第21話 命知らず
う、動けません。
取り合えずフェルリンが命令に従ったのだろうけど、
誇り高きフェルリンが屈するなど、
よっぽど呪いの人形が強力なんだろうな。
動けないなら仕方がない。
取り合えず様子を見るか。
「エリー!」
「エリーちゃーん!」
遠くで私を呼ぶ声がする。
きっと、いつまで経っても私が帰らない事で、探しに出たのだろう。
よっぽどの便秘でない限り、こんなに時間は掛からないからな。
まあ、そう時間が経たないうちに、私の居場所は判明するだろう。
それにしても、あれからさほど経っていないのに、私はまた迷子扱いか?
怒られるな……。
絶対に……。
「ん?
女の声がするな。
どうやら商品がまた増えそうだ。」
「悪い事は言いません。
私を置いて、逃げた方がいいと思いますよ。」
「何を言っているんだ。
俺達を脅すつもりか?
お~怖い怖い、おじさん達ビビっちゃうよ~~。」
おちょくりやがって、
まあいい、一応忠告はしたからね。
それよりあれだ、フェルリン。
呪いの人形が本物で、影響が有るとしたら、
こちら側にも何かしらある筈だ。
どこだ? 何が有る?
体が動かないため、観察する範囲が限られる。
……見えないな。
ならば情報収集だ。
「ねーおじさん。
この大きなワンちゃんっておじさんの言う事よく聞くね。
おじさんのお友達なの~?」
「友達~!?
手下だよ、ていうか奴隷だな。
こいつは弱っているのを俺が助けたんだ。
依頼下僕にしてやってるのさ。」
「ふーん、おじさんこんなに大きなワンちゃんのご主人様なんだ。
凄いんだねー。
でも、この子が逆らったら怖く無いの?」
「怖い物か。
俺にはこれが有るからな。」
そう言ってみせてくれたのは、さっきから持っている呪いの人形。
「犬のお人形?
そんなので言う事なんて聞かないよ。」
「それが効くんだなぁ。
これはこいつと連動しているんだ。
だから人形をちょっと痛めつければ、こいつがひどい目に遭う。
こんな具合にな。」
そう言うと男は、人形の額にデコピンをした。
「ギャワン‼」
途端に吹っ飛ぶフェルリン。
可哀そうに!
「す、すごいんだね。
でも、何で人形に何かすると、大きなワンちゃんが痛がるの?」
「そいつには縛りの魔方陣が付いているのさ。
見えないようにな。」
やっぱり思った通りだ。
ならば場所を聞き出して、何とか解除してあげなければ……。
と思ったところで、邪魔が入った。
「キャーーー!
エリーちゃん!」
「危ない!
大人しくじっとしているのよ!」
はぁ、まあ動けませんから。
じっとしているしか有りませんが。
「いらっしゃ~い。
わざわざ来ていただいて光栄ですよ。
さあ、あの娘がいたぶられたくなかったら、大人しく捕まるんだな。」
ひげた笑いを浮かべるおっさん。
「くっ。」
「このケモノはな、俺の意のままだ。
もし逆らうなら、この娘はこいつの夕飯になるな。
あ~、どうする?」
「こぉの、卑怯者!」
お姉様、何テンパっているんです。
力ならお姉さま達の方が上でしょう?
躊躇う事など無いじゃないですか。
さっさとやっちゃってくださいよ。
「おい娘、お前はこいつの上にいろ。
分かっていると思うが、変な事をすれば、すぐにこいつの餌だからな。
まあ、な~んにも出来無いと思うがな。」
「でも、体が固まっていますから、乗ろうにも乗れません。」
「ちっ!
おい。」
おっさんはフェルリンに目配せをする。
途端に私の体が自由を取り戻した。
あ~、肩こった…。
ぐるぐると腕を回し、私はフェルリンによじ登ろうとした。
まあ自力では乗れなかったので、フェルリンが私の首根っこを噛み、
自分の背に、ポーンッと放り投げてくれたんだけれど。
「さて、彼女はますます逃げられなくなった。
どうする?
見捨てて自分達だけ逃げるか?
まあ逃げられないとは思うがな。」
おっさん、
口を閉じた方が、己の為と思うんですけど。
「よく覚えておきなさいよ。
あなたは、あなた達は地獄に落ちるわ。
一体エリーちゃんに何をしたの。
事と次第では、絶対に許さないから。」
「お前達、自分の心配をしたらどうだ。
そうだな、少しとうが立っているから、愛玩物は無理だな。
それなら奴隷行きか、値が下がるな。」
「親分、ちょっと化粧を濃くして、
若作りさせればまだいけるんじゃないですか?」
「何ですって!
一体どこに目を付けているのよ!」
「そうよ! 失礼な。
まだピチピチだわよ。
あんた達こそ何よ!
汚い面下げて、その頭の中だって、空っぽなんでしょ。」
「何だと! 気にしている事言いやがって。
このブスが‼」
「き~っ!
言ったわね。
誰がブスですって!
もう謝っても許しませんからね。
よく覚えておきなさいよ!」
あ~ぁ、命知らずだなぁ。
この調子じゃぁ、もう只じゃ済まないよ、きっと。
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