女は管理人のいる小屋に行って、

自分の部屋の鍵を預かる。

セパレートされた建物がいくつも並ぶ宿泊施設。

「モーテルじゃないか」

女は独り言をつぶやく。

「よう、姉さん帰ったのかい」

宿泊客の男が声をかけた。

女は無視するように、

自分の部屋へと急ぐ。

「つれないなあ」

「あんた一人だろう」

「俺も一人なんだ」

「だから何なの」

不機嫌そうにつぶやく女。

「あんたもあいつを追ってきたんだろう」

「稲垣なんて、ろくな奴じゃねえ」

「居場所を知ってるのか」

「まだここには来てねえよ」

女は男の返事を無視するように、自分の部屋の鍵を開ける。

「いくらやられたんだい」

男はニヤニヤ笑いながら女に言う。

男は女が部屋に入ったのを確認した後、

管理人の小屋の方に向かう。

「あの女はいつから来てるんだい」

「昨日からだよ」

「そうか」

男は自分の部屋の方に歩きながら、

もう一度女の部屋を見た。

「ついに動き出したかな」

男は自分の部屋には戻らずに、

大通りを歩きはじめる。

そんな男の様子を、

女は自分の部屋のカーテンの隙間から覗いていた。

女は部屋の明かりをつけずに、

ベッドに横になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る