第13話 訓練台ありがとうございます
「一体どうしたんだい、
いきなり横になれなんて、こんなに人が多い所で君にそう言われても……。」
「切る‼」
「隊長やめて下さい、彼は私の大事な練習台なんですから。」
「エリーちゃん、いいからさっさと押し倒しちゃいなさい。」
「yes, madame!」
支離滅裂なやり取り。
副隊長は相変わらず、笑い転げている。
私は彼の車椅子を押し、隣の部屋に拉致する。
「一体何をするんだ!
理由を説明しろ。」
「失礼しました。
あなたの足が治せる可能性が有るのです。
大人しく言う通りにしていただけますか。」
司令官さんが治療すれば、治るんですと確定出来るけど、
私がやるから、かもしれないと可能性を匂わせておくんだ。
「そ、それは本当なのか?」
「はい、私が見たところ、あなたの腰椎の神経部分に異常が有りそうなんです。
もしそれが私の魔法でうまく治療できれば、足の痛みも痺れも、この先出る事は有りません。」
「歩けるのか……。
しかし君が治療できるのか?」
普通そう思いますよね。
ですがこれは司令官さんの指示です。
諦めて下さい。
「大丈夫ですわ。
あなたが歩けるかどうかは、やってみなければ分かりませんが、
彼女は年の割にはとても優秀ですから。」
司令官さんの言ったここ大事~。
年の割にですから。
するとリヴィンさん自ら、ベッドに向かい体を引きずるように横になった。
「俯せになればいいのかい?」
「はい、お願いします。」
いつの間にか静まる室内。
私の隣には訓練司令官さん。
さてやりますか。
腰椎部分、神経が集中している所。
よく見ればそこに椎間板がかなり変形している。
多分落馬の衝撃で脊椎が圧迫され、押し出されたんだろう。
その部分が神経を圧迫し、歩行を困難にしているのだ。
ならば方法は二つ。
椎間板自体を切除するか、
脊椎自体を元の状態に戻し、椎間板をその間に押し込む。
簡単なのは前者だけど、後者の方がいい点貰えるんだろうなぁ。
でもかなり難しいよね。
本人もかなりの痛みを伴うだろうし、技術的にも難しい。
「訓練司令官殿……。」
「なぁにー、エリーちゃん。」
ニンマリと笑う司令官さんが怖い…。
これは後者を期待している顔だ。
「あの…、お手伝いを願えませんでしょうか…。」
「仕方ないわね、痛覚は私が処理しますから、
あなたは処置に専念しなさい。」
ありがとうございます。
訓練司令官さんが術を掛けたことを確認すると、
私はさっそく作業に取り掛かる。
つぶれた脊椎を元の状態にすべく少しづつ引き伸ばす。
この時点で普通ならばかなりの激痛を伴うだろう。
だって飛び出した椎間板はそのままだもの。
だからそれで神経を傷つけないように、細心の注意をしなければならない。
引き延ばす内に、その部分にわずかづつ椎間板が入っていく。
ふうっ、集中大事。
それからどのぐらい経っただろう。
本当に少しづつ引き延ばしていた、つぶれた脊椎がようやく元の位置まで戻った。
椎間板もほとんど中に入ったけど、まだわずかに変形していたものを、
形よく中に収めた。
それからそこを固定する。
10年近くつぶれた状態だったから、また元の形に戻る可能性だって有るから。
「訓練司令官殿、チェックをお願いします。」
思わず敬礼してしまったのはご愛敬。
まだ術を掛けたままで、司令官さんは私の術後の状態。
首から腰に至るまでの椎間板をチェックし、
足にかけての神経をチェックし終えた。
それからが済んでから、自分の魔法も解いたようだ。
「大変良く出来ました。
初めての腰椎の治療でしたが、いい出来ですよ。
花丸を上げましょう。」
わーい。
「初めての治療ですか!?
こんな小さな子に、なぜそんな危ない事をさせたんだ!
もし失敗していたらどうしてくれるんだ‼」
「あなたの腰や足は治ったんですよ。
感謝されるならまだしも、何を怒っていらっしゃるのですか?」
訓練司令官殿がお得意の上から目線で、リヴィンさんを追い込む。
「もし御不満でしたら、私が元の状態にお戻しいたします。
如何されますか?」
それを言われると、何も言えませんよね。
「本当に治ったのか……。」
「はい、完璧に。
私もチェックしましたので断言できます。」
「今まで、何人もの医者が匙を投げたんだ。
それをこんな小さい子が、たった数十分で……。」
「だから言ったでしょう?
この子は優秀だと。」
訓令司令官殿、それ違います。
年齢の割に、が入っていました。
「もしお疑いでしたら、歩いてみたらいかがですか?
ただし治したのは痛みを伴う部分だけです。
筋肉は衰えたままですから、
しっかりと歩けるまでは、リハビリやトレーニングが必要です。」
そうか、筋肉は修復してないものね。
後でメモしておこう。
すると、リヴィン様は恐る恐る床に足を付け、体を前に傾けて行く。
それからへっぴり腰ながら、自分の二本の足で立ち上がった。
「い…たくない…。」
そう言い一歩、また一歩と足を踏み出す。
「歩ける…。痛くも痺れもしない。歩けるんだ………。」
覚束無い足取りでも、隣の部屋まで歩き、
そこで力が尽きたようにソファに腰を下ろした。
「おめでとうございます、リヴィン様。」
「ありがとう、私は何て言っていいのか…。
君の、いや、あなた達のおかげです。
私はあなた達にどうお礼をすればいいのだろう。」
「お気になさらないで下さい、
こんな大所帯を泊めていただくのですもの。
それで十分です。」
でも出来れば、そこに残っている美味しいお菓子をもう少しもらいたいなぁ。
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