第83話 我が人生肉片になっても悔いなし!

 昇級審査の次の日。


 俺は登校すると、何時もより早く麗衣と十戸武は登校していた。


「お早う麗衣! 十戸武さん!」


 俺が挨拶すると二人も俺に気付き、挨拶を返してきた。


「うーっす! 武!」


「お早う小碓君!」


 麗衣は俺の机の上に座り素足を覗く褐色の脚をブラブラと振り、十戸武は立ちながら、まるで恋人の様に麗衣の腕に寄り添っていた。


 仲直りしてからこの二人、益々百合っぽい尊さが増しているよな……という感想はとにかく、男子にとって肝心なのは―


 ……今日は黒か……忘れもしない、始めて麗衣の下着を見た時と同じ色だな。


 今日ぐらいご褒美にガン見しても優しい麗衣は許してくれるよね?


 そんな事を想いながら、なるべく長い間眺めていられるように何時もより、ゆーっくりと座席に向かうと。


「あー小碓君! 麗衣さんの下着覗いてる~♪」


 クラスメイト達の視線が一斉に俺に集まる。


 ニヤニヤしながらあっさりと十戸武が大声でバラしやがった。


 アイツは俺から麗衣を奪うだけでなく、非モテ系男子(俺)からささやかな楽しみまで奪うつもりか!


「え! マジかよ! テメー……あたしのミドルをミット無しで受ける覚悟は出来ているんだろうな?」


 麗衣は手の音をパキポキ鳴らしながら俺に圧をかけてくる。


 今日ぐらいは十戸武みたいに俺の事を優しく扱って欲しいッス。


「あ……いや。不可抗力です。今日は朗報があるので勘弁して下さい」


「ほほう。朗報とは?」


「昨日受けた昇級審査、合格したよ」


「おお! マジかよ! やったな! 武!」


 喜色満面の麗衣は俺の机から勢いよく飛び降りると、短いスカートがふわっと翻り、一瞬黒い下着の前面が露わになった。


 ああ……愛しのご主人様よ


 最高のご褒美ありがとうございます!


 我が人生肉片になっても悔いなし!


「小碓君おめでと~! でも麗衣さん、景気よくお祝いし過ぎだよぉ」


 十戸武は麗衣のスカートの裾を指さし、さりげなくパンモロを批判した。


「わっ……わざとじゃねーよ! 恵!」


 麗衣は今更スカートを押さえ、顔を真っ赤にしていた。


 この二人は何時の間にかお互いを『恵』、『麗衣さん』と呼ぶ仲になっていた。


 あまりにも仲が良いので二人は出来ていると男子の間で噂されているようだが、本人達は気にした様子はなく、特に十戸武は噂を否定するどころか積極的に肯定して楽しんでいる節すらあるのだが……。


「ねぇねぇ。麗衣さん。良い考えがあるよ。小碓君にハイキックして記憶を飛ばしちゃえば良いんだよ♪」


 十戸武! お前は何時から勝子みたいな悪魔になったんだ!


 そんな俺の抗議を口にする前に麗衣は力強く頷いた。


「おお! それはいいアイデアだな! でかしたぞ恵!」


「いや……洒落にならないから麗衣に余計な事を吹き込まないでくれよ……十戸武さん」


 半ば本気で十戸武に言うと、十戸武はすっと俺の唇に指を当てて、俺の顔を覗き込んだ。


「あの時(天網との喧嘩時)は『十戸武』って呼び捨てで呼んでくれたのに今更『十戸武さん』って呼び方、他人行儀だねぇ……麗衣さんみたいに『恵』で良いよ♪」


 十戸武……いや、恵は俺の唇から指先を離した。


「分かったよ。恵。俺の事も『武』と呼んでくれ」


「君の呼び捨ては麗衣さんの専売特許だから、『武君』で良いよね?」


「ああ。それでも良いよ」


「じゃあ、武君! 今日から同じうるはの正式メンバー同士仲良くしようね!」


「え? 恵が麗のメンバー? 本当なの?」


 寝耳に水の話だったので、俺は麗衣の方を向いて、真偽を確認しようとした。


「ああ。恵がどうしてもあたしの力になりたいって言うからな……危険な目に遭わせたくないから何回も断ったんだけど、姫野の推薦もあってな……」


 姫野先輩は受験を控えている為、麗衣は受験が終わるまで姫野先輩の麗への参加を認めないと伝えていた。


 日本拳法の使い手であり、麗では唯一の総合格闘技の使い手である姫野先輩が抜けるのは大幅な戦力ダウンであり、俺や新しく麗への加入が決まっている澪は立ち技系なので埋めきれない穴であったが、空手と柔道を使い高い実力を持つ恵の加入により、その穴を埋められるのは確かだ。


「姫野をこんな時期まで引っ張り廻しちまったし、あいつを安心させる為にも、どうしても恵の力が必要なんだよな……」


 後から聞いた話によると、麗衣は鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードとの戦いが終わった後辺りから姫野先輩の参加を認めないと言っていたらしいが、新しい戦力が増えるまでは麗に参加し続けると姫野先輩が首を縦に振らなかったらしい。

 実際、姫野先輩が居なかったら天網に敗れていた可能性が高い。


「遠慮しないで。私、織戸橘先輩の分まで麗衣さんの為に頑張るから……」


 恵は麗衣の両手を握り、微笑んだ。


「わりぃな……でも、前も言ったけれどあたしは正義の為にやっている訳じゃねーからな?」


「分かっているよ。私は大好きな麗衣さんの力に少しでもなりたいんだ。それに、どんな動機でも、暴走族を減らせれば結果的に良い事に繋がっていく事になるし、そうなれば私としては満足だよ」


「そうか……ありがとよ……」


 そう言って、麗衣も恵の瞳を見つめると、恵の頬にうっすらと朱がさした。


 ……うん。百合にしか見えないよな。


「ところで、週末の女子会だけど、お前の昇級審査合格祝いするからな」


「いや、たかが5級でそれは恥ずかしいから止めてくれ」


「そうだよな。あたしのパンチラとパンモロで充分満足しただろうから合格祝いは無しな」


 合格祝いの話は5秒で無くなりました。


「で、女子会に澪も呼んだから、お前の麗の正式メンバーへの格上げと恵と澪のメンバー入りの歓迎スパーリング大会するからな。一応お前の方が二人の先輩だから、二人に負けたら罰ゲームだからな」


 麗衣は悪戯っぽく言った。


「いやいや、明らかに二人とも俺より強いだろ!」


 すると恵が俺に握手を求めてきた。


「武君、お手柔らかにね♪」


「あっ……ああ。こちらこそお手柔らかにお願いします……」


 コイツ、微笑みながら目が笑ってねぇ……嫌な予感がする。


 拒否するわけにもいかず、俺が手を出すと、ギリギリと強い力で俺の手は絞めつけられた。


 流石、総合やっているだけあって女子とは言え握力も半端なかった。


 やっぱり、恵って俺の事嫌っているよな……。

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