第39話 喧嘩動画
掲示板に書かれた匿名のコメントには以下の様な内容が書かれていた。
『噂の暴走族潰し。正体はウチの学校の生徒らしい』
コメントとともにURLが記載されていた。
「何でだよ……この事はあたし達と学校では
麗衣は焦った表情を浮かべていた。
「勝子。このURLクリックして大丈夫か?」
「うん。『ニヤニヤ動画』のURLだからスパムの類じゃない事は確認しているし、私もさっき観たから」
「そうか。じゃあ観させてもらうぜ」
麗衣はURLにクリックすると、国内最大手の動画サイト『ニヤニヤ動画』に接続した。
動画の紹介ページに接続し、更に驚いた。
何と制作者のアカウント名が『
「何だよこれは? 勝子も姫野も『麗』名義でアカウント作成なんてしていないよな?」
麗衣は声を荒げて言うと、勝子は当然の事ながら反論した。
「勿論してないよ! 姫野先輩もしていないって言っていた。それにあの時、私達、音声は録音しても動画なんて撮る余裕は無かったよ?」
「いや、疑った訳じゃないんだけれど、一応確認したかったから……御免な」
麗衣はトーンを下げて謝罪した。
「ううん。リーダーとして確認しないと駄目なのは当然の事だもんね。気にしてないよ」
「当然武もそんな事していなかったし……誰が『麗』を語っていやがるんだ? 偶然って事は無いよな?」
「なりすましって奴か……まぁ、落ち着いて。とにかく動画を確認しようよ」
麗衣はアカウント名『麗』の動画リストをクリックすると四つの動画が挙げられていた。
その内の一つ、
『JKキックボクサー。珍走幹部ボクサーをハイキックで失神KO』
という過激なタイトルの動画をクリックした。
その動画は驚くべき事に、麗衣と赤銅亮磨のタイマンを映し出していた。
余程好評なのか? まだ動画を上げられて数日にも関わらず、コメント数は数百程あった。
「女子高生が暴走族とタイマンかよ! 何の漫画?」
「おお。JK可愛い!」
「てか、相手ボクサー? 女の子ボコボコにされてるじゃん」
「―(#゚Д゚)=○)`Д)、;'.!!!!!!」
「うわ……鼻筋潰れて痣になってるし、唇から血出て止まらないじゃん」
「鼻血は出ないの?」
「←鼻じゃなくて鼻筋だから出ない」
「リョナ動画?」
「はぁはぁ(*´Д`)」
「ジョシカクはレベルが低い」
「族と喧嘩って……女の子の方Mなの?」
「まわしちゃってください♪」
「レ●プレ●プ♪」
「JK犯してー。良いお尻♪」
「処●喪失シーン録画準備OK」
「←ヤリマンじゃね?」
「おしっこ漏らすまで腹殴り続けろ!」
「良いおっぱい♪」
「おっぱんちで逆転だ!」
「ボクサー頑張れ! JKのスポーツブラ剥がせ!」
「ポロリもあるよ♪」
「俺は可愛い子の方を応援するぞ!」
亮磨優勢時は浅ましい欲望で亮磨を応援するコメントが多いが、麗衣の金的攻撃で間を挟み、若干コメントがしらけた後、タイマンを再開し麗衣がミドルキックで亮磨の腕を潰しに行っているシーン以降、形勢が変わった。
「おおおおっ! 何じゃあの蹴り!」
「はえええっ! まるで鞭みたい!」
「鞭のしなり且つバットフルスイングの威力」
「理想のリズム。ちな経験者」
「ありゃ女じゃねーな。マジかよ?」
「ミスターレディ? 女子があんな早くて重そうな蹴りを打てるか?」
「←タイにはミスターレディのムエタイ選手居るんじゃなかったっけ?」
「エロんな意味で、ち●ぽ縮んだわ」
「←禿同」
「珍走表情が変わったぞ?」
「暴走族君。明らかに怯えているね」
「このままじゃ腕折れそうだな」
「ミドルはヒザでカット汁」
「←てかボクサーには無理だね」
「サムゴー・ギャットモンテープVS小林聡。思い出した」
「バットマンVS野良犬」
「ルンピニー3階級王者VS日本人として23年ぶりにラジャ王者に勝った男」
「←なんかさりげなく詳しい奴が混ざっとるw」
