第123話 ヤンキー女達と水着で遊べる温泉に行きました

「いや~。美鈴ちゃんに来て貰って良かったわ」


 結局、麗のメンバーと姫野先輩の卒業旅行は亮磨先輩と美鈴先生が着いて来る事になった。


 教師の立場にある美鈴先生や以前喧嘩した亮磨先輩が来ることに反対するものかと思いきや、予想に反して麗衣は上機嫌だった。


「中防連中の足をどうしようかと思っていたし、武はあたしのケツに乗せるか、電車で来させるしかなかったもんな。車二台あるから助かるわ」


 俺と麗衣、勝子と恵は美鈴先生のバンに乗り、澪、香織、静江、吾妻君は姫野先輩のクロカンに乗っている。


「確かに中学生組を電車で来させるのは可哀そうだしね……」


 とは言え麗衣のバンディットの後ろだけは絶対御免だけどね!


 因みに両方の車に乗っていない亮磨先輩はゼファー400に乗り、俺達の乗っている車の後を走らせていた。


「美鈴ちゃんに比べて赤銅の野郎、盗難なんかされやがって……。何のために呼んだと思っているんだよなぁ?」


 何故車を購入してゼファーを澪に譲ったはずの亮磨先輩が車に乗らず、わざわざゼファーに乗っているのかと言うと、念願の車購入早々盗難にあったらしい。


 その事を知らず、麗衣は亮磨先輩が車で来るものだと勝手に思い込んでいたらゼファーで集合場所にやって来たので「暑苦しいからテメーは車に乗んな」と言い、亮磨先輩は渋々そのままゼファーに乗って来たのだ。


「……やっぱり足目当てで亮磨先輩が来る事OKしたのかよ?」


「当たり前だろ? 何が悲しくて目的が見え透いたエロダコなんか連れてくると思っているんだ?」


「ああ。やっぱり亮磨先輩が姫野先輩の事が好きだって気付いていた?」


「分からねー方がおかしいだろ? まぁ、旅行先でコクってフラれてショックで事故っても、バイクならアイツ一人が怪我するだけだから構わねーけどな」


 エロダコ……じゃなくて亮磨先輩も酷い言われようだった。


「でもさぁ、ナンパの虫よけぐらいにはなるんじゃないのかなぁ?」


「確かにそういう意味じゃ武と香月だけじゃ頼りないけど、あの人が居たら気持ち悪くて近寄って来れないだろうしね」


 恵と勝子の言い分も酷いものだった。



 ◇



 神奈川県の温泉街にある水着で遊べる温泉・湯熱餐ゆねつさんに俺達はやって来ていた。


 1泊2日という事もあり、あまり遠い場所に行くよりは近隣の県の方が良いだろうと言う話になったが、水着姿が拝める温泉で男女比率が三対八、しかも男子一人がほぼ女の子(?)というのは男子組にとってご褒美以外の何物でもない。


 こうなるとエロダコが邪魔……いや、何でもない。


 水着に着替えた麗衣達が屋外アミューズメントに現れ、麗衣が大きく手を振った。


「おう! 武! 待たせたな!」


 麗衣はワントーンカラーでオレンジ色のハイネックスタイルのタンキニビキニを着ていた。


 あまり水着っぽくないボクサータイプのショートパンツは如何にも麗衣らしいチョイスだが、締まったウェストのくびれを惜しみなく魅せ、ハイネックでもその発達した胸の輪郭は隠しきれず、フロントクロスがセクシーな雰囲気を演出している。


 麗衣がタイマン時の姿であるスポーツブラとショートパンツの姿とはまた違った新鮮な色気を感じた。


「下僕武! 何麗衣ちゃんを視姦しているの!」


 黄色いフリルビキニを着た勝子が麗衣の前に立って麗衣に向けた俺の視線を遮った。

 バスト部分のフリルがコイツの貧乳を誤魔化し……ゴホゴホ。お子ちゃま体系を……ゲホゴホ。可愛く魅せていた。


「なっ……何ジロジロ見ているのよ?」


 止むを得ず勝子の観察をしていると俺の視線で察したのか?


 ほんのりと赤面しながら両腕で無い胸を覆った。


「……ふっ」


 俺が微笑を浮かべて呆れたように横を向くと、0.3秒後に瞬きよりも速い鉄拳が俺の顔面を打ち抜き、大きく首が捩れた。



 ◇



「武先輩! ウォータースライダーやりましょうよ!」


 可愛らしくリボンを結んだ形のピンク色のバンドゥビキニを着た香織は胸を俺の左腕にグイグイと押し付けながら誘った。


「ボクも一緒に行くよ香織ちゃん! 武先輩! ボクの水着は如何ですか!」


 吾妻君は白いフリルビキニに短めのパレオを腰に巻いていた。


 この姿なら勝子と同じく(?)胸が無い事もある程度誤魔化せるし、パレオで股間のブツを隠す事も出来るので、男だと分かりづらい。


 初見で吾妻君を男と見抜くのは至難の業だろう。


 ……というか、水着姿が勝子よりもある意味女子っぽいと正直に言ったらまだ俺に殺気を飛ばしている勝子にまた殴られそうだな。


「よく似合っているんじゃないのかな?」


「うわぁ~気持ち悪がらないで受け入れてくれて嬉しいです!」


 そう言って吾妻君は俺の右腕に抱き着いてきた。


 流石に慣れたから君の趣向を気持ち悪がったりしないけど、受け入れた記憶は無いぞ?


