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粉と卵を仕入れた後、
コーヒー豆を仕入れるため
「モリス」というカフェに行く。
町のはずれにある「モリス」のマスターは、
この町の数少ない男の知人の一人だった。
男の住んでいる家のオーナーは、
この町には住んでいない。
家のことで何かあるときは、
マスターに相談してほしいと言われていた。
家のことを相談したことはないが、
コーヒーを飲みにはよく訪れる。
「豆だけでいいのかい」
「ミルクは」
「まだ粉のミルクがあるから」
「そうかい」
「そういえば、牛乳でバターを作りたいんだけど」
「市販の牛乳じゃ無理だよ」
「えっ、そうなの」
近くでかすかに笑い声が聞こえた。
男が隣を見ると、見知らぬ女の子が立っている。
「そうだ、そうだ」
「この子は、親戚の子でね。夏休みで、手伝いに来てくれたんだ」
「クラゲです、よろしく」
女の子は、大きく頭を下げた。
「先生ですよね」
一応、男は作家ということになっている。
今のところ、書いたもので一円も稼いじゃいないが。
「この子、作家志望なんですよ」
「それよりも名前が」
マスターはニヤニヤ笑いながら男を見る。
「出野海月(イデノミヅキ)です」
「あたしの親は海に月って書いて、クラゲって読むの、知らなかったみたい」
女の子はそう言って微笑んだ。
「先生、生クリーム持っていきますか」
「生クリームですか」
「これならバターが作れますよ、簡単に」
「そうですか」
女の子が笑顔で男を見る。
「振って、冷やして、振って、冷やして」
「あたし知ってますよ」
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