第50話 敵の敵はやっぱり敵?
翌日、俺は早めに登校した。
何故なら、なるべく麗衣よりも先に姫野先輩に接触して、猛の作戦を伝えようと考えていたからだ。
麗衣に先に知られてしまえば反対される可能性が高いだろう。
タイマンを受ける予定は今日の20時だから一刻の猶予も無い。
こんな事になるのであれば、予め姫野先輩の連絡先を聞いておけば良かったのだけれど、女性の連絡先を聞き出す勇気なんて俺にあろうはずもなかった。
授業開始から三十分も前ならばまだ誰も居ないだろうと思い、教室の扉を開けると―
「うーす。武。今日は随分と早いじゃねーか?」
「げっ! 麗衣!」
驚いた事に、サボりの常習犯だった麗衣が日直でもないのにクラスの誰よりも早く登校していたのだ。
「げっ! ……って何だよ! あたしが早く来てたら何か都合でもわりぃのかよ?」
麗衣は
「いや、早く来ていたから驚いただけだよ……おはよう麗衣」
「ふーん……何かあたしに隠している事でもあるんじゃねーよな?」
麗衣は俺の真意を確かめようとでもしているのか、目を細めて俺を見つめた。
「いや、ちょっと失礼かもしれないけど、いつもサボっていた麗衣がこんなに早く来るんだなーと思って……」
「そうだとしたら『げっ!』なんて言わねーと思うけどな……まぁ良いや。今日、早く来たのは姫野から話があるから屋上に早めに来てくれって言われたからだよ」
「姫野先輩から?」
「ああ。訳は聞いてねーけどな。丁度良いし武も来るか?」
「俺も居て良いの?」
「あったりめーだろ? 見習いとは言え、お前も『
確かに姫野先輩に会うつもりではあったけれど、向こうから麗衣をこんなに早く呼び出すのは何故なのだろうか?
真意を知る為にも俺は麗衣について行き、屋上に向かった。
◇
「おはよう。来てくれたか麗衣君……それに武君?」
屋上で先に待っていた姫野先輩は麗衣と後ろに居る俺の姿を見て首を傾げた。
「武はあたしの判断でついて来て貰った。秘密のガールズトークやらコイバナでもしたいなら帰すけれど、そんな訳じゃないよな?」
「まさか、僕がそんな事出来ないのは知っているだろう? まぁ、それはとにかく、武君も居るのは、
「あ? 何か悪巧みでもしてんのか?」
「まぁある意味悪巧みとはいえるから否定は出来ないかも知れないね。それに、武君にも意見を聞いてみたいと思ったからね」
「勿体つけんなよ。一体何をする気なんだ?」
麗衣が急かす様に姫野に尋ねた。
「じゃあ、話をするよ。先日の
「でも前は何とかなったぜ?」
「この前はあの時点では部外者だった武君にまで助けて貰った事と、タイミングもよく警察が来たから助かっただけだ。この二つの要素が無ければ僕達は敗北し、今こうやって話をしている事も出来ないような目に遭っていただろう」
「……」
麗衣は不満が表情に出ていたが、反論も出来ず黙っていた。
「だから、このまま暴走族潰しを続けていても僕達に待っているのは破滅しかない。動画で顔まで知られてしまったのだから尚更だ」
「じゃあ『麗』を解散しろとでも言いてーのか? だとしたら、あたし一人でもやるから構わねーぜ?」
麗衣は苛立ち気味に言った。
「そんな事言ってないし、この位で解散を提言するぐらいなら、初めから君のチームに入ろうなんて思わないさ。まぁ落ち着いて人の話を聞き給え」
「……ああ。そうだったな。こんな事付き合わせちまっているのに、わりぃ」
すぐに気を収めたのか?
