勢いよくカフェのドアが開いて、女が入ってくる。

ダークスーツを着た女は、店の入口で誰かを捜している様子。

もう一度ドアが開いて、女の子が入ってくる。

「ご苦労様」

マスターが女の子に声をかける。

スーツの女は、マスターを見て近づいていく。

マスターが少し後ずさりする。

「月ちゃん、どうだった」

「面白い人だね」

「バターの作り方は教えてあげたの」

「教えたよ」

「ご主人」

「ご主人」

スーツの女が、マスターに話しかける。

マスターが女を見る。

「まあ、お掛けください」

マスターが女に空いている席を手で示した。

女はマスターが示した席にゆっくりと座った。

海月が水の入ったグラスを女の前に置く。

「どうぞ」

微笑みかけた海月を、女が上目遣いでチラリと見る。

マスターがコーヒーをテーブルの上に置き、

女の向かい側に座る。

女はコーヒーを見た後、マスターの顔を見る。

「サービスです」

「それで何のご用でしょう」

「物件を探している」

女がポツリと言った。

考え込む、マスター。

「ないのか」

「あることはあるんですが」

「ぼろいアパートで」

「それでもいい」

「あなたみたいな人には、お勧めできないな」

「今は男が一人住んでいるだけで」

「それでもいいって、言っているだろう。見せてくれ」

興味ありげに見ていた海月の目と

マスターの目が合った。

「わかりました」

マスターは首を小さく振りながら、女にそう告げる。

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