「サムゴーが当時カリスマだった小林のガードの上からミドル打って肘破壊した伝説の試合だろ?」
「あれ格闘技ファンなら誰でも知っている。知らねー奴はモグリ」
「野良犬の入場曲は北野武の映画Kids Returnのエンディング曲」
「敗者のコメント『獣の檻に閉じ込められたようだった』」
「←知らんがなオッサンww」
「おい! オッサンども! 想い出話している暇あるならJK応援汁!」
「とにかくJKカッコイイっ!!!」
「ガンガレ戦うJK!」
「可愛いは正義!」
更に亮磨を倒したシーンの盛り上がりが凄まじかった
「うぉおおおおおっ―――――――――――スゲーぇええええええwwww」
「JKが珍走に勝ったぞおおおおっ――――――――――――――!」
「珍走よわっwwww」
「俺ならあの珍走2秒で倒せる」
「暴走族。全世界に向けて醜態を配信wwww」
「更に珍走は絶滅危惧に陥った」
「←保護してやれよwww」
「族はもう死んでいる」
「何あの蹴り! 化け物?」
「JKつよ杉w 珍走南無(-人-)」
「まじかよ……ガードの上からだぜ?(゚Д゚) 」
「ガードの上からって……格闘技のプロの試合でもこんな事あるの?」
「サムゴー・ギャットモンテープVSレイ・スターリン」
「ああ。ガードの上からハイキックでKOしたあの試合か」
「←また詳しいオッサンが混じっとるwww」
「プアカーオじゃないの?」
「←素人は去れ」
「バットマンwww」
「サムガーwww」
「鉄パイプで殴られたみたい」
「店潰しました」
「←ちょっwwwキック詳しい奴大杉だろwww」
「この娘もしかしてプロキックボクサー? 誰か名前知ってる?」
「サムゴー二世」
「ボンちゃんルイ?」
「らーな」
「←嘘つくな。そもそも二人ともJKじゃねーだろwww」
「年齢詐称」
「ボンよりは強いだろ?」
「蹴りだけ見ればそこいらのプロ以上。相手との相性も良かったみたいだけど。本当強いよ」
「大みそかにRAIZANに出場予定」
「ゴッドチャイルド・奈須川天信かマンスター・井植尚矢と試合やる予定らしい」
「RAIZANじゃなくてアバマTVの企画じゃないの?」
「亀打が挑発してます」
「百一円ショップで買った柔らかいフライパン曲げて挑発しています」
「←それ本人がゲロしている事だし今更穿り返さなくて良いだろ?」
「俺は対戦相手マイウエザーって聞いたぞ?」
「ドーピングと体重超過の常習犯。ライス・ネリが相手」
「背中が鬼の顔した地球最強の生物が相手」
「←オマエラつまんねー嘘つくな」
「格闘技よく分からんがJKすげぇえええ」
「アニメでもラノベでもリアルでもJKは最強の職業」
「←キモヲタは帰れ」
「女子の蹴りじゃねぇな」
「おっぱいおっぱい」
「嫁にしたい。俺を毎日青竹代わりに踏んづけて下さい」
「どうかこの汚らわしい雄豚めを貴女のお尻に敷いてください(´⑪`〇)」
「さーせん。誰かこの子の住所と名前と電話番号おせーて下さい」
「通報しました」
「アホと犯罪者はほっといて」
「それよっか、まるでこの娘。ワイルドで狼みたいな風格だな。しかも王者っぽい?」
「君臨する狼……レイン・ウルフ!」
「←あ、その厨二病っぽい呼び名良いなw レイン・ウルフ」
「レイン・ウルフ。リングネームにしてしまえ」
「リングじゃねーよwwwケンカネームで良いだろ?」
「Reginwolf」
「レイン・ウルフ! レイン・ウルフ!」
「レイン・ウルフ! レイン・ウルフ! レイン・ウルフ!」
誰が言い出したのか『レイン・ウルフ』の大量の弾幕で動画は終了した。
「一体どういう事だ……顔がバッチリ映っているし、何処の阿保がこんな動画を撮っていたんだ?」
麗衣は頭を抱えた。
「可能性があるとしたら
実は思い当たる節はあった。
これって、まさか……アイツの仕業じゃないだろうな?
