愛情料理

白情かな

ある日

黒い土と混じったような砂じゃだめ、あれは泥臭い味になってしまうから。

晴れた日の公園の砂場みたいな、白くてサラサラな砂がいい。


私は砂にこだわる。ザリザリの触感に不快感を覚えてほしいだけで、私が愛情込めて作る料理が不味くなってしまうことは許せないから。


「はい、お味噌汁だよ。味わって残さず飲んでね」


私は朝晩彼女の食事を作る。もちろん仕事が休みの日は朝昼晩。丹念に愛情をこめて、創意工夫をして、最高の料理を作る。そして最後に、砂をぱらぱら。


彼女はそれを残さない。おいしそうにバクバクと、あるいはごくごくと食べ味わう。もし万一残そうとしたら私は言う、「残しちゃうの?」


彼女はハッとして、上手くなってきた作り笑顔を崩しながら必死で私の料理を食べる。食べて食べられないことはない。だって味には自信があるから。食べられないとしたら、それは心が足りないだけなのだから。


彼女は私のことが好きだ。だから絶対残さない。


「今日も残さず食べてくれてありがとう」


私が笑顔でそういうと、彼女は心底嬉しそうな顔をして今日もありがとうってお礼を言う。

もしその笑顔に少しでも今日の食事が終わったみたいな安堵感が表れ始めたら、私は彼女との付き合いを終わらせるつもりだ。


この砂は試金石、愛があれば食べられる。


私は不安なのだ。今まで恋人がいたことはあったけど、いつしか愛が失われていった。「ずっと愛してるよ」そんな言葉に何度裏切られたことか。だから私は言葉なんて信じない、日々の行動で示し続けることだけが、愛を証明するのだ。


「いってらっしゃい、今日も最高の料理を作って待ってるから、寄り道しないで帰ってきてね」


彼女は軽いキスをして仕事に出かけていく。


内側からは鍵を開けられない10階建てマンションの特別な部屋で、私は彼女の晩御飯を考え始めた。

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愛情料理 白情かな @stardust04

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