第18話 墓穴

治療も終わり、拘束した賊たち。

治療と言っても、実際治したのは60%ほど。

動けて歩ける程度にしておいた。

完璧にすれば、下手に抵抗され暴れられると面倒だから。


「これなら治療の出来が悪くても、

訓練司令官さんに怒られなくても大丈夫よね。」


実際2か所ほど失敗……いえいえ、

それは別に移動するには何の影響も無いから大丈夫。


例え片腕の指が動かなかろうと、もう片方有るし、

ほんの少し首が回らなくても、

前さえ見ていれば、物にぶつかる心配も無い。

上等!


「エリーちゃん、もう少しお勉強しましょうね。」


お姉さまに、見抜かれていた。

しからばここは袖の下を。


「お姉さま達、差入れですぅ。」


私は収納から、買って来たマカロンを取り出し振舞う。


「いや~ん、マカロンじゃない。」


「美味しいのよねこれ。」


「甘くて、しっとりとしていて、サクッとして。」


「あら、これは何?ご当地バージョン?」


「あっ、ショコラが有るわ。

私はそれに決めた。」


好評で何よりです。




おばさん達は町の役人に引き渡された。

だけど、無銭飲食などに比べ、やった事のスケールが大きいから、

これから国直属の機関に護送されるそうでして、

あそこに送られると言う事は

かなりの重犯罪人と判断され、

かなりひどい目に遭わされると評判です。

ご愁傷さま、お役人様、しっかり天誅を下して下さいませ。


「おねーちゃーん。」


逃がした子供たちが手を振り、呼んでいた。


「お役目ご苦労様。

ちゃんと知らせてくれたんだね、ありがとう。

凄く助かったわ、偉い偉い。」


頭を撫でられ照れている姿が、メチャクチャかわいい。


「あのね、知らせに行ったらね。

知らないおじちゃんやお姉ちゃんたちがいて、

エリーちゃんの名前言ったら、物凄い顔して飛び出していったの。

エリーちゃん、怒られなかった?」


「大丈夫、怒られたのは悪者だからね。」


それにしても、この子達からすると、隊長はおじさんか。

うん、完璧におじさんだね。


「子供ってかわいくて、いいわよね。」


「子供がそう言っても、何てフォローしていいか。」


「何ですと?誰が子供ですか!私ですか。」


まぁ、微妙なお年頃ですし。

でも、ずいぶん私の為に無駄な時間を使わせてしまった。

皆さん、迷惑をかけてごめんなさい。


「大丈夫、旅行にアクシデントなんて付きものだもの。

エリーちゃんが無事だったからそれだけで十分。」


王女様はニコニコ笑いながら、

ご当地限定のルビートトラのマカロンを口に運んでいる。

退屈な旅のちょっとしたスパイスになりましたか。

楽しんでいただけたようで、良かったです。


結局予定時間を2時間ほど遅れて出発した。

色々有ったから、もっと時間が掛かったと思ったけれど、

事件発生から犯人引き渡し、状況説明まではさほど時間が掛からなかったようだ。

どちらかと言えば、

お姉さま達のマカロンでのお茶会のが長かったような気がする。


そして今、私は相変わらず王女様の馬車で、武勇伝を披露中だ。


「で、ですね。

体当たりしてきたおばさんが、こうグリグリッと私のお腹を踏みつけるんです。

あの体格でそれやられたら、痛いんですよね。」


「まぁ、可哀そうなエリーちゃん。

こんなに小さな子にそんな事をするなんて。

すぐに死刑にするように言っておきますからね。」


「いえ、調書も取らずに死刑はダメです。

全部吐かせてからにして下さい。」


「偉いわ~、さすがエリーちゃんね。」


てへへ…。

王女様は私を甘やかし放題です。

でも、癖になったら困りますからね。

いい加減に開放して下さい。


「それから?

有ったことは全部報告なさい。」

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