第85話 新たな仲間達(澪の恋人達?)

 程なくして三人の子が自動で開かない自動ドアの前に立ちキャッキャと騒いでいた。


 何やら「ここで場所良いんだよね?」とか「自動ドア開かないよ」とか聞こえてくる。


「来ましたね。あの子達が俺の呼んだ子です」


 澪は三人を指さして麗衣に言った。


「おお。そうか」


 麗衣は自動で開かない自動ドアを開けると、その子達を招き入れた。


「お前等が澪の友達だな? よく来てくれた。狭いところで悪いが上がってくれ」


「「「はい! お邪魔しまーす!」」」


 やって来た三人は元気よく挨拶をし、靴を脱ぐと、「こんにちは」と俺達に会釈をしながらこちらへやってきた。


 澪の恋人達と聞いていたけれど、女子ばっかりじゃないか……。


 本当はバイセクシャルじゃなくて百合なんじゃないのか?


 まぁ、澪の趣向はとにかく、肝心な事はこの子等が戦力になるか如何かという事だ。


「凄いですねー。本物のジムみたいです」


 茶髪にパーマをかけた快活そうな女の子は周りを見渡し感嘆の声を上げていた。


「すっ……凄いです。マットレスにサンドバックにバーベルとか筋トレ用具。一通り揃っているんじゃないですか?」


 ぽっちゃりとしたツインテールの子もキョロキョロと周りを見渡して驚いている。


「二人とも……まずは皆さんにご挨拶と自己紹介しなきゃ……」


 ショートカットの黒髪に赤いメッシュを入れた、ぐりぐりとした目が一際可愛い子が興奮気味な二人を押さえるように言った。


「あっ……。そうだよね。ねぇ澪ちゃん。如何する?」


 ツインテールの子は澪に尋ねた。


「ちょっと待って。麗衣サン。最初にこの子等の紹介させて貰って良いっスカ?」


「あっ……ああ。頼むよ」


 麗衣は若干困惑気の表情をしていた。


 多分、三人とも小さくて可愛い女の子だったから戦力になるのか疑問なのだろう。


 澪も麗衣の内心を見抜いたのか?

 安心させるように言った。


「もしかして、この子等があんまりにも可愛くて喧嘩なんか出来るかって思ってたんでしょ?」


「まぁ……正直に言えばな……」


「大丈夫っスヨ。三人とも格闘技経験者ですから。自己紹介でそれぞれ何を使うか言って貰います」


 澪は三人に促した


「じゃあ、皆、簡単に自己紹介して」


「でっ……では、私からしますね」


 三人は俺達の前に並ぶと、まずは身長155センチ程で、ぽっちゃりとした体形で中学生とは思えない程胸が発達した、ツインテールの切れ長の目の女の子が緊張しながら自己紹介を始めた。


「わっ……わたしは……大伴静江おおともしずえといいます。フルコンタクト空手と琉球古武術をやって……ます」


 大伴さんがごもごもと言って頭を下げると、勝子から質問が飛んだ。


「琉球古武術というと、貴女、何か武器が使えるの?」


 琉球古武術とは琉球王国時代の武器術が廃藩置県後、その技術が失われかけたが一部の武道家等により保存・継承された武器術である。


 空手を含む場合があるらしいが、主に武器術の事をさす。


 因みに琉球では武器が無かった為に唐手が発展したとの俗説があるが、琉球王国時代に書かれた正史『球陽』にも「槍棒の法あり」との記述があり、実際に薩摩藩統治下においても武器術は稽古されており、俗説は否定されている。


