第112話 武器使いの戦い。(勿論勝子は武器相手でも素手っス。)
姫野先輩、環先輩、澪、香織、静江、吾妻君の六人が麗衣、勝子、恵、そして俺を守る様に囲み、壁を作った。
「武! アンタは少し休んでいなさい! 疲れたメンバーが出たら交代するか、万が一壁が突破されたら麗衣ちゃんと十戸武を守るのよ」
勝子に言われ、俺は頷いた。
確かに今の俺では足手纏いになりかねない。
心強い援軍のおかげで少しは余裕が出来たし、素直に休ませて貰おう。
それに、中学生組は体力がそれ程無い事が想定されるし、ピンチになったメンバーを助ける臨機応変さも必要になってくるだろう。
「分かった。勝子は如何する?」
「私も壁に加わるよ!」
そう言い残すと、振り向きもせず勝子は敵に向かって行った。
俺はピンチになったメンバーをすぐに助けられるように戦況を見守る事にする。
澪は木刀を持った男と向き合っていた。
右手のサイの先を男に向け、木刀を上段に構えた男を牽制する。
「チェストおっ!」
示現流気取りなのか? 気合だけは一丁前に、木刀男は澪に向かって 木刀を振り下ろしてきた。
澪は右手に持つサイを顔の高さまで上げ、
右足で踏み込みながらサイで受けた木刀を下に流し、そのまま物打ちで敵の額を強く引っぱたいた。
「ぐわあっ!」
木刀男が怯むと澪は右手のサイで敵の木刀を上から押さえつけると共に、左手のサイの
「がっ!」
敵は頭を押さえ、地面に崩れ落ちた。
サイの扱いに関して、澪はそんなに上手く無いと言っていたが充分実戦で通用するぐらいの技量を持ち合わせているっぽいな。
続いて静江の方に目をやると、静江はバッドを持つ男と戦っていた。
右足を一歩前に出し、胸前にヌンチャクを持つ中段の構えで敵と相対している。
「オラっ!」
バット男は叫びながらは静江にバットを振り下ろすと、静江は右手を額面前に取り、右手に握るヌンチャクでバットを受け止めるとともに、左手を右脇下に構え、右打ち込み姿勢を取る。
ヒュンっ!
左手を離し、右手で八の字を描くようにヌンチャクを正面に打ち込み、バット男の頬を叩いた。
「ぐわあああっ!」
頬を打たれたバット男が激痛で地面にのたうち回る。
速度と遠心力のついたヌンチャクで打たれたのだ。
恐らく痛みもパンチで殴られた時の比較では無いだろう。
戦闘力を奪った事を確認するためにバット男を見下ろしていた静江に対して、今度は鉄パイプを持つ男が斜めに鉄パイプを振り下ろしてきた。
「危ない! 静江!」
俺は慌てて警告を発するが、心配は杞憂に過ぎなかった。
静江はバットを躱しながら左足を正面に向き、右足を上げる左鷺足立ちを取り、同時に右打ち込みの姿勢を取り、ヌンチャクを上から鉄パイプに当てて地面に叩きつけさせると、返しに八の字に回したヌンチャクを男の頭部に叩き込んだ。
強い。
まだ麗衣との組手で見せたスイッチは入っていないようだが、ヌンチャクを使っているからなのか普段は弱気な静江とは思えない強さだ。
そして、香織はと言うと、二人の警棒を持つ男と立ち合っていた。
一人はよくある21インチ(約53センチ)の警棒だが、もう一人は26インチ(約66センチ)の大型警棒を握っていた。
「死ねや!」
先に21インチの警棒を持つ男は左手を前に右手に警棒を振りかぶりながら襲い掛かって来た。
香織は左前屈立ちの下段構えから、後ろ足を引き寄せながら左手を上げ、右足を踏み込むと同時に右腕の上段揚げ受けで警棒を受け止めた。
カン!
警棒とトンファーがぶつかり合う音が響き渡る。
音の余韻が消える前には香織は腰を廻し、中段逆突きをトンファーで男の腹を突いた。
「ぐふっ!」
21インチの警棒を持つ男はその場に崩れ落ちたが、香織が休む間もなく26インチの大型警棒の男が胴を狙って突いてきた。
香織は右前足を引きながら左手を振りかぶり、右足をうしろへ踏み込むと同時に中段内受けで警棒を反らすと、間髪入れず右手の中段逆突きをトンファーで男の土手っ腹を打ち抜いた。
「ぐええええっ!」
トンファーで、しかも利き腕で突かれたのだから威力は半端ではない。
分厚い脂肪も身を守る鎧にはならず、大型警棒の男は地面に蹲った。
更にグリップを中心にくるくると両手のトンファーを回転させ、長い部分を前にすると、近くに居た他の敵の首を両腕のトンファーで挟み撃ちした。
「あがっ!」
恐らく首の両方からハイキックを喰らったような衝撃だったのだろう。
失神した男は前のめりに倒れた。
受けによる防御も突きの技術も高い香織がトンファーを持つことで更にこれらの技術が活かされている。
こりゃあ俺が手を貸すまでも無いな。
これで武器を持つ敵は白木の棒を持つ総長とナイフを持つ者のみだ。
そのナイフを持つ男と勝子が立ち合っていた。
幾ら勝子でもナイフを持つ相手は危険では?
