、これからよろしく」


 ⋯⋯やっちまった。全裸の女性を目の前にして思考力が低下した脳は機転の利いた言葉を創造してはくれなかった。出てきたのは意味の分からない着替え覗き男の自己紹介。最悪だ。


「⋯⋯っ、何がよろしくよ!この変態があ!」


 屋敷内に乾いた音がこだましたのだった。

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