第44話 最強の女から自宅でトレーニングする方法を教わった拳
「大体上手くなってきたね。今日はこれまでにしようか」
俺は勝子のパンチを体験した後、同じ必殺のパンチを練習した。
これは恐らくジムでも習う事が無い攻撃で、教則本の類にも載って無い攻撃だろう。
例えるのなら、古武道で言うナンバ歩きに近い動きなのかも知れない。
あの超有名選手が海外の強豪と渡り合ったパンチと言うだけあって、威力が半端ではない。
少なくても現時点では俺にとって最強の武器になるだろう。
そのパンチの反復練習をしていたが、間も無く授業が終了という時間になり、練習は終了になった。
「ところでジムに入会するのは何時にするの?」
勝子は俺に尋ねた。
「入会費無料とかキャンペーン期間の調整で入会を少し待って欲しいらしくて、来週になっちゃうみたいだね。早くて来週の月曜日とか麗衣が言っていた。だから五日後かな?」
因みに麗の正式メンバーとなる為の条件である、二ヶ月の期限で昇級審査に合格しなければならないという話はジムに入会後で良いと麗衣は言ってくれた。
「そうか。私もジムのサブトレーナーと自主練があるから毎日は付き合えないけど、明日から放課後一時間と昼休みの三十分は今日やった練習をするよ」
「え? 良いの?」
随分と付き合いが良いので驚いた。
「今日一日やっただけでお終いじゃ意味が無いからね。それと、これを渡しておくよ」
勝子は小さな二つの赤い牛乳瓶位のサイズの小さなダンベルを俺に渡した。
「随分小さなダンベルだけど珍しいね」
これで筋トレでもしろと言うのか?
これでは軽すぎて筋トレにならないと思うが、勝子は俺が質問する前に何が目的であるのか答えた。
「五百グラムのダンベルだからあまり見ないかもね。家ではこれを使って毎日シャドーするとパンチスピードが上がるよ」
「ああ、そう言えばペットボトルを持ってパンチ打つ練習すると良いとか聞いた事あるような……」
「それでも良いけれどペットボトルだと掴みづらいでしょ? 本当は16オンスの重いグローブがあればそれが一番良いんだけれど、当然持っていないだろうから、このダンベルを使ってシャドーして。で、ダンベルでシャドーした後、ダンベル無しでシャドーするの」
確かにこれならばパンチのスピードが上がりそうだ。
だが、シャドーと言っても具体的にどんな事をやれば良いのだろうか?
「分かった。でもシャドーってどうやるの?」
「取り合えずジムのミット打ちでやったコンビネーションを思い出してやれば良いよ。蹴りは当分封印だからジムじゃなくて家でやる時はパンチだけ練習してね。最初はジャブを打ちながらステップして前に三歩。前進をやったら前足で床を蹴って攻撃を避ける事をイメージしながらバックステップ。これも三歩。バックステップする時は両足が揃ったりガードが下がらない様に注意してね」
格闘技の試合ではバックステップ時に足が揃った時に攻撃を喰らってしまうとダウンを取られる可能性が高い。
ストリートファイトにおいても倒されてしまえば不利になるだろうし、主審が止めに入ってくれる訳じゃないのだから、倒されるのは危険極まりないのだろう。
「同じパターンでワンツーを打ちながらステップ。あと定番のワンツー・フックは裸拳だと拳を痛めかねないから、出来ればワンツー・アッパーが良いかな? ワンツーで前に体重を乗せて、その体重を少しだけ後ろに体重移動してアッパーを打つのと、ワン・ツー・アッパーを1・2・3のリズムで打つのがコツだよ」
ワンツーでガードと注意を上に向け、死角をついてアッパーで下から攻撃する。
ボクシングよりもガードが開き気味なキックボクシングにおいては有効な攻撃で、裸拳で戦うストリートでもグローブを使ったガードが使えない分有効だろう。
「これにプラスして、アッパー時に後ろに体重移動した反動を利用して最後に右ストレートを打ち降ろすワンツー・アッパー・ストレートの四連打のコンビネーションも良いかもね。この場合アッパーはショート気味に打つの。まぁ、三連打以上のコンビネーションはとにかく、先ずはジャブとワンツーのステップ前進からで良いから。あと、自分よりも長身の相手と戦う場合のステップと最後に教えたパンチの練習は毎日やる事」
確かにあのパンチのスピードが上がれば強力極まりない武器になるだろう。
「家の練習は柔軟体操と筋トレ。筋トレの内容はジムの昇級審査を参考にすると良いよ。他にダンベルを持って今話した内容でシャドー後、ダンベル無しのシャドー。あとはさっき話した動画サイトで格闘家がディフェンス練習用にパンチを撮影している動画を観ながら、実際に身体を動かしてパリングやブロッキング、ダッキングの練習と動体視力を鍛える。家でもこれだけ出来るから少しでも鍛えておくと良いよ」
家でも結構出来る事が多いという事か。
蹴りは封印という事でパンチのシャドーならば狭い家でも何とか出来そうだ。
「ありがとう。何から何まで教えてくれて。助かったよ」
俺は勝子の手を握って礼を言うと、勝子は俺の手を振り払った。
◇
結局前話最後のパンチは何だったの? と気になるかと思いますが、まだ秘密です。勿体ぶる割にはそんなに難しくないんですけどね。(マテ)
その内必ず登場しますのでお待ちください。
話が変わりますが、この度、周佐勝子が主人公のスピンオフ作品「魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡」を書きました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896887294
ぶっ飛んだバトル描写と共に、勝子の過去や麗衣との出会いについて描いていこうと思います。宜しければ「ヤン女と心中」と共にご愛読いただければ幸いです。
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