第6話 新天地へ 【h】

 あの嵐のような裁判から一夜明け。


 俺は馬車に揺られて、新天地へ向かっていた。


 いらないとは思っていたが、馬車の免許を取っておいてよかった。目的地のシルニフィア領は王国の最南端。歩いていくとなると途方もない時間と労力がかかっていた。


「やぁヴォルク君!馬車の旅、楽しんでるかな?」


 当然あの謎の女性、ミステリアさんも一緒である。馬車の旅が始まって数日が経過したが、彼女のテンションは変わらず高い。


「は、はい。それなりに⋯⋯」


「ほんとかなぁ?今からしばらくは一緒に過ごすんだ。仲良くしようじゃないか!」


 女性、それも美女と2人っきりの馬車の旅。


 うらやましいと思う男性は多いのだろう。


 ならお願いしたい。代わってくれ!本当に!


 この旅しんどいことしかない!


 ⋯⋯いや断言はできないな。人生初の馬車の旅。見える景色は美しく、吹く風は心地よい。心が豊かになる体験とはまさにこのことであろう。


 だがだ。


 馬車内の環境がとにかくよろしくないのだ。主にこの横で執拗に絡んでくる女性関係で。


 この人、とにかく羞恥心がないのだ。


 この前だって。


『あー、もう夜かぁー着替えないと』


『えっ?あっ!ちょ、ミステリアさん!何服脱いでるんですか!?』


『今着替えるっていったじゃん』


『せめて布で仕切るまで待って下さい!』


『やだめんどくさい!』


『うわあああ!!子供かよぉ!脱ぐなっ!脱ぐなぁー!』


 ⋯⋯あれは大変だった。


 あれ以降、馬車の中には終始布が垂れ下がっている。もっともこの人には全く効果がないようだが。


 それにしても⋯⋯デカかったな⋯⋯。


 果物にメロンと呼ばれるものがある。人の顔程の大きさの丸く、甘い果物である。


 それが胸部についているかのようだった。


 そしてその先端には⋯⋯。


「⋯⋯っ!」


「あれどしたの?鼻血?拭くものあったかなぁ」


 ⋯⋯いかんいかん。


 不埒なことを考えてしまうとは。修行が足りない。今日の素振りを2倍にしよう。絶対しよう。


「ほら青年!持ってきたぞぉ!」


「あ、ありがとうございます」


 ミステリアさんから受け取った布で鼻を拭う。妙に視線を感じ、首を回すと俺の様子を美女がじろじろと見つめていた。


 な、なんだこの状況は⋯⋯。人にこんなに鼻血の後始末をしている姿を見られたことない。新手の羞恥プレイなのかこれは。


「そ、そういえばミステリアさんは領主であり、騎士団をお持ちなんですよね?どんな感じの騎士団なんですか?」


「んーそうだなぁ」


 よし。話題提供成功。どこかでは聞いておきたいことでもあるし、ちょうどいいな。


「とにかく小さな騎士団かなぁ。でもいる娘は皆いい娘達だよ」


「なるほど」


 辺境の地にある騎士団だ。きっと平和でそこまで人手がいらないのだろう。気の合う仲間だと⋯⋯ん?


「ミステリアさん、1つ確認していいですか?」


「ん?なんでも聞きたまえよ青年!」


「こんなこと聞くのはおかしいですが、騎士団の男女比が知りたいです」


 頼む。気のせいであってくれ。俺の早とちりであってくれ。お願い!ミステリアさん!


「んー⋯⋯この場合どっちだっけ?⋯⋯0:10?」


「⋯⋯男性ばっかりってことですよね?」


「違う違う!うちは可愛い女の子ばっかりな華やか騎士団さ!全団員数3人!明るくアットホームな職場さ!」


 まじか。


 ⋯⋯まじか。


 つい先日まで少しずつ女の子に慣れていくはずだったのに。いきなりベリーハードな環境に放り込まれてしまった。それも少なっ!それって騎士団名乗っていい人数なの?


「俺は生きて帰れるのか⋯⋯」


「欲情してかな?頼むから子作りは双方の同意のもとにしてちょうだいね!」


「そういう意味じゃないです。流れるようなセクハラやめてください」


「楽しいからいーじゃんっ!⋯⋯あ、そうそう」


「?」


「王子、生きてるよ」


 今晩カレーよぐらいのテンションで衝撃の事実が告げられた。


「ほ、本当ですか!?」


「ほんとさ。そんな不謹慎な嘘はつかないよ。ただ危ない状況に変わりはないみたいだけどね」


「そうですか⋯⋯!」


 目の前が明るくなっていくのを感じた。生きている。今の俺にはそれで十分だ。


「さて!王子も頑張っているんだから、青年も頑張ってこう!」


「⋯⋯ガンバリマス」


 多くの謎とともに、受難な新生活が始まろうとしていた。


【第一章 完】

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