第99話 武の評価
「うわーん! 怖かったよぉ……」
女子会解散後、中学生チームが全員一緒に帰宅の途につく中、香月はヘロヘロと地面にしゃがみ込んだ。
「や……やっぱり、カズ君から見ても小碓先輩って強かったの?」
「強いなんてもんじゃないよ! あのワンツーみた! ワンツー! ワンツーのリズムじゃないんだよ! 幻の右ってヤツ? まるでジャブとストレートが一緒に飛んできたみたいなんだよ! ワンツーが凄いのは動画で観て予測していたけど、実物は想像をずっと超えていたよ!」
静江が尋ねると、香月は興奮したようにワンツーを四回も繰り返し、早口で捲し立てた。
「あと、武先輩、蹴りも以前は使ってなかったよね?」
香織は首を傾げながら言った。
「そうだよ! 蹴りの事はよく分かんないけど、武先輩が蹴りを使えない前提であのルールにしたんだけど、バンバン蹴りは打ってくるし、ちゃんとパンチとコンビネーションで組み合わせてくるし、聞いてないよぉって感じだったよ」
澪はよしよしと慰めるように香月の頭を撫でながら尋ねた。
「兄貴から凄いって聞いていたけど、
「今はまだ武先輩の魅力が知られていないと思うけど、今後人気が出てくる事間違いなしの成長株。優良物件だと思うよ。ボクが本当に女の子だったら恋人に立候補したいぐらいだけど、香織ちゃんに譲るよ。香織ちゃんの記憶を上書きするには丁度良い人だと思うよ」
香月が意味深長な事を言うと、澪も頷きながら続けた。
「俺も勿体ねーとは思うけど、香織に譲るよ……もし付き合えたらたまに小碓クンのお尻ぐらい触らせてくれても良いよな?」
「澪ちゃん……、それは武先輩の意志もあるから付き合ったとしてもアタシが決められる事じゃないからね……静江は良いの?」
「わっ……わたしは特に小碓先輩の事は何とも思っていないから!」
「ははーん……静江は麗衣サンに惚れたな」
「えっ! そっ……そっ……そんなことないよぉ!」
かああっと恥ずかしそうに頬を朱に染めた静江を見て、澪は舌なめずりをした。
「図星だな! 可愛い奴め! 浮気した罰に胸もませろ!」
澪は静江の背後からにゅっと伸ばした手でガシリと両胸を掴み、やわやわとまさぐりだした。
「うーん……この幸せな感触……。実にケシカラン! この戦略兵器級の強力な武器で麗衣サンを誘惑するつもりだろ?」
「もおーっ! やーめーてーよーっ! 澪ちゃん! 助けてー! 香織ちゃん! カズ君!」
涙目で助けを求める静江を放置して、クスクスと笑いながら暫く見つめていた。
澪が静江をじっくりと堪能し、満足して解放してやるのを待つと香織は全員に問いかけた。
「じゃあ皆、武先輩はアタシが付き合って良いの?」
香織が中学生チームの皆に尋ねると口々に賛同の声が上がった。
「名残惜しいけどボクは賛成するよ」
「俺も賛成。でも小碓クンのお尻は譲らないからな!」
「かっ……香織ちゃんが良いなら賛成するよ」
こうして、中学生チームで香織が武の恋人に立候補する事に決定した。
「でも、武先輩。あんなに可愛いし強いし優しいっぽいのに麗の皆さんは誰も恋人にしたいと思わないのかなぁ?」
香月が首を傾げると3人娘(一人男の娘)よりも僅かに麗とのかかわりが長い澪が答えた。
「麗衣サンは勝子先輩との仲を疑っていたけど、俺にはそうは見えないんだよなぁ……勝子先輩の方は小碓クンに気があるかも知れないけど」
「え? 勝子先輩って恵先輩と同じで男子に興味がなさそうだし麗衣先輩が好きっぽくない?」
「うーん……それはそうなんだけど、麗衣サンと小碓クンの二人の間で揺れている感じっていうか、どっちも好きなんじゃないの? 俺が皆の事が好きみたいに」
「もう……澪ちゃんったら、アタシ達の前でまで道化にならなくても良いんだよ?」
「何の事かな? 皆は俺の恋人だろ? まぁ、それはとにかく、俺の見た限り、麗衣サンは小碓クンに気があるんじゃないか? あるいは麗衣サンが好きなのは……」
「恵先輩かな? よくベタベタしていたし」
「それは無いだろうね。勝子先輩に対してもそうだけど多分妹扱いじゃないか?」
「じゃあ誰なの?」
「俺の予想だと多分姫野先輩だと思う。まぁ、そうだとすれば好都合だけどね。あと小碓クンが好きなのは麗衣サンだよ。これは間違いないと思う」
「ふーん……じゃあ、麗衣先輩がその気になる前に小碓先輩をアタシに振り向かせて、アタシのモノにしちゃえばいいんだね♪」
香織は悪戯っぽく笑った。
◇
「はぁーっ……疲れたあっ……」
麗衣はキックボクシングジムでの練習後、家に戻り独り言ちると、家庭内ジムのマットレスに尻を着いた。
女子会……、生物学的な男子が二人加わり、今はそう呼ぶのが相応しいのか分からないスパーリング会での2時間程の練習後、キックボクシングジムに行きプロ選手やプロ選手を目指す会員が参加できる上級クラスの練習を2時間行ったのだ。
麗衣はプロ選手を目指している訳では無いが、将来トレーナーを目指しており、クラスへの参加が認められる2級を取得しているので上級クラスに参加可能であった為、参加していた。
上級クラスは1R3分でシャドー、ミット打ち、サンドバック、首相撲、マススパーリング、又はスパーリングを行う。
練習量は単純に計算して中級クラスの二倍なので疲労困憊だ。
そんな中、自動では開かない自動ドアがノックされる。
「誰だろう?」
時間は19時である。
約束も無しに人が訪れるには少々遅い時間である。
麗衣が自動ドア越しに外を覗くと、そこには吉備津香織が立っていた。
麗衣は自動ドアを開くと、香織に尋ねた。
「香織じゃねーか? どうしたんだ?」
「こんな時間に申し訳ありません……どうしても麗衣先輩にお話を伺いたい事がありまして来てしまいました」
香織が深々と頭を下げた。
「まぁ、こんな所で話すのも何だから上がって行けよ」
「ハイ。失礼します」
香織は靴を脱ぎ、中に入った。
「ここじゃあ大したもてなしもできねーし、あたしの部屋に来るか?」
「いいえ。ここの雰囲気好きですから、ここで良いですよ」
「そうか……じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
麗衣はジムの片隅から脚が折りたたみ式の円卓を持って来て、部屋の真ん中に設置した。
「飲み物いるか?」
「いいえ。お構いなく」
「んだよ、遠慮するなって。あたしもジム帰りで喉乾いているし、付き合えよ」
そう言って麗衣は冷蔵庫を開けるとボコリスウェット、通称ボコリという物騒な響きのスポーツドリンクのペットボトルとコップを二つ持って来た。
「では、お言葉に甘えて頂きます」
麗衣はボコリのキャップを開けると、コップに並々と注いだ。
麗衣と香織は二人ともコップに口を付け、少しボコリを飲むと麗衣から話を聞きだした。
「で、何の用で来たんだ?」
香織はいきなり本丸に乗り込んだ気分で、強気な香織も流石に話を切り出す事に緊張していたが、覚悟を決めると麗衣に尋ねた。
「単刀直入に聞きます。麗衣先輩って武先輩と付き合っていますか?」
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