扉が開いて、

「モリー」に男が入ってきた。

「邪魔するぜ」

男はマスターをチラリとだけ見た。

「また、あんたかい」

マスターは男を目で追った。

男はいつもの窓際の席に座る。

マスターがゆっくりと、

男の前に水の入ったグラスを置いた。

「あの子は」

「あいつのところだよ」

「そうかい」

「チェリーパイをもらえるかな」

「悪いな、切らしてるんだ」

「そもそも、チェリーパイなんてメニューにないだろう」

男はマスターを見て、ニヤリと笑う。

「研究中だ」

「あの子に作らせる気かい」

「それはないな」

男は、じっと窓の外を見ている。

海月が大きな紙袋を抱えて、

砂利道を歩いてくる。

「戻ってきたみたいだぜ」

男は独り言のように言った。

ドアが開いて、海月が店に入ってくる。

「おじさん、ただいま」

「おかえり」

「嬢ちゃん、おかえり」

窓際の男が海月を見た。

「なんだ、クマさん来てたんだ」

「あいつの所に行ってたのか」

「うん、クマさんパン食べる。焼きたてだよ」

「食べるかな」

男が微笑む。

「野イチゴのジャムつけるね」

「ねえ、嬢ちゃん」

「あいつはチェリーパイ作れるかなあ」

「どうだろう。今度聞いてみるよ」

「あたしは作れるけど」

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