麗衣が素直に謝ると、姫野先輩は麗衣の頭の上にポンと軽く手を置いた。
「いや、君のそう言う良くも悪くも素直なところが大好きだから付き合わせて貰っているのだから」
「……何かガキ扱いしてねーか?」
「ふふふっ。この向こう見ずでヤンチャ坊主っぽいところも可愛くて仕方ないんだけれどね」
姫野先輩がそのまま頭を撫でると、麗衣は子供の様にそっぽを向いた。
「るせーよ。どうせあたしに女らしさなんざ皆無だぜ」
姫野先輩が微笑みながら麗衣に乗せた手を離すと、真顔に戻り、話を続けた。
「僕から言わせれば、そんな事は無いけれどね……まぁ、話を元に戻すと、僕達がこのまま暴走族潰しを続けるには戦力不足なのは否定できないよね?」
「……そうだな。それは認めるしかねーな」
麗衣はぶっきらぼうな口調で認めた。
「今後武君が強くなる可能性はあるかも知れないけれど、差し当たってはまず、
「確かに
「そもそも動画向けにタイマンすると言っているだけで、実際は
「ただ戦力って言ってもよぉ……今すぐ姫野や勝子みたいな強い奴を見つけるのは無理じゃねーか?」
そこで俺は口を挟んだ。
「いや……麗衣。一人この学校に居るよ。しかも、その人自身が強いだけじゃなくて、人数もそれなりに揃えられるかも知れない人が」
「あ? そんな奴居るか? ……いや。居る事は居るけど……まさかアイツか……」
どうやら麗衣も気付いたらしい。
「武君も同じ事を考えていたか。実はこの事で彼とは既に話を付けているんだ」
「なっ……!」
姫野先輩の言葉に麗衣は唖然として言葉を失っていた。
「そろそろ出てきても良いよ。赤銅君」
名を呼ばれ、屋上のドアがある建物の裏から坊主頭の
その顔をみて麗衣は血相を変えた。
「なっ……どういう事だ! 姫野!」
麗衣は姫野先輩の胸倉を掴み、今にも殴りかからんばかりの勢いで詰め寄った。
「あたし達の目的を忘れたか! あたし達は族潰しだぞ! なのに族と組んでどうすんだよ! 本末転倒だろうが!」
あまりもの剣幕に気圧されそうになったけれど、このままにする訳には行かない。
「やめろよ! 麗衣!」
俺は背後から麗衣を抱え、引き離そうとしたが、麗衣は抵抗して強く暴れる。
「放せよ武! テメーからぶっ飛ばすぞ!」
暴れる麗衣を見て、姫野先輩は言った。
「僕を殴って気が済むなら好きなだけ殴って良い。でも、先ずは一旦彼が暴走族だという事を忘れ、一人の人間として話を聞いてやってくれないか?」
姫野先輩からそこまで言われては流石の麗衣も聞かざるを得ないのか、暴れる事を止めた。
「……ちっ! 分かったよ。武。もう暴れねーから放してくれよ」
麗衣を信じて俺は腕を放した。
今まで黙って俺達の様子を見ていた亮磨は麗衣が落ち着いたのを見計らってこちらにやって来た。
「織戸橘。美夜受……。思うところはあるだろうが、まずは話の機会をくれた事に礼を言う」
そして、何と亮磨が頭を下げたのだ。
そんな亮磨を冷ややかな目で麗衣は見つめながら言った。
「けっ! 演技くせーな! 信用出来るかよ!」
このままでは交渉にならないと判断したのか、姫野先輩は見かねて麗衣に注意をした。
「麗衣君。男が頭を下げるのは大変勇気が居る事なんだよ? 話ぐらい聞いてあげようじゃないか」
「ハイハイ。で、DV野郎があたしに話したい事って何だよ?」
「DV野郎って……俺の事か?」
当然の事ながら意味も分からず亮磨は坊主頭を傾げた。
「そうに決まってるだろ! お陰でキックの練習も出来なくて暇持てあましているんだからよぉ?」
そんな事言われてもと言った感じで、尚も亮磨は困惑の様子を見せている。
本来のDVの意味と異なる揶揄の為、亮磨は腑に落ちない様だ。
「それは悪かったな。だが、こちらのメンバーが先に四人もやられていたんだ。その件については、お互い様だろうが」
「あ? 文句あるんなら今すぐもう一回勝負するかコラぁ?」
今度は亮磨に掴み掛からんばかりの麗衣を背後から抱き止める。
「お……落ち着いて麗衣。まず話を聞こうよ……」
こんな様子の麗衣を見て、亮磨は麗衣に合わせていたら話が進まないと判断したのか、自分の提案を話す事にしたようだ。
「ソイツの言う通りまず話をさせろ。これから話す事はお前等にとって悪くない話だと思うぜ?」
「何を企んでやがる? 珍走なんざ信用できるかよ!」
「何も企んでなんかいねーよ。俺は只、
麗衣はその言葉を聞いて、暴れるのを止めた。
「
「……昨日、身毛津とやらに不意打ちを喰らって締め落とされたのは見ていたよな? 俺は身毛津にやり返したいだけなんだよ」
「その理屈だったらあたしにもリベンジしたいって事になるんじゃねーのか?」
「お前との決着は既についている。あれは俺の完敗だ。堂々とタイマンを張った末に負けたんだから、今更俺からグダグダ言うつもりはねえよ」
「……そ、そうか……」
亮磨があっさりと負けを認めたのが意外だったのか?
麗衣は亮磨から視線を反らし、頬を掻いていた。
「だが、身毛津は別だ。俺が油断していたのが悪いって言われりゃその通りだが、あんな形では到底納得が行かねー。だから、今回、アイツとタイマンを張るのは俺に譲って欲しい」
昨日までは姫野先輩に相談するにもどう説得すれば良いのか迷っていたぐらいだが、向こうの方から話が転がってくるとは都合がいい。
麗衣は自分を落ち着かせるように一つ大きく息を吸って吐くと、亮磨に言った。
「話は分かったぜ。テメーの気持ちも分からなくはねーからな」
「じゃあ、アイツは俺に譲ってくれるのか?」
「答えはNOだ。テメーが珍走やっている限り、認める訳に行かねーな」
折角の渡りに船の提案だったのに麗衣はにべもなく蹴ってしまった。
◇
50話突破&初投稿から約2ヶ月で3600PV超えしました。(なろうと合わせ約8000PV)。いつも読んでくださっている全ての方々にお礼を申し上げます!
話がまだまだ続きそうですが、今後もお読みいただければ幸いです。
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