公園の監視カメラをハッキングして貰い、俺が
というか、こんな真似が出来るのはアイツぐらいしか思い浮かばない。
しかし、猛からこんな事をしているとは一切聞いていないし、頼んでもいないので猛の目的が不明だった。
この事は麗衣には言えない。
下手をすれば麗衣からの信頼を一切無くしかねないからだ。
少なくても猛本人に確認するまでは下手な事は言わない方が良さそうだった。
そんな俺の本心を知る由も無い麗衣は引き続き別の動画を確認する。
それはやはり勝子と姫野先輩のタイマンの動画だった。
麗衣が『レイン・ウルフ』などと呼ばれていたのと同じく、勝子は誰が言い出したのか『
そう言えば昨夜ファミレスで耳にした呼び名だったが、話題はやはり麗衣達の事であったのか。
だが、他人事では済まなかった。
「なっ……俺の動画まで上がっているの?」
最後の動画は俺の動画だった。
三人のタイマンに比較すれば著しくレベルが劣り、とても見れたものではないのだが、何故動画を上げているのだろうか?
案の定再生回数もコメント数も三人の物より遥かに少なく、評判も芳しくなかった。
まぁそんな事は重大な問題ではない。
「とにかく……これであたし達が麗である事は顔が割れちまったな」
「私達、今までみたいに秘かに暴走族潰しは出来なくなっちゃうよね……」
それどころか今朝の様子からして、普通に学校生活を過ごすのも難しくなりそうだ。
「暴走族もこの動画見ているみたいだね……何か万葉仮名? みたいな痛々しい当て字の暴走族が勝負しろとか名乗り上げているね……」
暴走族止めてゲーマーでもしていろよな。
「なんちゃって珍走か適当に名前考えて面白おかしく煽っている奴も居るんだろ? 多分ゲームヲタクが考えそうな名前は煽り。……でもどこかで聞いた事があるような暴走族の旧車會みたいな連中の挑発もあるよな……コイツ等いい歳こいて何しているの? 嫁さんが泣くぜ……」
旧車會と言っても必ずしも道路交通法違反を行う人達ばかりでは無い様だが、現役の暴走族の後輩に指示を出したり、繋がりが深い場合もあるらしい。
「まぁ、現実的に考えて旧車會が出張る可能性は低いとして、珍走が向こうから来てくれるなら、わざわざこちらから出向く手間が省けるってものだろ? 良いじゃねーか。幾らでも叩き潰してやるよ」
そういえば以前、姫野先輩が麗衣の望みは暴走族全てを潰す事だと言っていた。
まさか、本気なのか?
そんなの不可能に決まっている。何とか麗衣を止めなければ。
「でも、麗衣。イチイチ相手にしていたらキリが無いし身体が幾つあっても足りないよ?」
だが、普段は優しくしてくれる麗衣も暴走族の件となると取り付く島もない。
「うるせーよ! 文句あるなら今すぐ麗を止めても良いんだぜ?」
麗衣は勝子にスマホを返すと、ヨーグルトのケースとペッドボトルを持って屋上の出入り口に向かって行った。
「麗衣! どうしたんだよ! 麗衣!」
俺は麗衣に立て続けに呼びかけたが、無言で振り返りもせずに去って行った。
俺が麗衣の後を追おうとすると――
「待って! 小碓武!」
勝子は俺の肩に手を当てて、俺を留めた。
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