第128話 救出

 何時もの様に武器を持った相手には香織、静江、澪と姫野先輩が対応し、素手の相手は麗衣、亮磨先輩、恵、勝子が対応した。


 俺と吾妻君は敵を蹴散らしながら美鈴先生の所へ近づこうとした。


 だが、四人の男達が俺達の前に立ちはだかった。


「邪魔だ! 退け!」


 拳を振り上げて襲い掛かって来た男の膝に俺はジャブの様に素早く前蹴ティープりを当てると下半身に気を取られた相手の動きが止まった。


 俺は前蹴ティープりの左足を下ろした勢いで跳躍し、拳を捻りながら敵の顔面にパンチを当て、フォロースルーを効かせると、派手に鼻血を吹きながら敵が吹き飛んだ。


「ひいっ!」


 所謂スーパーマンパンチに恐れをなして敵達は一瞬フリーズしたが、その隙を吾妻君は見逃さなかった。


「やあっ!」


 サウスポースタイルに構えた吾妻君は跳躍しながら右ストレートで敵の一人を打ち抜き、素早く右方向へサイドステップした。


「クソっ!」


 相手は反撃しようにも死角に入られ反撃できない。


 体の軸を回転させ、その力を利用して右のショートフックを放ち相手の顎に引っかけると更に右を戻すタイミングで間髪入れず左のショートパンチで相手が一瞬グラつく。

 止めに右膝を回転させ、右フックをテンプルにヒットさせると敵は前のめりにぶっ倒れた。


 右ストレートからサイドに入り右フック、左ショートストレート、右フック。


 特にサイドからの三連打はとんでもない速さだった。


「うわあっ……鬼のコンビネーションだね。素人があんなの喰らったら立ち上がれないよね」


「ありがとうございます! ボクは武先輩や勝子先輩みたいなパンチ力は無いですから手数で倒さないと駄目なんですよ」


 スピードは伝統派空手の使い手である香織とほぼ同じぐらいだが、動きが直線的な香織と比べると円の動きで様々な角度から攻防が出来る吾妻君はやはり強い。


「頼りにしてるよ。じゃあ、あの二人もさっさとやっつけちゃおう」


「ハイ!」


 俺達が突っ込んで行くと、敵は鋭いハイキックで迎え撃ってきた。


「おっと!」


 俺がスウェーバックで蹴りを躱すと、敵はくるりと体を回転させた後、タックルを仕掛けてきた。


 総合か!


 硬いコンクリの地面でのタックルは腕や膝を負傷するリスクがあるし、寝技の攻防は現実的では無いが、それでも倒されてしまえば俺はほぼ何も出来ない。


 普通に考えればキックボクサーである俺が総合相手に勝ち目がないと思われる。


 だが、俺は倒されづらいように奥足を引き、両足タックルを受け止めると右手を相手の首に回し、両手でクラッチした。


「くっ!」


 相手は尚も俺を倒そうとするが、MMAクラスも経験している俺は簡単には倒されない足腰を身に着けていた。


 俺は右手を深く差し入れて、クラッチが相手の首の横に出すと、そのままタックルの勢いに逆らわず、ガードポジションを取り、ギロチンを極めた。


「あ……が……」


 引き離そうともがいていた男が腕の中で力が抜けるのを感じ、男を解放すると男は白目を剥いて落ちていた。


 やはり、思った通りだ。


 総合をやっているからと言って強いとは限らない。


 MMAクラスも経験した俺はキックボクシングとは比較にならない練習量とやる内容の多さから直ぐに強さに結びつくとは限らない事を知っていた。


 短期間で強くなりたいのであれば恐らく総合を習うよりも、限られた攻撃手段を磨くボクシングやキックボクシングの方が適しているだろう。


 この男は実戦で格闘技を使う相手と戦えるほど練習を積んでいなかったと言う事だろう。


「武先輩! ギロチンチョークなんか出来たんですね! 凄いですね!」


「そう言う吾妻君もソイツもう落ちているんじゃない?」


 吾妻君は相手の頭を両足で絞める、所謂三角締めで相手を極めていた。


「そうですね~ボクもコンクリで背中痛いし、これ以上やったら殺人犯になりそうなのでこの位で止めておきますか」


 吾妻君も落とした男を解放し、俺と二人で先生のもとへ駆けつけた。


「先生……先生! しっかりしてください!」


 長い睫毛が掛かる二重の瞼は閉じられたままで、俺の声に反応しなかった。


 仕方が無いので俺は先生を抱きかかえ、吾妻君に言った」


「ここは危険だから、一旦先生を姫野先輩の車まで運ぼう。応急手当の道具もあるはずだ」


「ハイ! もし襲われたらボクが撃退します!」


 頼もしい後輩はそう約束してくれた。

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