第四話 アンビバレント・マリッジ

前編<竜之介>1

 その日、私は真っ暗闇で目を覚ました。

 この時点で既に少し変だった。私は一度寝るとその日の内にはまず起きない。私の目ざましであるアレクのひと声は、決まって朝七時、太陽の光がカーテンの向こうから差し込む頃に響く。

 ぼんやりと目を開いて天井を見る。目が慣れるまでもなく、ここは私の部屋じゃないと気づいた。

 そこはずいぶんと広いホテルの部屋のようだった。心地よい程度に暖房がかかっていて、シーツの外に出ている肩も全然寒さを感じなかった。

 ふと頭に疑問符を浮かべる。

――ちゃんとお腹をしまって、肩までお布団を被って寝るんですよ。

 私は物心ついた頃からアレクに言われているので、絶対に肩を外気にさらして寝たりしない。

 ついと自分の体を見下ろして、そこで息を呑む。

 パジャマどころか下着もつけない全裸で寝ていることに気付いて、私は今度こそ完璧に目を覚ました。

 頭に警鐘が響く中で、もぞりと隣が動いた。

 私は一瞬期待した。そこに寝ているのが私の片割れであるミハルなら、私はかなり無理があるながらもこれが日常だと信じられた。

 二人で旅行中に、ふざけてミハルと裸で寝込んでいた。そういうことにすればいい。

 いやミハルと寝転んでいても服くらいは着ているような気もするが……細かいことはこの際どっちでもいい。

「……安樹?」

 隣で身を起こした男は、肩幅の広いがっしりとした体格に、短い黒髪で、寝起きだからか声がいつもより低く掠れていた。

 彼はその黒々とした目で私を見て、ついで自分を見下ろす。

 彼もまた裸であることを私も気づいて、その瞬間私の頭が許容量をオーバーした。

 がんと私は壁に頭を打ち付けた。

「おい、何してる」

 彼は慌てて私を後ろから羽交い絞めにしてそれを止めた。

「止めるな! こんな悪夢なんてない!」

 私は涙目になりながら、彼をぎっと睨み返す。

「なんでお前とこんなことになってるんだ、竜之介!」

 その日の私は、天敵の幼馴染と全裸でベッドに入っているという、最悪の場面から始まったのだった。

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