第3話 最接近

「痛いよ兄ちゃん」


「うるせぇ、いちいち付いてくるなよ」


「たまには遊んでよ」


「嫌だよ、お前ゲーム弱いし」


「なによ卓也、たまには弟の相手してあげなさいよ」


「すずねぇちゃん」


☀︎隣に住んでいる御堂鈴音みどうすずねは兄貴の幼馴染でいつも俺の味方だった


⭐︎お隣さん⁈


☀︎おう? 知らなかったか?


⭐︎う、うん


「今から部活だよ、構ってられねぇの。帰宅部のお前に任せた」


「あっ、ちょっと卓也!」


「兄ちゃん」


「仕方ないわね。あさくん、お姉ちゃんと遊ぼうか」


「うん! 何する?」


「そうね〜、よし! 学校ごっこしよう。教科書とノート持っておいで」


「うんっ!」


⭐︎学校ごっこ?


☀︎ようは騙されてたんだよな。勉強を遊びって刷り込もうとしてたんだよ


⭐︎でも結果オーライだね


「よ〜し、どこまで進んだのかな?」


「すずねぇちゃん。今日はね、引き算やったよ」


「そう? じゃあ引き算の復習ゲームと掛け算の予習ゲームをしようか?」


「うん! 負けないぞ〜」


☀︎小学校低学年の頃はこうやって鈴姉に勉強をやらされてた記憶しかねぇ


⭐︎先生と生徒だね


☀︎……おう


「ゆうちゃん! 公園行こう! お父さんとブランコ乗ろうか?」


「うん? お母さんとがいい」


「じゃ、じゃあ滑り台、一緒に滑り台やろう」


⭐︎休みの日はお父さんがいつも一緒にいたがったなぁ


☀︎箱入り娘だからな


⭐︎違うと思うよ


「周平さん、あまりしつこいとゆうちゃんに嫌われるよ」


「なっ! ゆうちゃんは、ゆうちゃんはお父さんが大好きだもんね?」


「う〜ん? お母さんの方が好き」


「ふふっ、ゆうちゃんありがとうね」


「男は、男の人ではお父さんが1番だよな?」


「うん? よくわかんない」


「あ〜! なんで? これだけゆうちゃんのことを愛してるお父さんが1番じゃないんだ!」


「そういうところだと思うよ。いまのうちに治しておかないとゆうちゃんが大きくなったときに本気で嫌われちゃうよ」


「夕陽、お父さんはお仕事してくるからお母さんに遊んでもらいなさい」


☀︎変わり身はぇぇな


⭐︎極端なんだよね


☀︎おたくのおっさん、昔はこんなんだったんだな


⭐︎あの、呼び方


☀︎あん?


⭐︎あの、おたくとかあんたはやめてってね、前にお願いしたと思うんだよ、ね


☀︎ああ、わりぃ。簡単に直らないもんだな


⭐︎えっと、じゃあやり直す?


☀︎はっ? わざわざ?


「お前が一中の大野だな?」


「誰だ?」


☀︎中学生くらいになると標準よりデカくて目つきの悪い俺は街中で絡まれることが増えた


「で、あいつは誰だったんだ?」


「さあ?」


☀︎こいつは腐れ縁の滝口賢たきぐちけん。いわゆるイケメンってやつだな


「なんで俺ばっかり絡まれるんだ?」


「ん〜? 脳筋っぽいからじゃない?」


「お前なぁ」


「いいじゃないか。実際は違うんだし。自他共に認めるヤンキーが県内でもし有数の進学校に合格なんておかしくてしょうがないでしょ」


「誰がヤンキーだよ。自分から喧嘩売ったことなんてねぇよ」


「結果として潰してるんだからしょうがないよ」


「喧嘩売ってくるわりには弱すぎるんだよ」


☀︎ 降りかかる火の粉は払わねばならぬ


⭐︎相手にしないって選択肢もあるんだよ?


☀︎殴りかかられてもか?


⭐︎朝陽くんなら穏便に済ませれるはずだけどなぁ


「ゆうちゃん、早くしないと遅刻するわよ」


「もう準備できてる」


「誠くん迎えにきてくれてるわよ」


⭐︎幼馴染の古木誠ふるきまことくん。


☀︎彼氏だろ?


⭐︎……違うもん


☀︎まだな


⭐︎……いじめっ子だ


「おはよう誠くん」


「おはよう夕陽。新入生総代ともなると余裕だな」


「うぅぅ、言わないでよ。入学式で挨拶なんてしたくなかったのに」


「仕方ないだろ。首席合格者が新入生総代ってのは元々決まってたんだからさ」


「……違うんだよ。私ね本当は首席じゃなくて次席だったんだよ」


「はぁ? じゃあなんで夕陽が総代なんだよ?」


「あのね。一応声かけたんだけど断られたんだって。でも、その話してた先生のホッとした表情はなんだったんだろう?」


⭐︎首席じゃないのに総代にさせられたんだよ? 私だって断りたかったよ


☀︎断りゃ良かったじゃねぇか


⭐︎だって、先生困ってたもん


☀︎じゃあ受けたあんたが悪いんだろ


⭐︎違うよ、断った首席の人が悪いんだよ


「新入生総代、小野夕陽」


「は、ひゃい」


「は、春の日差しが降り注ぎ、桜舞い散る———」


☀︎緊張し過ぎだろ


⭐︎そんなこと言われても場違いだったもん


「大野朝陽」


「……」


「大野朝陽いないのか?」


「……へ〜い」


「お前が大野か、よく覚えておくぞ」


☀︎入学式なんてでる必要ないだろ


⭐︎だって決まりだよ?


☀︎無駄な時間だな


「同じクラスで良かったな」


「うん。知ってる人がいると安心できるよ」


「知ってる人ね」


「……誠くんがいてくれると、ね?」


☀︎やれやれ、入学式から見せつけてたのかよ


⭐︎そんなんじゃ、ないもん


「よう朝陽」


「なんだ賢かよ」


「なんだはないだろ。お前入学式いたか?」


「……さあな」


「初っ端からやってくれたな。で、お前何組だ?」


「B」


「隣か。俺はCだった。が同じクラスにいたぞ」


「へぇ、興味ねぇな」


「逆にお前は何に興味あるんだよ」


「あ〜、一応柔道部見に行くぞ」


「部活ねぇ。俺は今からバイトの面接だ。じゃあお先な」


「っと、わりぃ、見えてなかったわ」


「い、いえ、こちらこそすみませんでした」


☀︎振り返った瞬間、ちっこいのがぶつかってきた


⭐︎視界には入ってたよね?


☀︎あ〜、あっ? いなかったんじゃないか?


⭐︎もうっ! でも、高校進学で私達の距離は再び近づいた。まずはまで

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