片山小太郎と、素晴らしき日々。

その1

 片山という家には四人の男女が住んでいる。

 片山父、片山母、残念な姉、そして私である。


「おい小太郎、おいこら、なんだその頭は。テレビが見えねぇだろ」


 こう言うのは残念な姉である。

 誠に不本意なことではあるが、この姉が私の血縁であることは認めざるを得ない。私の唯一の汚点とは何かを問われれば、私は迷わずこの姉を顎で指し示すであろう。たかだか五年早くこの地へ降り立ったがだけで、こうも傍若無人に振る舞えるとは、ほとほとあきれる。出るため息もとうに尽きた。


「なんだとは何だ。アフロだぞ。すごいだろう」

「すごいってなんだ、すごい邪魔だよ」


 と姉は米粒を飛ばす。

 これを見る片山父・母はいたって中立。ただ微笑み、朝食を進めていく。姉の粗暴な態度すらも、意に返さない。なるほど、これがアダルトな振る舞いか。私も真似し、ずずっと味噌汁をすする。うんまい。


 テレビではキョーコ女史によるお天気コーナーが映されていた。

 『おはようスマイル』は私の一日の始まりと言って過言ではない。お天気キャスターの小田桐キョーコ女史は、画面を通して私に毎日のように微笑んでくれる。黒く、そして真っ直ぐな髪はつやつやと、無垢とは白ではなく黒のことを指し示すのではないかと思うほどである。かわいい。

 ぴゅきゅりんきゅるーんと音が鳴り、画面には「今日の京子じゃんけん」の文字。今朝もこの時間がやってきた。

 私は右手に力を込める。

 全身の気を、右手一カ所に集める。これで力尽きようと構うものか。

「じゃーんけーん……」

「これだああああああ!!!」


 私はグーを天高く掲げた。


「ぽん♪」


 そしてキョーコ女史は、グーを出したのであった。


「うおおおおおおおおおお!!!!!」


 私の咆哮に、片山父は鮭を落とし、片山母は米粒を味噌汁に落とした。


「……キョーコ女史とあいこ……これは、ツイているぞ」


 テレビはCMにうつり、地元の企業が映し出される中、残念な姉は「ほんとこいつ、早くなんとかしないと……」とごちるのであった。

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