第102話 チーマーのバイクがZ2よりカブの方が良いって言うのかこの人?

「武おせーぞ! もうアイツは一人で行っちまったぞ!」


 麗衣は俺に怒鳴りつけた。


「え? それどういう事?」


 中学生チームと女子会で一緒に練習してから二週間程経った後の事だった。


 俺達『麗』は近隣最大の暴走族である飛詫露斗アスタロトにSNSと動画上で喧嘩を売られ、受けて立つ事になった。


 ここら辺の暴走族の規模としては大きいもので三十人を超えるらしい。


 それに対して、俺達の現在のメンバーは麗衣、勝子、恵、俺。


 四人しか居ない。


 姫野先輩は受験を控えている為、今回の事は伝えていないし、中学生チームも同じ理由で呼んでいない。


 30対4では流石に喧嘩にならないので麗衣は強力な助っ人を呼んだらしいが……。


「あのバカ! 群れるのが嫌いだとか電話してきて一人で行きやがった!」


 何とその助っ人は一人で喧嘩予定の場所に行ってしまったらしい。


「じゃあ、急いで行かないと!」


「ちょっと待て武!」


 麗衣は自転車のサドルに脚をかけた俺の肩をがしりと掴んだ。


「何で止めるんだよ! 早く行かないと、その助っ人さんやられちゃうよ!」


「いや……そうなんだけど、足がそれじゃあ時間がかかりすぎだろ……」


 鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードが解散後、麗の集合場所となった立国川公園に俺はママチャリでやってきたのだが、麗衣達はというと、皆バイクに乗ってきている。


「今まで足は姫野先輩の車だったからね……でも、アンタ。正式なメンバーになったんだから、せめて原チャリの免許ぐらい取りなさいよね」


 ビッグスクーターのヤマハNMAX155に乗っている勝子は車体と同じくマットグレーのオープンフェイスヘルメットを被っていた。


「いやジムの金払うので精一杯だし、今度中級クラス練習用の防具買う必要があるから金が無くて……というか、なんで麗衣も勝子もそんな高そうなバイク乗っているんだよ?」


 麗衣はスズキのバンディット250Vという4気筒エンジンがイケテる赤いバイクに乗っていた。


「あたしは姫野から譲って貰ったんだよ。勝子は兄貴から貰ったんだっけ?」


「うん。そうだよ」


「ふふふっ……私のカブちゃんは自腹で買ったんだぞ!」


 白いハーフキャップを被り、スーパーカブ110に乗る恵はドヤ顔を浮かべた。

 まぁコイツんち金持ちっぽいもんな。


「確かに自腹で買えたのは凄いんだけど、チーマーの乗り物がスーパーカブってどう言うセンスなんだよと思うんだが……」


「良いんじゃねーか? ウチ等族じゃねーし。バイク如きに気合入れる事もねーだろ?」


 麗衣は大して気にしていない様だ。

 いや、麗衣のバイクよく分かんないけど結構気合入ってねーか?


「それに女子全員がバイク乗っているのに武君だけ自転車って言うのはねぇ……」


 恵は意地悪く言った。

 確かにチーマーの乗り物としてはカブだろうがチャリに比べたら千倍マシだろう。


「何、高3になるまでには紅蓮のZ2でも手に入れて見せるさ」


 何年か前、不良が不良のままで教師になる破天荒な漫画がドラマ化するほど大ヒットしたが、その前身の漫画が暴走族を取り扱った不良漫画であり、主人公の一人が真剣勝負をする時に登場したのが紅蓮のZ2だった事を思い出して言った。


 俺としては冗談のつもりで言ったが、麗衣には不評の様だ。


「アホ。昭和の族車じゃ珍走と変わんねーだろうが。それよりか、テメーはあたしのケツに乗れ」


 Z2よりカブの方が良いって言うのかこの人?


 それはとにかく、ケツに乗れって女の子に言われると、なんかエロいな。


 ……なんって言ったら殺されそうだから勿論言わなかったけど。


 麗衣はポンとハーフキャップを俺の頭に乗せた。


「じゃあ、無駄話が長くなったけどさっさとアイツに追いつくぞ! しっかり掴まっていろよ!」


 麗衣はオフロードヘルメットを被りなおし、俺を座席の後ろに乗せると、エンジンをかけた。


 その様子を見て、恵は恐る恐る麗衣に聞いた。


「ねえ。麗衣さん。250ccのバイクでハーフキャップのヘルメットはいけないんじゃ……」


 は? 俺、このままニケツしたら違反って事?


「あ、そうなのか? あたし、まだ15歳だし中型免許持ってねーから知らなかったぜ。でも、時間がねーし、替えのメットもねーし、さっさと行くぞ」


 え? この前赤銅先輩のゼファー400乗っていたし、(第55話参照)恵のスーパーカブ110にも載っていたけど(第80話参照)中型免許持っていない?


 ……そう言えば以前、まだ15歳だから麗衣はキックボクシングのプロテスト受ける資格が無いとか言われていたっけ? (第34話参照)


 そういえば誕生日聞いてないけどまだ15歳ってこと?


 て、そんな事呑気に思い出している場合じゃない!


 原チャリの免許すら持ってないはずじゃん!


 ハーフキャップが違反とか言う以前の問題だろうが!


「ちょっ……ちょっと待って! 麗衣! 降ろしてくれえええええぇーっ!」


 俺の必死の叫びは虚しくもエンジン音に掻き消された……。




*必要な免許をお持ちでない方はくれぐれも麗衣の真似をしないで下さい。



 麗衣に似合うバイクでご意見を募集させて頂きましたバンディット250Vようやく登場です!


 貴重なご提案、ありがとうございました!


 バイク詳しくなくて申し訳ありません……。


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