第17話 後始末
リコラーダの毒なら、花のエキスが中和剤になる。
だからそれを元に、解毒剤を作る。
おばさんはそれを用意していたのだろう。
でも、強い部類に入る毒だ。
処置は早ければ早いほどいい。
「どういたしましょうマダム。
あなたが諦めて投降なされば、すぐにでもお渡ししますが。」
私は手に持った解毒剤の瓶を振りながら、彼女に問いかけた。
「分かった。
私の負けだ!
だから早くその薬を。」
「では、拘束させていただきますね。」
私は収納から取り出した縄を手に、彼女に近づく。
「甘いよ‼」
思い切り体当たりをされ、私は思わずひっくり返った。
「仕事では気を抜くなと、ご主人様から教わらなかったのかい?」
ニタリと笑いながら、おばさんが私の腹を踏みつける。
痛い、痛いです。
「マダム、もう少しダイエットなさった方が良いかと……。」
確かに隊長に、もっと気を付けて行動しろと言われたし、
訓練司令官さんに、注意力を持ちなさいと言われたけど、
私だって、それぐらい分かっています。
だから今回の事は、事故として下さい。
私はおばさんの足首を持った。
そして、その手に力を込めれば、おばさんを軽く倒せる。
「せーの………。」
力を入れようとした時、入り口の扉が、
まるでサイコロのようにばらばらと音を立てて、崩れてきた。
何故に、一枚の扉が、このような形状になるんだ?
「無事か!エリー‼」
そこに勢いよく走り込んできたのは隊長だった。
よくここが分かりましたね。
続いて、訓練司令官さんと、お姉様が飛び込んで来る。
あららら………。
おばさんの命が心配です。
「動くんじゃ無いよ!
このヒヨッコの命が惜しく無いのかい!」
そう言って私を踏みつけていた足に、さらにぐりぐりと力を入れる。
「いっ、痛い。
痛いってば。」
「エリー‼」
隊長は剣を構えながらもその場に踏みとどまり、
眉間にしわを寄せギリリと歯を食いしばっている。
でも後方の皆さんは、、、呆れかえっていた。
「エリーちゃん。」
はっ、申し訳ありません。
直ちに敵を殲滅いたします!
私は掴んでいた足をひょいつと捻るように力を込める。
途端におばさんの体が宙に浮く。
その後は想像の通り、
大きな地響きを立てて、床にひっくり返った大きな体。
それでも起き上がろうと、おばさんはもがいている。
でも私はおばさんの相手をする暇は無いんだ。
そろそろ下のおじさん達がタイムリミットだろうから。
「司令官様、お願いします!」
私は一言いい捨てて、下への穴に飛び込んだ。
ツーカーと言うか、訓練司令官さんは、
その一言でおばさんに関しては悟ってくれるだろう。
おじさん達に関しての今の状況は分からないだろうけど。
とにかく私には、人間としてまだやらなければならない事が有るのだ。
私が鬼畜だったら多分放っておくだろうけど、
面倒くさい事に、私は人間だ。
下に降りると、どうやらおじさん達は気が付いているようだ。
呻き、もがいていた。
でも、そうしても傷んだ体が元に戻っている訳じゃ無い。
私は重傷だと思われる方を優先し、治療に掛った。
人身売買、身代金目当ての誘拐。
余罪は山ほどあるだろう。
だがまだ死刑になるか分からない以上、裁判が終わるまではただの罪人だ。
死体になってもらっては困る。
「エリー!その男から離れろ‼」
後から飛び込んできた隊長さんが怒鳴るけど、
言う事を聞く訳にはいかないの。
「聞こえないのか、
その男達はお前を攫ったのだぞ!
危ないからそこから退くんだ!」
「ケガをして、満足に動けない人のどこが危ないんですか?
とにかく治療しなければ、そろそろ死にます。
邪魔をしないで下さい!」
一応、主人の命令には絶対だ。
一応だけど。
そう一応だ。
それに私には切り札もある。
「うさぴょん………。」
途端に黙る隊長。
「私が治療しなくて、誰がするんですか。
隊長より、私の方が要領を得ているし、
お姉さまにお願いするにも、事態の報告をしてからになります。
時間が足りない。
いいから大人しくそこでじっとしていて下さい。」
「グゥッ…。」
私はおじさんのケガの様子を探る。
「あらら、内臓もかなりいっているわね。
骨折も併せて、かなり危ない状況だ。
こりゃ痛いわね、可哀そうに。
でも大丈夫、私がちゃんと直してあげるからね。
もし失敗しても、訓練司令官さんがいるから大丈夫よ~。」
自分次言い聞かせているような気がする。
まあ実際そうだろうから大人しく諦めてもらおう。
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