第86話 何このハーレム作品みたいな展開?

 吾妻さん達の紹介終了後、麗の高校生チームが自己紹介をし、終わるとさっそく実力を見る為に練習を始める事になった。


 女子の着替えの時間だ。


 との事で俺は一旦ジムの外に追い出された。


 元が床屋なので中が覗きやすい構造なのだが、窓にはカーテンが引かれ、出入り口では勝子が鬼の形相で見張っている。


 うっかり覗きでもしてしまえば歯が全部無くなりそうなので外で大人しく待っていると、吾妻さんが外に出てきた。


「ボクも一緒に待たせて貰って良いですか?」


 不意に澪の恋人達(?)の中で断トツの美少女が俺の顔を間近に覗き込みながら聞いてきたので、思わず俺は身を引いた。


「うわっ! 近い!」


「え? 御免なさい。もしかして嫌でしたか?」


 吾妻さんが少し落ち込んだように長い睫毛がかかる瞼を伏せたので、俺は首を振った。


「い……嫌。いきなりだったから一寸驚いただけだから」


「そうでしたか。てっきり小碓先輩に嫌われているのかと思ったので安心しました」


「まさか。よく知らないうちから、好きも嫌いもないだろ?」


「そうですかぁ。よかったぁー。それか、僕達中学生が加入する事に反対なのかなと思いまして」


「うーん……それに関しては思う事が無い訳じゃないけれど、俺が一番格闘技経験少ないんで、君達と比べても一番弱い可能性があるんだよね」


「うそっ! 小碓先輩って長年格闘技やっているんじゃないんですか?」


 吾妻さんは驚いていた。


「まだ一ヶ月チョイで、この前始めてキックボクシングのジムの昇級審査で合格したけど、まだ五級さ。基本のパンチとキックを正しいフォームで打てて、単発の攻撃が受け返し出来るぐらいのレベルだよ」


「いや、でも小碓先輩、ボクサー倒しましたよね? 動画観ましたよ? 本当に凄かったです! 特に相手をKOする前の右ストレートがクリーンヒットしたシーンは何回も巻き戻して観させて貰いましたよ!」


 興奮気味に言う吾妻さんの台詞は俺にとって寝耳に水の話だった。


「えっ? 動画?」


「ハイ。麗のアカウントでニヤニヤ動画にアップされていた奴です」


「いや……、それ俺達が上げている動画じゃないから。どういう手段使っているか分からないけれど、麗を名乗っている偽者がやっているんだ」


「ええ! そうなんですか!」


 当然の事ながら事情を知らなかった吾妻さんは驚きの声を上げていた。


「何者がやっているのか分からないんだよね……しかも、立国川ホテルって何年も前に廃ホテルになったから監視カメラの類は全部死んでいるはずなんだけれど……」


 猛から聞いた話の受け売りだが、アイツの言っていた通り監視カメラがある訳がないのだが、どうやって動画を撮っていたのだろうか?


 考えられる可能性としては事情を知る者が予め監視カメラを仕掛けていたという事になるが……。


 そんな考えにふけっていると、吾妻さんはさり気なく俺の肩と腕に触れてきた。


「ど……どうしたの?」


「ボク強い人が好きなんですよ。格闘技経験一ヶ月ぐらいでボクサー倒すなんてどれだけ凄い筋肉しているのか一寸興味がありまして……」


「いやいや。元帰宅部の俺に筋肉なんて殆どないから……」


 そう言っても吾妻さんはベタベタと俺の体を触って来た。


「着替え終わったから入ってきて良いよ……って、何アンタ達イチャついているの?」


 外に出てきた勝子が眉間に皺を寄せ険しい表情で俺に言った。


「イチャつくってそんな事は……えええっ!」


 何時の間にか吾妻さんは俺の腕に頬を当てて頬ずりをしていた。


「こっ……これって、筋肉調べるのと関係ないんじゃ……それに澪が見たら怒るよ?」


「筋肉は関係無しに強い人は大好きなんです。それに澪ちゃんは自分でハーレム創っているぐらいだから浮気に寛大なんですよ♪」


 こんな俺達を見て、勝子は呆れたように溜息をついた。


「はぁ……まぁ良いわ。練習始めるから中に入ってらっしゃい」


 俺達がジムの中に入ると吾妻さんに引っ付かれた俺の姿を見て、何故か全員ニヤニヤしていた。


 そう言えば何で吾妻さんは着替えの時に外に出てきたんだろう?


 この理由は後に知る事になり、色んな意味で酷く落ち込む事になる……。



              🥊



 中に入ると俺は目のやり場に困った。


「武……。お前今日は目隠しして練習しろ」


「下僕武。この子達の姿を見たら半殺しの刑だからね……」


 ……いや。もう見ちゃったんですけど。


 麗衣と勝子の無茶振りに殴られずとも頭が痛くなる気分になっていると、澪は某元女子アナのような口調を混ぜて言った。


「イヤイヤ。折角準備したんだし、小碓クンに対して俺達が出来る精一杯の、『お・も・て・な・し』でもあるので遠慮なくガン見して良いっスヨ」


 澪、大伴さん、吉備津さんは体操着の様なシャツに何故か体操着としては20世紀初頭に消滅したと思われる紺のブルマを履いていた。


「俺としても目のやり場に困るんだが……せめてジャージを着てくれないか?」


 俺が小声で言うと、その声を俺の後から中に入って来た吾妻さんの大声が掻き消した。


「うわー良いジャン。皆可愛いしよく似合っているよ♪」


 一人だけ何故か紺色のスパッツ姿の吾妻さんはそう言った。


「ありがとー♪ カズ君もブルマ履いたらとっても似合うよぉ」


 三人の中ではリーダーシップを取っているっぽい吉備津さんは吾妻さんをカズ君と呼んでいた。


 吾妻香月だからカズ君か。


 まぁショートだから中性的にも見えるし、一人称が『ボク』だから君付けで呼ばれているのかな?


「いやいや。流石にボクがブルマ履いたら駄目でしょ……あ、でも、もし小碓先輩がお望みでしたら履きますけどぉ?」


 小悪魔っぽい顔で俺の顔を覗き込んできた。


 一瞬、吾妻さんのブルマ姿を期待してしまったが、中学生チーム一の美少女にそんな姿をさせたら(俺が)気になって練習にならないだろう。


 それにこの子、唯一の男子である俺を揶揄からかって楽しんでいるのかもしれない。


「いや。俺としては皆にジャージかせめてスパッツを履いて欲しいんだけれど……」


 すると中学生チームから一斉に不満の声が上がった。


「ええーっ! 折角小碓クンにアピる為に張り切って準備してきたのにそりゃないっスヨ!」


「アタシは澪ちゃんに見せてあげたかったし、それに小碓先輩になら可愛いから見られても良いんですよ?」


「わっ……わたしはちょっと恥ずかしいけれど……う……動きやすいから良いかな? そっ……それに小碓先輩なら優しそうだし、へ……変な事しないと思うから大丈夫です……」


「ボクが履くとしたら小碓先輩に少し位触らせてあげても良いけどなぁ」


 ……何このハーレム作品みたいな展開?


 それはとにかく、困って麗衣に振り返ると麗衣はあたかも頭痛を我慢するかのように頭を押さえながら言った。


「……ったく、ムッツリヘタレの武だから間違えは起こらねーか……。そこまで言うなら分かったよ……。でも、ここでエロイ行為は禁止だからな?」


「「「「はーい!」」」」


 四人の小悪魔達(一人だけデカいけど)は声を揃えて元気よく返事をした。

 麗衣は俺を向くと念を押す様に言った。


「武。何故か偉く人気があるみてーだけど、くれぐれも中坊相手に欲情すんなよ」


「あっ……うん。頑張る」


 俺が自信なさそうに答えると、隣で勝子がパキポキと腕を鳴らし始めた。


「万が一にも間違えは起きないので安心してください……」

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