「はっ……ハイ。サイとか棒術とか色々使いますが、ヌンチャクが一番得意です」


「ふーん……それなら姫野先輩以外武器を使えるメンバーが居ないから助かるよね」


 勝子がそう言うと大伴さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて頭を下げた。


「あっ……ありがとうございます! がっ……頑張りますので宜しくお願いします」


 俺達はパチパチと拍手をした。


 次は大伴さんと同じく身長155センチ程で、細身で茶髪にパーマをかけている気が強そうな女の子が前に進み出た。


「アタシは吉備津香織きびつかおりです。伝統派空手と、静江と同じで琉球古武道やってます」


 大伴さんと正反対に、吉備津さんはハキハキと言った。


「そうか。お前は何の武器使うの?」


 今度は麗衣が吉備津さんにたずねた。


「ハイ。一応アタシも色々使えますけど、トンファーが一番得意ですね」


 すると麗衣は嬉しそうに言った。


「おお。トンファーか! あたしも昔やっていたんだよな。懐かしい」


「え? 麗衣ちゃんトンファー使えるの? 初めて聞いたよ」


 勝子が驚いていた。


 大伴さんに姫野先輩以外武器を使えるメンバーが居ないと答えていた為、勝子すら知らない事実だったようだ。


「使えるというか、フルコン辞める前にちょっとかじっていただけだぜ。『浜比嘉はまひがのトンファー』っていう型だけ習ったけど今出来るかな?」


 今ではキックボクシングの練習に専念しているだろうから喧嘩でトンファーを持ち出さないのかもしれない。


「『浜比嘉のトンファー』でしたらアタシも出来ますよ。今度やって見せますので宜しくお願いします」


 吉備津さんが頭を下げると、俺達は拍手で歓迎した。


 そして最後の子は身長160センチ。ショートカットの黒髪に赤いメッシュを入れた、重そうな二重瞼に長い睫毛の掛かり、目がぐりぐりとした穏やかそうな美少女だ。


 三人とも可愛いが、この子は中でもずば抜けた美少女だ。


 ただ何故か顔に絆創膏を貼っているが、可愛い見た目に似合わず麗衣みたいに男子と喧嘩でもしているのだろうか?


「初めまして。ボクは吾妻香月あずまかづきと言います。ボクシングと柔道やっています」


「えっと。君、ほっぺたに絆創膏貼っているけれど怪我大丈夫かな?」


 恵が吾妻さんに心配そうな顔で聞いた。


「あっ。気になりますよね? これ、ボクシングのスパーリングでなったんですよ」


「え? パンチでなったの? ヘッドギアとかしてないの?」


「勿論していますけど、パンチで顔が傷付くというより、ヘッドギアの両頬の部分で突き出している部分があるじゃないですか? パンチに押されてあれが当たると引っかかる様に当たって切り傷になりやすいんですよね」


 まだジムではスパーリングが許可されておらず、女子会や亮磨とのスパーリングは顔全体を守るスーパーセーフを使っていた為、ヘッドギアを使った事が無いので勝子に尋ねた


「そうなの勝子?」


「ヘッドギアの形によってはそうなるね。私は殆どパンチ自体貰った事無いけど、中二の時プロボクサー相手にスパーした時に一回だけなったかな?」


 勝子はサラッ凄い事を言っていたが、コイツの逸話でこの程度で驚いていたらキリがない。


「お役に立てるように頑張りますのでよろしくお願いします」


 吾妻さんが頭を下げ、一斉に拍手が沸き起こる。


 拍手が鳴り止んだところで、麗衣はおっほんと一つ咳ばらいをすると話し始めた。


「あたしが麗のリーダーの美夜受麗衣だ。皆さん。ようこそ麗へ。……と言いたいところだけど、あたし達が何をしているか? 三人とも分かっているか? 澪の友達で遊びに来ているという感覚なら止めておいた方が良いぞ」


 すると、吉備津さんが反論した。


「遊びで来た訳じゃありません! あたし達も暴走族と喧嘩した経験があります!」


 吉備津さんの激しい口調に若干気圧されながらも麗衣は聞き返した。


「マジか? でも、お前等たった四人だろ?」


「ハイ。でも相手も弱小の出来たばっかりの暴走族だったみたいで相手も七人ぐらいでしたが」


「勝ったんなら良いけど、どうしてそんな危険な真似したんだよ?」


 自分の事を棚に上げ、麗衣は吉備津さんに尋ねた。


「その……友達がレイプされてどうしても許せなかったので……澪ちゃんの呼びかけでアタシ達格闘技経験者の四人で殴り込みました」


「成程……確かにソイツは許せねーよな。気持ちは分かるぜ」


「そのグループは潰しましてケジメもとらせましたが、他にもこんな事をしている連中が居るとしたら許せないと思っていたら澪ちゃんから麗の皆さんのお話を聞かせて頂きました」


「それで澪ちゃんに憧れの人が映っている動画だって、ニヤニヤ動画の皆さんの戦いを見させて貰って凄いなぁと思って、麗に入れさせて貰いたいなって前々から思っていたんですよ」


 吉備津さんの説明を吾妻さんが補足すると、麗衣は頷いた。


「そうか……お前等の気持ちを疑って悪かったな」


「いいえ! ボク達あんまり強そうに見えないから疑いたくなるのは当然ですよ」


「まぁ正直。そう思っていたけれど、聞いた話が本当なら大丈夫かもな。でも、今後はもっと規模が大きい連中と喧嘩する可能性もある。タイマンはさせる気はねーけど、集団戦の時はあたし達の背を守って欲しいんだ。だからお前等をテストさせて貰うぜ」


 麗衣は少し嬉しそうに言った。



              ◇



 ヘッドギアに当たって頬が傷付く話はアマチュアボクシング経験者(五輪代表候補合宿に参加経験があり、後にプロのライセンスも取得)の友人から聞いた実話で、会うたびに毎回絆創膏を貼っていました。

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