第32話 順転裁判 ~解き明かされるその「真実」、異議なし!~
現在わたしは生徒会室の椅子に座っていて、わたしの正面にはクルミさんが、右側の偉そうな人が座る席に副担任の美紀ちゃんが、左側の傍観席にはその他のクラスメイトたちが座っていた。
「被告人、入廷」
美紀ちゃんの発言で謎のBGMが掛かった。
そして、被告人 リアが警察官の格好をしたクラスメイトたちに両手を紐で縛られながら証言台に立った。
すると美紀ちゃんが木槌を二回叩いて音を鳴らした。
「これより被告人 リアの正体を巡る裁判を開始致します。それではまず検察側、
「まず被告人は今回の事件の発端である我が学校に伝わる呪い『うんちの長谷山』のウワサを被害者である佐藤に伝えた」
確かにそのウワサはリアの前世である田中から聞いた……もしかして本当にリアが犯人なの? というかわたし被害者じゃん。なんでリアの弁護なんてしてるの?
「そして、お前は佐藤に行くように仕向けた。その事件の前日に佐藤のリコーダーを音楽室に隠してな」
リコーダー? あっ、そういえばそうだったかも……? あれ? わたしが音楽室で演奏した記憶が……
「そして佐藤を音楽室に呼び出した。目撃者を用意してな。そこでお前は佐藤をバールのようなもので殴り、気絶させた」
わたし死んだじゃん。バールのようなものって殺人じゃん。え? もしかしてわたしはそこで死んでたの? もしかしてわたし漏らしてない? そっか、あれは夢だったんだ……! わたし漏らしてなかったんだ!!
「そして田中は佐藤を念じながら演奏した。そして佐藤は翌日に呪いの効果で漏らし、ショックで死んだ」
あっさりと現実を突きつけてきたクルミさん。わたしのライフはもう0です。
「佐藤は漏らした。これは紛れもない事実だ」
クルミさんにめっちゃ虐められて、もう泣きそうになったので、わたしはわざと自分の足の小指をぶつけて誤魔化した。
「……もう一度言う。佐藤は間違えなく漏らした」
その結果、同じセリフをもう一度聞くことにたった。どうやらこの空間にわたしの味方はいないようだ。
「だが、その時に漏らした人間は3人居たんだ」
「3人……?」
「一人は佐藤だ。そしてもう一人は佐藤が呪ったと見せかけるために隣のクラスにいた佐藤の親友にも呪いをかけ、彼を地獄に突き落とした」
じゃああと1人って……まさかっ!?
「最後の1人……それがお前だ田中! 目撃者によるとお前はその日、体育の授業で着替える際にトイレで着替えていたそうだ。恐らくその日漏らしてもバレないようにするために何か履いていたんじゃないか?」
それって……まさかっ━━━━━━!?
「そうだ! オムツだ! あの日お前はオムツを履いていたんだ!」
「さっきから何を言ってるんだ。俺はリアだぞ? どこにそんな証拠があると?」
リアは凄い余裕そうな顔で証拠を求めてきた。もちろんそんな証拠など、どこにもないのがわかっているからだ。嘘探知魔法の結果も伝えた人が虚偽している可能性もあるから、立証することなど出来ない。……普通なら。
リア……ごめん。今回ばかりは助けられないよ。今まで楽しかった。だから罪を償ったらまた一緒に遊ぼ?
