第110話 周佐勝子VS国前巨菟名手 ボクシング+空手使い同士の戦い
私、周佐勝子の相手はこんな分かりづらい名前をした奴だった。
身長は170程度。
大男がそろう
「テメーが周佐勝子だろ? 何年か前はテレビでも出ていたよなぁ? (「魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡」第3話)当時はスゲー奴かと思っていたけど、実物がこんなチビじゃあ幻滅するよなぁ」
慣れ切った事だが、タイマン相手は私の姿をみると必ず見下した態度を取る。
「貴方だって男子では小さい方でしょ?」
「ちげぇねぇ。だがよ。この身長でもアマの試合じゃあライトウェルター級に出場しているんだぜ?」
アマチュアボクシングのライトウェルター級なら60キロ~64キロか。
日本人ボクサーとしてはかなり重い階級だ。
この階級の男子はかつて、世界選手権で日本人として初となる銅メダルを取得したオリンピアンの川内将嗣氏や、この川内氏を最後に破った日本人で、全日本選手権優勝後、プロに転向し日本スーパーライト級、及び東洋太平洋ウェルター級の王者になり、スーパーウェルター級にて一晩で十億円稼ぐ男、ミゲール・コットとWBO世界スーパーウェルター級王者をかけて対戦した亀海喜寛氏を輩出した階級だ。
その為、選手層が厚い階級というイメージがあるが、この男はどの位のレベルなのだろうか?
この身長なら大体アマチュアボクシングならバンタム級(52~56キロ)ぐらいが適正体重であると思うけれど、二階級上のライトウェルター級でやっているという事は、余程打たれ強い事が想像できる。
そして背が低いのだから私と同じファイタータイプでパンチが強いタイプだろう。
少しは倒すのに苦労するかも知れない。
私と国前巨は互いにクラウチングスタイルに構え、じりじりと距離を詰めた。
私は左ジャブで牽制と距離を測りながら近寄り、ジャブで更に距離を詰めるように見せかけ、左の軸足に体重を乗せ、右足の膝を抱え込む様に上げ、腰を回転させながら円を描くように蹴りだし、膝から下をしならせるようにして上足底で国前巨の横腹に蹴りを入れた。
「くっ!」
微かに国前巨は苦痛を上げた。
だけど、私は次の瞬間、危機を察知し咄嗟に上体と頭を下げた。
私の頭のつむじを風が撫でるようにし、数本の髪が舞うと、0.5秒前には私の頭があった場所に国前巨の上足底が振り抜かれていた。
これは国前巨の距離っぽいので私はバックステップして背後に逃れた。
「あれぇ? 貴方。ボクサーじゃないの? なんて聞かないよ」
「流石だな。オレもお前と同じで空手もやっていたんだぜ」
私の事をテレビで見た事があるのなら、当然私が空手も使う事も知っているか。
しかし、思ったよりやっかいな敵かも知れない。
自分よりも体重があるボクサー相手ならば、ボクサーにない空手の蹴りで翻弄出来る。
逆に空手使いならばボクシングのスキルで空手の弱点、顔面への打撃で倒す事が出来る。
あとは圧倒的なスピードと運動量で性差も体格の差も跳ねのけてきた。
だが、同じボクシングも空手も使う相手となると?
つまり、私と同じタイプが一番の難敵かも知れない。
「オラオラどうした! ビビっているんならこっちから行くぜ!」
国前巨は距離を詰めるとワンツーでこちらに襲い掛かって来た。
グローブが無いからブロックは難しいし、パリングで凌ぎきれるか分からない。
そのため、私はダッキングで左右に頭を振り、パンチを躱すと、国前巨は左足を軸に、蹴り足の膝を胸の近くまで抱え込むと腰を前に出しながら前蹴りを放ってきた。
私は腰を回転させながら右手の手刀で足首を掬う、空手の掬い払いで国前巨のバランスを崩した。
「やあっ!」
私はバランスを崩した国前巨に踏み込むと素早くジャブを当て、続けて左手を引きながら右ストレートを国前巨の頬に打ち込んだ。
「ぐうっ!」
だが、国前巨はバランスを崩した状態でワンツーを貰ったくせに倒れない。
国前巨は返しに左右フックを放ってきた。
一撃でも喰らえば失神しかねない、強力なフックの連打をU字にウィービングして躱すと、私は右ボディストレートを国前巨の水月に打ち込んだ。
「ぐふっ!」
並みの男子であればこの体格差でも悶絶するパンチだが、流石ライトウェルター級のボクサー。
この程度では倒れはしない。
ならば。
私は左ジャブを放ちながら踏み込む。
これはフェイントで国前巨のガードを上げさせると、爪先を槍の様にして腹に突き刺すように右の中段蹴りをぶち込んだ。
ダメージはそれ程ないかも知れないが、国前巨の意識が下に下がった。
私は更にステップインし、軽く膝蹴りの追撃をかけるように右膝をあげると国前巨は腹部を守る様にガードを下げた。
だが、これもフェイントで、上げた右膝をストンと落とし、サウスポースタイルになった。
「???」
膝蹴りと思いきや、まさかのサウスポースタイルになったのをみて国前巨は一瞬困惑した様子だ。
その隙を見逃さず、私はサウスポースタイルから脇腹に左ボディを打ち込んだ。
「何!」
右を警戒していたのに左のボディパンチに国前巨は驚いた様子だが、フィニッシュに右ボディをスピーディーに打ち込んだ。
「ぐううっ!」
国前巨は地面に蹲った。
左ジャブのフェイント、右中段蹴り、右膝蹴りのフェイントからサウスポースタイルへのスイッチ、左ボディ、右ボディ。
最初に左右で上下に散らし、右を充分警戒させたところ、想定外のサウスポースタイルからの左ボディと止めの右ボディ。
あの那須川天心も得意とするコンビネーションを左右逆にして一寸空手風にアレンジしたのだけれど、これだけでダウン取れるなんて、思った以上に効果があったみたいだ。
「ぐっ……流石……将来のオリンピック代表候補と……言われていただけあるぜ……だが、俺も
私は何かごちゃごちゃ言っている国前巨の顎を蹴り上げると、白目を剥いて気を失った。
「貴方レベル低すぎ。折角ボクシングと空手をやっていたのに、両方を組み合わせた攻撃には対応できていないよ。少しはディフェンスを磨いたらどうなの?」
まぁ、もう聞こえていないだろうけどね。
◇
本文に名前が登場する亀海選手の試合を何回か観に行きましたが日本人の中重量級とは思えない程凄かったです。階級をライト級に下げていたら間違いなく世界王者になれたでしょうね。そんな彼ですら世界のベルトを獲れなかったSウェルター級の層の厚さと言ったら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます