第105話 麗VS飛詫露斗 集団戦
環先輩は鉄槌を打つと対角の手を持ち替えた。
すると、大羽の左のスペースが開いたので左後方から斜めにパンチを叩きつけ、その後も容赦なく環先輩は大羽を叩きつける。
パンチ、鉄槌、パンチ。
パウンドでパンチが見えると相手が頭をずらしたり立ち上がって逃れたりしやすくなる。
その為、環先輩は片手は相手の首元を腕で押さえつけて、打つ側の腕を背中で隠しながら打つ。
隠して上から打ったり横から打ったり色んな軌道から打つ。
鉄槌、パンチ、鉄槌、パンチ、鉄槌。
大羽を抑えつける腕と攻撃する腕を入れ替えながら。
小刻みに攻撃を続け、身を起こしながら段々強力な攻撃を加えていく。
大羽がパンチを躱すと肘打ちに軌道が変わった。
パンチ、鉄槌、肘、鉄槌、パンチ、鉄槌、肘、鉄槌、パンチ……
「もう止めろや!」
大羽の顔が見る見るうちに血だらけになっていくのを見かねた
「タイマンの邪魔するんじゃねーよ!」
麗衣はすかさず左ハイキックで男の喉を打つと、男は白目を剥き、仰向けにぶっ倒れた。
「麗衣! 何やってんの?」
俺は麗衣の短慮を叱った。
男は環先輩を止めようとしただけの可能性も無いとは言えず、それを取り押さえるのではなく、いきなり攻撃し、失神させたのはやりすぎだった。
これでは
案の定。
「テメーやりやがったな!」
「いきなり蹴る奴が居るか?」
「これってタイマン放棄だよなぁ?」
「やっちまえコラアッ!」
「美夜受! 周佐! 雑魚どもを足止めしろ! 私はコイツに止めを刺す!」
環先輩は二人にそう命じた。
「ったくテメーが仕切ってんじゃねーぞ! でも、この状況じゃそうするしかないな。勝子! 恵! 武! 環を中心に囲んで環を守れ!」
麗衣がそう命じる。
「分かったよ麗衣ちゃん。一人で大体七人ぐらいなら余裕でしょ?」
勝子が隣で舌なめずりしながらそう言うのを見て、恵は溜息を吐いた。
「いや、私は三~四人が限度だと思う。集団戦は忠男さんや依夫さんの方が得意だったからね」
忠男の話によると、忠男と依夫は三回手合わせして二回は負ける程、恵は強いらしいが、依夫は
これは男女の体力差やタイマン向きか集団戦向きか等の要素があるのかも知れない。
「貴女、それじゃあフルコンの女子が初段を取得する条件の五人抜きも出来ないよ?」
「いや……あれは一人一人相手にルール内で組手するでしょ? 五人抜きできたとしても、一度に多人数の相手は難しいよ……って、そんな事話している場合じゃなさそうね。とにかく出来る範囲で頑張るよ!」
「ええ。せいぜい足を引っ張らない様に頑張りなさい。あと、武も気合入れなさい! 来るよ!」
警告を発した勝子が次の瞬間、殴りかかって来た
返り血を浴び、髪と頬を赤く染めた勝子はオープンフィンガーグローブに付いた血液を小さな舌で舐めながら言った。
「アンタ達。あんな風になりたい奴からかかって来なさい」
「―くっ!?」
恐らく勝子の仕草は相手を威圧する為のハッタリも込められているが、演出効果はてきめんだった。
躊躇して、攻撃せずに居ると
「何やってんだ? この人数差だぞ? さっさと袋にしちまえ! 女は倒した奴から優先して好きに犯していいぞ!」
勝子に対する恐怖と遠津に対する恐怖。
「「「うおおおおおおおおおっ!」」」
ヤバいなコレ。
俺は一人の男がパンチを振りかぶっている間にワンツー、特にツーのストレートが切れのあるパンチを食らわせ、ぶっ倒しながら考えていた。
重いパンチよりキレのあるパンチの方が顎に当てた時、脳が揺れやすくダウンを取りやすいなんて話を聞いた事がある。
押し込む様に重いパンチを打つとパンチに押され、それが支えとなり脳の振動を止めてしまうが、キレのあるパンチで当てた瞬間にパンチを離すと支えが無い為、脳の揺れが止まりずらいという理屈だ。
キレのあるパンチを優先的に覚えた俺は自然とKOパンチを身に着けていたという事になる。
その為、何時の間にかワンツーだけでも格闘技を使わない相手なら倒せるぐらい強くなっていた様だ。
だが、体力と拳がどこまで持つか分からない。
体力を消費しやすい蹴りは、長身の相手や少しでも格闘技を使うと思しき奴に対してのみ使うように温存する事にする。
「せい!」
恵は一本背負いでメンバーの一人を地面に叩きつける。
パンチも蹴りも一撃必殺の威力は無いと恵は自分で言っていたが、代わりに恵にはこの投げ技がある。
投げられ、背中や腰、あるいは頭部をコンクリに叩きつけられれば敵にとって致命的なダメージを与えられるのだ。
「うらあっ!」
麗衣のしなる鞭のようなミドルキックがメンバーの一人の土手っ腹に減り込むと、ソイツは地面に倒れ、ゴロゴロと転げまわりながら苦痛を訴えていた。
腕を破壊するミドルを直接喰らったのか。
何も鍛えていない一般の不良には死んだ方がマシと思える程地獄の痛みだろうな。
可愛そうに。アバラ折れてなきゃ良いんだが。
だが、これはまだ幸せな方だろう。
「あははははっ! アンタ等よわすぎいっ♪」
そう言いながら、メンバーの一人に天まで打ち貫かんばかりにアッパーを突き上げると、ソイツは糸の切れた人形の様に完全に脱力し、一切重力に逆らわず、ぐしゃりと地面に突っ伏した。
アレ顎完全に壊れてんだろ?
勝子に向かって行った敵に対して、ちょっと同情した。
◇
幸い格闘技を使う奴はあまり居なそうだ。
だが、数の差は如何ともしがたい。
麗衣と勝子は流石に息が切れていない様だが、俺も恵も三、四人位倒したところで息が上がって来た。
その時であった。
「お前等退け! これ以上見てらんねーよ!」
大羽ほどでは無いが、身長180は優にあるスキンヘッドの大男が一喝すると、あたかもモーゼが海を割ったように人垣が別れ、それぞれ170~180センチはあるスキンヘッドの男が三人、現れた。
「俺様は
一喝した大男は簡潔に自己紹介を行うと、後から現れた三人が続いた」
「オレは
「僕ぁ
「俺は
幹部のお出まし、しかも全員が格闘技の使い手かよ!
確かに他の雑魚どもとは一線を画した雰囲気だ。
ヤバいどころではない。
タイマンでも勝てるか微妙なところだろうが、他の奴らと一緒に襲われたら完全にアウトだ。
だが、意外な事に武諸木はこちらに有利ともとれる提案をしてきた。
「テメーラも格闘技を使う見てぇだなぁ? 見たところ、キックが二人、総合、ボクシングって感じか? 丁度、俺達と似たような感じだからよぉ。それぞれ4対4で喧嘩しようや?」
怪しい気もするが、武諸木の提案に麗衣は俺達に相談する事無く決めてしまった。
「上等じゃねーか! やってやるよ!」
麗衣が承諾すると、武諸木は幹部メンバーに声を掛けた。
「オイ! テメーラ、それぞれぶっ倒したヤツを好きにして良いからな」
「そうですかい。隊長補佐。じゃあ僕ぁあの男の子が良いな。丁度伝統派空手の使い手居ないみたいだし、キックは二人居るから、ヤリマンっぽい方の子は隊長補佐に譲るよ」
麻剥は俺を見てそう言った。
その好色そうな目つきに、自然と俺の背筋が震えた。
◇
如何でも良いかも知れませんが、敵幹部の名前(というか当作の登場人物のほとんど)は『日本書紀』景行天皇紀がモチーフになっています。
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