「というか、吾妻君……君は普通の男物の水着でも良いんじゃないのか?」


「え? だってこっちの方が武先輩も喜ぶだろうって恵先輩に言われまして」


 吾妻君は無垢な瞳で俺を真っすぐ見つめながら言った。


「恵! 適当な事言うなよ!」


 恵の言う事を信じ込んでいるに違いない吾妻君を凝視できず、赤いチェーンストラップの水着を着た恵に抗議した。


「だって君。いっつも吾妻君とくっついて嬉しそうにしているし、お似合いだと思うけどなぁ? 二人の行く末を祝福しているよ♪」


「お前は何時から腐女子化したんだよ……」


 ガチ百合なコイツからすれば薔薇にも理解があると言うのか……。


 というか恵の場合、以前は勝子と俺がお似合いだなどと有り得ない寝言をほざいていたぐらいなので、麗衣をめぐるライバルを一人でも減らそうとしているんだろうな。


「静江はウォータースライダー嫌なのか?」


 赤と白のストライプ柄の三角ビキニを着た静江に麗衣は訊ねた。


「はっ……ハイ! なんか途中で脱げそうな気がするので……」


「うーん……確かになぁ。これサイズ合ってるのか?」


 麗衣は布地の少ない胸元をまじまじと眺めると、静江は顔を真っ赤にしていた。


「ううっ……そんなに見ないでくださぁ~い」


「恥ずかしがるなら何でこんな人目に付くような水着にしたんだ? このケシカラン痴女め!」


 声と共に静江の脇の下から二本の手がにゅっと伸びて静江の胸を鷲掴みにすると、静江の体は弾かれたようにビクン! と跳ね上がった。


「はううううっ! 澪ちゃん止めてぇ~」


 静江は半泣きで後ろからたわわに実った果実をやわやわと摘まんだ澪に訴えた。


「はぁはぁ……暇な車の中でずーっと小碓クンの代わりにお尻触られ続けていたカズを思えばこの位のサービスは良いだろ! 美男美女のあられもない姿に囲まれてもう我慢できねーっ!」


 これは本格的にアカン。


 澪が草食獣を前にした餓えきった肉食獣の如く煌々と瞳を輝かせている。


 澪は目を充血させ、激しく息を切らせながらこちらまでタプンタプンと音が聞こえてきそうな程欲望の赴くままに静江の激しく胸をさすっていた。


 ……もしかして吾妻君もあの調子でここに到着するまで痴漢されて続けていたのだろうか?


 彼には悪いが澪と別の車で良かったッス。


 うん。


 静江には悪いが静江の痴態をもう少し眺める為……じゃなくて、澪を下手に刺激しない為に暫く静観するのが正しいよな?


「ふふふっ本当にやめて良いのかい? 奥さん? 口では嫌がっていても体は喜んでいるぜ……ってイテ!」


 初めてエロ漫画を読んだ男子小学生の様な事を口走る澪の頭に麗衣の拳が減り込んでいた。


「このアホウっ! 麗のメンバー同士でもセクハラ行為は禁止だって何回言えば分かるんだ!」


 頭をさすりながら姿を見せた澪はスクミズそっくりな競泳用の水着を着ていた。


 澪らしいっちゃ澪らしいがこんな場所に着てくる格好だろうか……。


「あははははっ! この子達面白いね。立国川高校ウチに入学するのが楽しみだよね」


 ベロア調でピンクベージュのワンショルダーストラップビキニを着た美鈴先生は止めもせずに面白がっていた。


 長身の先生のワンショルダーは大人らしい色気と魅力がある。


 この姿を見たと他の同級生に話したら嫉妬で殺されかねないだろうな。


「ふふっ。皆楽しそうだね。とても良い想い出になりそうだよ」


 トップストボトムスがつながっていて、大人びた黒いワンピース水着姿の姫野先輩が声を掛けてきた。


「アレ……姫野。お前その恰好は?」


 姫野先輩の姿に何か疑問に感じたのか? 麗衣は不思議そうな表情で姫野先輩に訊ねた。


「君が何時だったか、たまには制服以外で僕の女らしい姿も見てみたいなんて言っていたのを覚えていてね。如何だい? 似合っているかい?」


「ああ……そうだな」


 麗衣は短くそれだけ言うと、心なしか紅潮しているように見える麗衣は姫野先輩から目を逸らした。


 ボーイッシュな見た目の姫野先輩だから麗衣のタンキニビキニと似たデザインの水着なのかなと想像していたけれど、これはこれで中々イケている。


 ビキニより肌の露出は少ないが、ワンショルダーのデザインと長めで透き通ったパレオは姫野先輩に備わっている上品な魅力を引き立てている。


「なぁ……小碓。来て良かったよな。俺達」


 亮磨先輩は俺で隠すつもりなのか? 俺の後ろに立ち前屈みになっていた。


 後ろからその姿勢されると恵か澪あたりに勘違いされるから止めて欲しいが、俺も亮磨先輩の男としての本能を理解せずには居られなかった。


「ええ。来て良かった……というか今日まで生きていて良かったです!」


 アホ二人は今日と言う日を迎えさせてくれた神に感謝していた。

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