第15話 脱出
連れて来られたのは、 ひなびた一軒の家。
薄暗い家の中に、突き飛ばされるように入れられた。
見たところ普通のボロ屋だ。
「遅かったね。
てっきりお前がドジして、捕まったかと思ったよ。」
見るとけばけばしいおばさんと、大きなひげもじゃ男がいました。
「途中でちょっとした拾い物をしたもんでな。
こいつはかなりの金のなる木だ。」
それを聞いたおばさん達の目は、明らかにさっきとは違っていた。
「へ…ぇ。お前がそう言うならかなりの物なんだろうね。」
「そうだな。
売らずに身代金を請求した方がいいだろう。
広場に面した貴族の屋敷の子供だと思うぞ。
あそこなら、値段は一千万ゼラぐらい出すんじゃないか?」
一千万ゼラですか。
私の1年分のお給料ほどですね。
するとひげもじゃ男が、床の汚れたじゅうたんを剥がし、
その下に隠れるように有った取っ手を引く。
「地下室?」
「大人しくしてろよ。
もっともこの中の音なんて、外には漏れっこないけどな。」
まぁ、地下室ですからそれも納得。
私はまるで突き落とされるように中に入れられたけど、
それでケガをするほど間抜けでは有りません。
「いいか、大人しくしているんだぞ。
さもないとぶっ殺すからな。」
常套句ですね。
でも、そう何回も念押しするって事は、
ここの音は外に漏れると言っているようなものですよ。
やがて扉を閉められ、真っ暗闇になった室内。
かび臭い匂い、澱んだ空気。
暗くなった途端、離れた所から、小さなすすり泣く声が幾つも聞こえる。
「まずは灯りか。」
私は収納からランプを取り出し、火をつけた。
ぼんやりと明かりが灯った室内の隅には、
およそ20人ほどの子供がいた。
町民風の子供から、貴族らしき子供。
目的は人身売買と身代金要求と見た。
「糞だな。
金が欲しいなら、真っ当に稼げよ。」
お姉さま達に言いつけるぞ。
「大丈夫だからね、私が必ず助け出してあげる。」
そう励ますのはいいけれど、さて時間も無い事だしどうしよう。
下手な爆発物を使えば大事になるし。
ここまで大人しく付いて来たかいが無くなる。
「とにかく、まずは脱出だね、」
上の扉から出るのはこの子達には無理だ。
他に逃げ道と言っても、ここは地下。
有る筈が無い。
でも、探してみるもんだね。
この部屋の壁に扉を発見。
物入れかと思ってもカギが掛けられていて、
耳を当てると、何か音が聞こえる。
「ダメだよ、悪戯すると怒られるよ。」
小さな男の子が、怯えたような声で言う。
一見すると貴族の様な身なりだけれど、
何日も風呂に入っていないように、汚れている。
「大丈夫だよ。
お姉ちゃんはとっても強いから。」
「本当?悪い人をやっつけてくれる?」
「任せて。」
さて、期待を裏切る訳には行きませんね。
子供達には安全の為、後ろに下がってもらってから、
慎重に開錠魔法を掛ける。
思いのほか簡単に開いたドアの向こうは、
川でした。
そう広くは無いけれど、眼下に見える川は、泳ぐのは難しそうです。
しかし川沿いには人が一人通れそうな道が有ります。
このドアはきっと抜け穴のような物でしょう。
「ここから逃げるからね。
みんな一列になって手を繋いで。」
私は一番最初のとても小さい子の手を握り、外に踏み出した。
幼い子には、この道を行くのはかなりの勇気が必要だ。
でもみんな歯を食いしばって付いて来てくれる。
私は先頭で、最後の子が扉から出たのを確認すると、
扉を閉め、施錠した。
これで時間稼ぎが出来るだろう。
もちろん誰一人として、この子達を川に落とす気はない。
しっかり魔法でサポートする。
やがてその先は草むらに通じ、町の賑わいが見えてきた。
「この中にこの町の子はいる?」
そう尋ねると、一番年かさのいった女の子と、あと数人が手を挙げた。
「これから私は悪者をやっつけに行くからね。
あいつらがあなた達を追う事はさせない。
でも、それ以外にも危険な事が有るかもしれないから、
あなた達は、この町の駐在兵の所に行って。
それから訳を話してちょうだい。
王女様付きの特殊部隊のエリーに言われたと言えば、
きっと信じてもらえるから。」
大人は早々、子供の言うこんな荒唐無稽な話は信じてくれないだろう。
でも王女様の名を出せば、簡単に無下には出来まい。
「ちゃんと、全員連れて行ってあげてね。
お願い。」
「分かった。
行って、助けを呼んでくる。
でも、あなたは本当に強いの?
そんなに小さいのに。」
小さい………。
確かにこの子より年齢的にも、身長的にも小さいでしょうけど、
「大丈夫よ、私、強いもの。」
折れ掛けた心を立て直し、私はさっそうと敵に向かうべく、
今来た道を引き返した。
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