『俺さ、前世の記憶があるんだ。こことは全く違う世界で魔法もない世界。そんな世界で学校に通ってたんだ。何もないつまらない日常だった。
でも、そんなある日授業中に俺の横でうんこ漏らしたやつがいたんだ。そいつ佐藤っていうんだけどさ、みんなで爆笑したんだ。
けど、そこから先の記憶がないんだ。他のクラスメイトたちが倒れたのは覚えてるんだが、そこから先は覚えてない。たぶん死んだんだと俺は考えた』
「っ!?」
その時、わたしは録音機で録音していたリアとの会話を流した。わたしも真実が知りたい。リアが悪いのかどうなのか。
リアはわたしを睨んできた。それと同時にクルミさんは笑った。
「リア、ごめん……でもその話が全部本当ならちゃんと罪を償うべきだと思う。わたしはリアの親友だから……親友の間違った道を正すのが親友だから━━━━だから、ちゃんと罪を償って━━━━」
「フェノン……お前いつの間に録音なんてしていた?」
「あの部屋にはわたしが産まれた瞬間から既に記録魔法が発動していたんだよ。今も発動してる。全てはおかあさまがわたしの成長を見るためにね」
まあ、その記録は屋敷から勝手に盗んで来たんだけどね。まあ、これのお陰でお母様たちにわたしの正体バレちゃったんだよね。かなり前になるけど。
ちゃんと問い詰められたけど、全部話したらわたしを抱きしめて頭を撫でてくれたよ。本当に家族愛っていいよね。なんか思い出したら涙が……
「さてリアくん、君が田中であることは既に証明された。何か言いたいことはあるかね?」
「俺はやってない。何か証拠を出せよ! 俺がやったという証拠を!」
するとクルミさんは袋に入った茶色く染まった白い布を取り出した。
「この世界に来たときに君のズボンの下から出てきたオムツだ。もう言い逃れはできないぞ」
「クソ!」
するとリアは観念したかのように事件の全貌を明らかにした。
「そうだよ。俺がやったんだ……」
結論から言うとリアは普段からボッチで隣の席にいたわたしと友達になりたかったけど、共通の話題がなかったから何か良いことはないかと思った時にその呪いのウワサを聞いたらしい。それを聞いたリアはそれを話題にわたしと会話したくて話しかけるけど、わたしの反応が薄かったから呪ったらしい。
なんか犯行理由に納得ができなかったけど、それは今度問い詰める。今問い詰めたらわたしの正体までみんなにバレる。それだけは回避しなくては……!
「弁護人、何かご意見は?」
「リアの罪、わたしに決めさせてください……」
わたしが美紀ちゃんに訴えると美紀ちゃんは息をついて木槌を机の上に置いた。
「どうぞご自由に。皆さんもそれでいいですね?」
傍観席の人たちも、クルミさんも頷いた。わたしは美紀ちゃんの持っていた木槌を手に持って、判決を言い渡す。
「リア、ごめんね。でも自分の罪は償うべきだと思ったの」
わたしは生徒会室にあるマイクを全校放送に切り替えた。そして、わたしはマイクに向かって言った。
『学園内にいる全ての人に伝えます。静かにしてお聞きください。
数日前に男らしいことで有名な女子生徒のリアが可愛いドレスなどを販売しているお店、フルールドレイスに入る所及び、試着、購入している姿が目撃されました』
「なっ!?」
リアの顔は驚きと羞恥で顔が真っ赤に染まって「何で知ってるんだ!?」という顔で何か言いたそうにしていた。
実はその日、わたしはたまたま街を彷徨いていたのだ。そしてリアを見つけて試しに尾行してみたらその姿を見てしまったのだ。
『繰り返します。数日前に男らしいことで有名な女子生徒のリアが可愛いドレスなどを販売しているお店、フルールドレイスに入る所及び、試着、購入している姿が目撃され━━━━』
「繰り返すなァーーーーーーー!!!」
リアへの罪としてわたしは同じ放送を20回繰り返した。
リアが羞恥の限界を迎えて気絶し、裁判が閉廷するとクラスメイトたちは解散していったが、美紀ちゃんはわたしに話しかけてきた。
「正直先生はフェノンさんが庇うと思ってました。ですからこう言ってはなんですが……フェノンさんは優しいですね」
美紀ちゃんはわたしの頭を撫でて生徒会室を出ていった。すると今度はクルミさんがやって来た。