とは思わない。
アイツは短刀・大刀・棒術に対する訓練も受けていたらしいから剣道の有段者でもない限り、自分の敵では無いと言っていた。
それは恐らく事実だろう。
何故ならアイツは長野が自分よりも実力が上だと認めたように、虚勢を張ったりしないからだ。
「テメーの化物っぷりは散々見させて貰ったからな……殺す気で行かせて貰うぜ」
そう言いながら、男は歯の裏がセレーションと呼ばれるギザギザに波打つ刃渡り15センチ以上ありそうなサバイバルナイフを右脇に構え勝子の隙を窺い、突き込まんと身構えている。
勝子は右足を引き、相手の顔を睨みつけながら間合いを測っているようだ。
以前勝子から聞いた話では、ナイフを持った相手との間合いは相手が一歩踏み込んだだけでは届き難い位置を取るのが基本だと言っていた。
「くたばれっ!」
ナイフ男が気合諸共、一歩飛び込みざま勝子の胸に向かってナイフを突いた。
勝子は敵が踏み込む瞬間、素早く右足を踏み出し、敵の右側に廻り込みナイフを躱すと同時に右裏拳で肘関節を一撃するや否や、寄り足でサッと手許へ飛び込み、左手で敵の肘を押さえると同時に右アッパーで男の顎を突き上げた。
「ぐばあっ!」
アッパーを打ち貫かれた男は大きく海老ぞりになり、重力に逆らわず、後ろにぶっ倒れ、地面に激しく頭をぶつけ、ぴくりとも動かなくなった。
勝子の話では右足を進めて武器を持つ敵に飛び込むには敵が飛び掛かろうとする瞬間でなければならないらしい。
敵が身構えている所へ飛び込むのは危険であるし、敵が踏み出して来てからでは遅い。
その間合いと時機によって或いは進んで受け、或いは退いて外すので、この呼吸をよくのみ込まなければならないとか難しい事を言っていた。
「ちょーしこいてんじゃねーぞ!」
隠し持っていたのか? 勝子を怒鳴りつけた別の男はバリカンに似た形状の黒い道具を取り出した。
そして、男がスイッチを押すと、先端内側にある針金の様な二つの電極間に激しいスパークが走る。
その道具を見て、俺は勝子に警告した
「勝子気を付けて! ソイツはスタンガンだ!」
だが、俺の警告を勝子は鼻で笑った。
「フン。何も問題ないよ。あんなの当たらなきゃ只のバリカンと変わらないでしょ?」
勝子は怖がるどころか、バリカン呼ばわりした為、スタンガンを持つ男は激怒した。
「テメーはションベン漏らすまでコイツを押し付けてやらぁ!」
男はスタンガンを放電させながら、斜め上から叩きつける様にして踏み込んできた。
勝子は左に踏み込んでそれをあっさりと躱すと右手首裏で敵の腕を押さえると同時に手首を引っ掴み、左手を間接に当てて逆を取りながら、左足刀で敵の右高股を踏み込み、手足同時に挫き折った。
「いてええええっ!」
「五月蝿い黙れ」
勝子は虫でも潰すかのような表情で上半身を左に捻り、肘の角度を90度に曲げ、軸を捻って綺麗に腰から周り、拳に顎を引っかけるように放った左フックでスタンガン男の顎を打ち抜くと、痛みごとソイツの意識は吹っ飛んだ。
「勝子はやっぱり凄いな……相手が武器持っていても関係ないもんね」
俺が勝子を褒めると嬉しくもなさそうに答えた。
「中坊の時、一人で珍走潰した事あるんだけど、その時素手五人と武器持った相手を五人倒しているからね。この程度、なんてことないよ(「 魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡
」25・26話)」
え? 今、さらっと凄い事言ってなかった?
まぁ、勝子なら、そのぐらいやりかねないので、驚くことも無かった。
◇
ほぼ大勢は決していた。
総長以外に武器を持つ連中を澪、静江、香織、勝子が全滅させ、環先輩、姫野先輩、吾妻君はたった三人で素手の敵十人を倒していた。
特に姫野先輩の凶悪と言える破壊力を持つ31インチ警棒で容赦なく殴られた連中はご愁傷様というしかない様な状況だ。
タイマン前に倒した連中の中で数名、意識を取り戻した者が加勢したが、ゾンビでは戦力にならないだろう。
もう遠津を含め、動ける敵は5,6人に過ぎなかった。
30人居ながら10人にここまでやられたのだから、いい加減に敗北を認めても良いはずだ。
だが、遠津はこの状況で尚降伏せず、不敵な笑みを浮かべていた。
「やるじゃねーか! だったら俺もコイツを抜くしかねーな!」
遠津は白木の棒を握り、腕を引くと夜目にも鮮やかな刀身が現れた。
白木の棒は只の棒では無かった。
刃渡りが60センチぐらいありそうな刀が仕込まれていたのだ。
「仕込み杖か……」
姫野先輩の声に麗のメンバー全員に衝撃が走ったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます