第22話 形勢逆転

おっさんたちの事はお姉さま達に任そう。

私はフェルリンの方に取り掛かる。


「ねえ、あなたはどこに魔方陣が有るか知っている?」


「オゥ、アゥオ~ン。」


一生懸命何か言おうとしているらしいけれど、

全然分から無い。


魔方陣が有るとすれば、多分皮膚に焼き付けられているのだろう。

しかし、こうふわふわした毛に覆われていると、見た目では分からないぞ。


「この体の大きさを、毛をかき分けて探す?

でも目に見えるとも限らないし、困ったなぁ。」


「クゥ~ン。」


申し訳なさそうにフェルリンがへこんでいる。


「大丈夫、きっと何とかしてあげるからね。」


そう言ながら、なでさせてもらう。

当然眉間を。

私の知る限り、動物って対外ここを撫でられる事が好きだよね。


「うにゃ?」


何やら違和感があるよ。

毛をより分けて確認しても、何かが有る訳では無かった。

でも、何かいや~な感じがする。


「ねえ、もしかしてこれが魔法陣?」


するとフェルリンが、コクコクト頷いた。


「やった、ビンゴ!

大丈夫、すぐに解除してあげるからね。」


これさえ解除すれば、フェルリンが意にそまない事を強要されることは無いんだ。

さて、解除ってどうすれば良かったっけ。

確か教わった覚えが有るんだけど、思い出せない。

聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥じ、

ならば短い方がいいに決まっている。


「お姉~様~~、お聞きしたい事が有るんですけど~~~~。」


下にいるお姉さまに大きな声で叫んでも、

何やらおっさん達と取り込み中の様だ。

ありゃ、剣まで抜いているよ。

おっさん、それすると逆効果だよ。


とにかく今は聞く事は出来そうも無いと判断し、

記憶を何とかたどるけど、やはり思い出せない。

仕方ない、お姉さま達の手が空くまで待つしかないか。


「無くなれ~、無くなれ~。」


取り合えず暇だから、フェルリンの眉間を撫でながら、

おまじないでもしていよう。

気は心って言うじゃない。


「ウォッ、グッ、グォォォォッ!」


「なっ、ど、どうしたの!?

どうどうどう。」


突然フェルリンが、苦しそうに顔をゆがめ、首を振り回す。

もしかして、私のおまじないが逆効果だったのか!?


「ごめん!ごめんね!

あぁどうしよう、どうすればいいの!? フェルリンが死んじゃう!」


私は取り乱すが、それがどうなる物でも無い。

額の魔方陣がわずかな光を放ちだし、

それが徐々に体全体に広がっていく。

それを見て、更に慌てる私。

と、とにかくお姉さまなら、何か知っているかもしれない。

私はフェルリンにしがみ付いたまま、

お姉さま達に目線を向ければ、

どうやら暴れるフェルリンに驚いたのか、

戦いは一時休戦していた。


「てめ―!こいつに何をしやがった‼」


「エッ、エリーちゃん!

危ないから早く降りて来なさい‼」


下では皆さんが、私に向かって思い思いに叫んでいるけど、

私にはこのフェルリンに責任が有ります!


「お姉様―ごめんなさい。

私なんかやらかしちゃったみたいです—!

フェルリンちゃんの従属用魔法陣を撫でていたら、突然苦しみだして…。

どうしましょ~。」


「このガキ、なんて事しやがった!

いや、こんな奴が出来る訳ない。

それを解除できるのは、掛けた本人か、

そいつ以上の魔法使いにしか出来無い筈だ!」


「あなた、それを掛けるのを、どなたに依頼なさったのですか。」


「い、いや。

その辺の通りすがりの魔法使いに……。」


それを聞いたお姉さまが、呆れたように溜息をついた。


「それなら私達にだって解除できますよ。

それにしてもエリーちゃん。

よく方法を覚えていましたね。」


いえ、覚えていませんでした。

ただ、いい子いい子すれば良かったんですか?

私のやったことは、正しかったんですか?


「よくやりました。

しばらくすれば、そのフェルリンも落ち着くでしょう。」


お姉様は褒めてくれているようです。

これは、言わぬが仏ですね。


やがてフェルリンの荒い息が収まっていく。

まだ、少し影響が残っているみたいだけれど、

その目の光は、しっかりとしたものになり、

四肢をしっかりと踏みしめ、何とも凛々しい姿だ。


「あ、あわっ、や、やばい!」


おっさんは腰が引けるように、ここから逃げ出す準備をしているようだ。


「て、てめーら、ここから逃げるんじゃねーぞ!

何としてもあのでか物を取り戻すんだ」


そして、手下を囮に、自分だけ逃げるつもりですね。

あのフェルリンを枷無しに、ただの人間がどうにかできないもの。


「お姉様、私の事はもう大丈夫ですから、

思う存分やっちゃって下さい!」


そしておっさん達、ご愁傷さまです。

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