第11話 微距離

「本当に、申し訳ありませんでした」


☀︎オー、ドゲザ


⭐︎なんで片言かな?


☀︎珍しいもの見たからなぁ


⭐︎私は申し訳なさでいっぱいです


「ちょ、ちょっとスズちゃん、頭上げて。なんで世界の終わりみたいな顔してるのよ?」


「今日は卓球部の顧問としてお伺いしています。今回は私の監督不行き届きのせいで朝陽くんに怪我を負わせてしまい、申し訳ありませんでした」


「いやいや、だからスズちゃん。そんな顔しないでってば! 少し安静にしてれば治る程度のものだから。本人だってケロっとしてるんだから」


「……でも、夏の大会には間に合いません。県大会3連覇が掛かった大事な大会。朝陽くんが頑張ってた姿を誇らしく思ってました。それなのに……」


「んなもん結果でしかね〜よ。3連覇なんて狙ってなかったし、早めに受験勉強始められてラッキーって思ってるくらいだし」


「朝陽! あんたそのハーゲン私のだって言ったわよね? 後で同じの3つ買ってきなさいよ!」


「ケチケチすんなよお袋。で、鈴姉はなんでそんなブサイクなツラしてんだ?」


「あさくん。……本当に、ごめん、なさい」


「あ〜、もうスズちゃん! 泣かないの! ほらっ朝陽! あんたなんとかしなさいよ!」


「はっ? ああ、ギュッ抱きしめればいいか?」


⭐︎だめです。私以外にはだめです


☀︎しねぇよ。私にも


⭐︎……私にはいっぱいして、いいんだよ?


「やっと泣き止んだか」


「ん。ごめん、あさくん」


「あ〜、もう気にしてねぇから謝んなって」


「でも、柔道部も退部したって聞いたし」


「どのみち、大会終われば引退なんだからいいだろ」


「よくないよ。あさくん部長なんだし」


「ガラじゃねぇんだよ。他人の応援って」


「そんなこと言って。あさくん、後輩の面倒見すごくいいって聞いたよ?」


「あ? 誰かと間違えてるんじゃね?」


「もう、素直じゃないんだから。……ねぇ、あさくん。今だから聞くんだけどさぁ、強豪校のスカウト断ってウチの高校来てくれたのって、私のためだったりする?」


⭐︎えっ!


☀︎こわっ! どうしたらそんなに早く首回せんだよ


「はっ? 何言ってんだよ?」


「だって、前に話したことあったよね。私が学生の頃からウチの高校、部活動で表彰されたことないって。だから、あさくんが表彰されるの、私はすごく楽しみにしてた。面倒くさそうに賞状を受け取ってたけど、私はすっごく誇らしく思ってたんだよ?」


⭐︎へ〜、ほ〜、は〜


☀︎勘違いも甚だしい


⭐︎へ〜、ほ〜、は〜


「あの御堂先生」


「あら小野さん、どうしたの?」


「あの、大野くんの家に謝りに行ったって聞いて。その、私のせいですみませんでした」


☀︎あれっ? 土下座じゃねぇの?


⭐︎申し訳ありませんでした


☀︎いや、ホントにすんなよ


⭐︎だって、あの時はちゃんと謝れなかったもん


☀︎イチャイチャするので忙しかったからだろ?


⭐︎違うもん!


「ああ、うん。大丈夫よ。ここだけの話、私、大野くんとはお隣さんなの。だからちっちゃい頃から知っててね。だから小野さんは変に気を使わないでね? 本人も親御さんも気にしてないって言ってくださってるから」


「あの、御堂先生」


「あらっ、古木くんまで」


「その、まさかとは思いますけど報復とかって」


「古木くん。彼はそんなことしません。さすがに今の言葉は失礼よ」


「あ、いや、その。すみませんでした」


☀︎報復する?


⭐︎……したいの?


☀︎いや、あんたが言うとエロかと思うわ


⭐︎いや、おかしいよ?


 高校時代、私たちが一番近づいたのはこの事件だけだったね

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