第82話 昇級審査とキックミットの持ち方
始めてジムに訪れた時、麗衣の道場破りの挨拶でビビりまくり、妃美さんの前で土下座してから早一ヶ月。
ジム通いも、そろそろ通いなれたはずだが、この日ばかりは緊張が抑えきれない。
「これから昇級審査を行います」
そう。
普段の練習と違い、今日は定期的に行われる昇級審査の日だ。
天網との戦いが終わり、束の間の平和が訪れていたが、俺は麗の見習いをから正式なメンバーになる為にジムの昇級審査を受ける事にした。
母体が空手団体だったこのキックボクシングの団体では空手風の昇級審査が行われ、昇級すると上級のクラスやアマチュアの試合への参加、プロテストの受験資格などが得られるようになるのだ。
キックボクシングの団体では珍しい仕組みだが、会員にとって目標を立てやすくなるし、ある程度客観的な実力の指標になるし、試合に出場しようという会員が自信を持って試合に臨む事が出来る。
自主トレでは、ほぼ天網との戦いに備えた練習が多かったとは言え、日曜日以外はジム通いをしてキックボクシングの練習を積み重ねてきた俺は、蹴りを含め、もう基本は問題ない。
麗衣と勝子は必ず昇級審査に合格するとお墨付きをくれた。
天網との戦いに備え、喧嘩向けになっていた構えを若干修正し、このジムで教えているムエタイ風の構えに戻し、昇級審査に臨んだ。
「それでは5級の昇級審査を行います。宜しくお願いします!」
「「「宜しくお願いします!」」」
審査員の挨拶で今日俺と一緒に昇級審査を受ける会員も挨拶を返した。
昇級審査を受けるのは俺を含め四名。
格闘技未経験者が多いジムである為だからなのか、皆始めての昇級審査なので緊張気味の面持ちだ。
このジムでは5級から1級まで級が存在し、俺が昇級審査に臨むのは5級。
入門クラスで習ったようなキックボクシングの基本のテストになる。
内容は正しい構えからジャブ、ストレート、ミドルキックのシャドー。
その後、体格が近い会員とパートナーを組み、ミット打ちでジャブ、ワンツー、左右のミドルキック。
初心者にとっては打つよりも寧ろミットを受ける技術を得る事が重要なのではないかと個人的には思う。
入門クラスを無料体験した時はミット打ちが上手く受けれず、ミットを顔に当ててしまった俺だが、麗衣の指摘や1ヶ月の練習を経て、コツは掴んでいた。
まずはパンチの受け方だが、対角線上にミットを受けるのが基本だ。
相手の構えの位置と自分のミットの位置で角度を合わせる。
ガードが低い人、あるいは自分より身長が低い人であればミットが上を向いていたらジャストミートしない。
パートナーの会員はガードの位置こそ基本通りのアップライトスタイルだが、珍しく身長が俺よりも低い人だったので、パンチを斜め上に突き上げるように打ってくる。
だから、俺は斜めに入ってくるパンチを直角に合わせると、ミットが綺麗な音がするのだ。
あとはパンチが来た時に合わせる。合わせるポイントは相手のパンチの力と同じ力で合わせてあげることだ。
相手が軽く打っている時に強く受けると相手の手首を壊してしまうし、逆に強く打っているのに力を入れず、打ったパンチが抜けてしまっても駄目。
丁度同じくらいの感覚で合わせる。
要は角度と力加減がコツだ。
次はミドルキックを受ける番だ。
当然の事ながらパンチよりも威力が高い為、以前は怖かったが、もうミットを顎にぶつけていた頃の俺じゃない。
キックミットを揃えて持ってしまうと肘がきついので、脇を締めて、先端を付ける感じで、八の字にミットを持つ
立ち位置は蹴りを打つ時に膝が入る様に相手から斜め45度ぐらいの感じで持ってあげるのがコツだ。
相手にとって蹴りやすく、受けていても力を逃せる。
まぁ自主練や
この様にして、パートナーを気持ちよくミット打ちをさせてあげると、今度は俺が打つ番だった。
ストレートは切れるパンチ、重いパンチを打ち分けて見せ、キックは……多分大丈夫だろう。
喧嘩に向けてパンチを多く練習していた分、パンチの方が得意で若干蹴りの方が苦手だが、百点満点でなくても良いらしいので、何とかOKだろう。
次は攻守を入れ替えながら単発の受け返し。
例えばジャブをパリングしてジャブを返す。
ストレートをブロックしてミドルを返す。
ミドルをカットしてミドルを返す。
等、これを受け手と攻め手で交代しながら行った。
単発の切り返しで、相手の力もセーブされている為、怖さは無いし難しくも無いが、受け返し後にバランスが崩れ、フォームが崩れない事は意識をした。
下位の級なのでスパーリングは無いが、今後スパーリング可能なクラスを受講する為にも重視される審査内容なのかも知れない。
最後は筋力テスト。
腕立て、腹筋を正しいフォームで一秒に一回の感覚で20回行う。
正しいフォームで行うと案外きついものだが、回数は少ないので問題は無い。
こうして、昇級審査は滞りなく終了した。
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