第20話 お花摘み
王女様は、その夜はお願い事を4つしたそうだ。
私は流れ星を3つ見た。
「ふっふっふっ。」
王女様、ずいぶんと楽しそうですけど、
お願い事は願いであって、叶うとは限らないのですよ。
ちなみに私は、一つの流れ星に複数のお願い事をしようとし、
結局は一つぐらいしか言えなかった。
くっ悔しい…。
そして目的地に着くまでに、危険地帯が一つあった。
高い山に挟まれた深い森林地帯。
首都に行くにはかなりのショートカットになるが、
大規模な盗賊団が出ると言う噂だ。
おまけに魔獣が多数出没?
まぁ、騎士団の敵になる輩など、存在しないだろう。
だから私達は、迂回せずそのまま真っすぐ進む。
取り合えず、結界は張ったままで。
この森での途中休憩は無い…筈だったが、
それはさすがに無理だった。
「お花摘みに行って来ま~す。」
「あっ、私も行きます。」
仕方ないと思う。
ちなみに王女様のお花摘みは、
さすがに騎士が付き添うわけにはいかない。
その時は我々がガードにつく。
まあ今は私用だ。
「私も行きたいでーす。」
私は手を大きく振り上げる。
「分かったエリー、私も一緒に行こう。」
「隊長の変態‼」
着いてくるな、付いてきたらどうなるか分かっているでしょうね。
とにかく私は一人でお花摘みに行くの。
お姉さま達すらついて来ないのは、私の事を信じてくれている証拠。
用を終え、そして花を探す。
どうってことない、私は花を摘みに行ったんですと言う言い訳だ。
分かり切っている事だけど、
とにかく言い訳と言うか習わしと言うか、お花摘みの証拠を探す。
「おっかしいな~。
この季節、花が見つからないなんて、有り得ないのに。」
とにかく花を見つけなければ、帰るに帰れない。
「ミュ~。」
「ほぇ?」
猫? 猫かな?
「猫ちゃん猫ちゃん。
こーい、こいこい。」
「ミャア~。」
その声は次第に近づいてくる。
時々、木の折れる音と共に。
「どうしてこんな森にいるのかな。
もしかして山猫の赤ちゃんかしら。」
猫、いいよね、可愛いよね。
何より、そのマイペースぶりがいい。
声を掛け続け探す、やがてその声が間近に聞こえた。
「…………詐欺だ。」
そこには高く見上げるような狼がいた。
私の記憶に間違いなければ、
この子はきっとフェルリンだろう。
それもとびきりの。
まるで輝くような真っ白の毛並みに、
太陽のような、金色の瞳。
思わず見惚れるような神々しい存在。
「えっと、こ、こんにちわ………。」
フェルリンなら、きっと人の言葉を理解する。
「にゃあぁ~。」
おやっ。
「初めまして、私の名前はジュエリーです。」
「ウニュ~。」
あれっ。
「もしかして、言葉を理解できないの?」
「ブニュ~~。」
フェルリンはそう鳴きながら、首を振る。
「なるほど、理解は出来るけど、話せない。
そうなのね。」
「く~。」
そう言う物なのか?
分からん。
暫く同じような受け応えをし、意思の疎通を図ろうとした。
ところが従順そうなフェルリンが、
突然目の色を変え、暴れ出した。
「何やってやがる。
さっさとその娘を捕まえねえか!」
森の奥から大勢の男達がわらわらと飛び出してくる。
ダニじゃ無いんだから…。
……ダニか。
私はこういう輩が嫌いだ。
一人では何もできず、大勢が集まって初めて粋がる。
もしくはそいつが単独になった時、
自分には全然力が及ばない小さな者に対していじめをしたり、
暴力をふるい、自分の優位を主張する。
何とも卑怯者の集まり。
自分に自信がないなら、大人しく引っ込んでいればいいのに。
私が小さいと認識したからだろう。
一人の幼気の無い少女に対し、大勢で襲い掛かる男達。
卑怯この上ない。
だから…。
正当防衛だよね。
私はポケットから、一本の棒を取り出し、
それをスルッと伸ばす。
それから持ち手に埋め込まれた宝石に指を掛けた。
途端にそれ全体が光り出す。
ライ〇セイバ―――!
「おじさん達なんて、だいきらいだー!」
私は掛け声もよろしく切り込んだ。
切っては投げ…。
投げてないか。
取り合えず、死なない程度に、動けない程度に処理する。
死んじゃうと事情聴取できなくなるから、お姉様に怒られる。
「ヒーッ、化け物だ~!」
化け物じゃ無いよ、特殊部隊のエリ―だよ。
ところがだ。
やはり卑怯者のやる事は卑怯で、
なぜ、自分の所の下っ端の命を盾に取って私を脅迫するんだ?
「こいつを狼の餌にするぞ!
も、もし命が惜しいなら、大人しくしろ‼」
「ヒ―!
お、親分やめてくれ!」
そいつの命なんて惜しくはない。
だけど可愛いフェルリンが、理不尽を強いられるのが嫌だ。
私が躊躇っていると、それを察したのか、
フェルリンが物凄ーく申し訳なさそうな目をした。
「分かってるって。
あなたが悪い訳じゃ無いって分かっているよ。」
だから遠慮しなくてもいいから。
でも、そんな不味そうなもの食べて、お腹を壊しても困るな。
「ギャワン!」
突然フェルリンが叫ぶ。
ど、どうしたの?
「うわっはっはっはっ!
言う事を聞かないからこうなるんだ。
さっさとその娘を捕まえろ!
おっと傷はつけるなよ。
売値が下がるからな。」
親分と思しき奴の手には、干し草で作られたと思う動物型が。
呪いの人形か。
多分中には魔石が仕込まれているのだろう。
人形の首をひねれば、首に痛みを、
手を引き抜けば、腕がちぎれるのだろう。
つまり足の裏をコチョコチョとすれば、くすぐったいんだろうな。
まったく何て事をするんだおっさん。
個人の行動の自由を奪い、意がままに他人に労働を強要する。
まったく、おっさんは何をしてくれっちゃってるんですか。
この可愛いフェルリンに。
「可哀そうに…。」
そう見上げた目は、まるでごめんなさいを言っているようだ。
直後、私の体の自由が利かなくなった。
え~と、フェルリンの魔法?
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