「これでスッキリしたか? ……佐藤」
「わたしは佐藤じゃ━━━━」
「誤魔化せてるとでも思ったのか? とっくにバレてたぞ。図書館で私の話を聞いたフェノンくんの耳の反応でな」
「……誤魔化せないようですね」
これ以上クルミさんに何か喋らせるとわたしの精神が焼き殺されるので早めに認めておく。どうせ逃げ道もなさそうだから諦める。
「確かにわたしは佐藤でした。けど、いまは……」
「そうだな。どちらかというとフェノンくんという存在に佐藤の記憶があるだけのような感じだな。前世と今世を上手く使い分けてるのだろ?」
「単純に記憶が曖昧なんですよ。時間が経つ度に少しずつ消えていってるような感じです。中学生よりも前の記憶は何も残ってません。近いうちに全て消えるでしょうね」
クルミさんは少し驚いた顔をしていた。そして思ったよりも反応がつまらなかったのか、クルミさんはここで地雷を投下してきた。
「……うんち漏らし」
「ぎゃあぁああぁぁあぁああッ!!!!」
わたしは叫ぶと同時に頭を抑えながら地面をゴロゴロと転がった。
「どうやらこの記憶は二度と消えなさそうだな。一生胸に刻んで生きるといい。うんち漏らしの
「もうやめてくらひゃい……」
涙目でクルミさんにしがみついた。そしてクルミさんの顔をじっと見つめる。
「……どうやらフェノンくんは根っからの女の子のようだな。だが弄りがいがあって面白い。性的な面ではリアくんを、日常的面ではフェノンくんを弄るとしよう」
お願いですから全部リアくんを弄ろうと言い直してください。わたしはもうイヤです。
「ところでフェノンくん」
「なんですか?」
「フェノンくんはオナ━━━━」
わたしは反射的に青白く光ったその拳でクルミさんのお腹を殴った。
何故か抵抗感もなく普通に殴れた。これが女の子としての
殴られたクルミさんは壁に当たったけど、防御魔法的な何かを使っていたのか、その場に立つことが出来ていた。
「せっかくフェノンくんに女の子の魅力を教えてあげようとしたのだが……残念だ。やはりこういうのはリアくんだな。彼女はどうする? 部屋まで運ぶか?」
クルミさんはお腹を抑えて、若干顔を引きずりながら言った。
恐らくかなり痛かったのだろう。
「わたしが運びます。クルミさんは保健室にでも行ってください。身体強化を使ったんで、もしかしたら内臓が砕けてるかもしれませんので」
「そうさせてもらうよ……」
わたしはリアを背負ってクルミさんと生徒会室を出て鍵をかける。その後クルミさんと別れて部屋に戻った。
「ただいまー」
「フェリナスちゃん、おかえり」
部屋に戻るとエリーがリュックの中に荷物を入れていた。
「……なにしてんの?」
「これ? 明後日から帰省期間だからね。その準備だよ。フェリナスちゃんも早く準備した方がいいよ」
そう言ってエリーは荷物整理を再開した。
帰省期間というのは1週間ほどあって、魔法学園武闘大会だっけ? 名前忘れた。まあなんでもいいや。
とにかくその大会や校外学習で必要なものを準備するためにある。……というのは建前で、一応この学園に通っているメインの生徒はまだ子供なので、『お母さん会いたいよ症候群』が発生するのを防ぐためにあるらしい。
この期間は寮だけでなく、学園全体に入ることが禁止されていて在校生徒は必ず寮を出なければならない。そこでわたしは思い出してしまった。
……クルミさんたちどうしよう?
「……あとで考えよ」
わたしも必要なものだけを段ボールみたいな箱に入れて準備する。服とかは一応屋敷にもあるので、間違えて持ってきた小さい頃の服を箱に入れていく。
けど、この前みたいに魔力を大量消費すると吸魔石に付与されている時間魔法が発動して、身体が小さくなるってお母様が言ってたので2、3着はここに置いて行く。
完全制服は明後日からの予定なのだが、休みとなっては仕方ない。リアの制服姿は休み明けの楽しみとしよう。
「よし、準備完了! あとは……」
わたしは荷物整理を終えて校門前にあるツバキさんのお団子屋さんへと走って行った。
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