第12話 突発的訓練
目の前の紅茶を手に取って、コクンともう一口飲む。
隊長達のお世話が有るから
なるべく早く切り上げなくちゃ。
だから、話が有るならさっさとしてほしいんだけど。
「君はそんなに小さいのに、もうお仕事をしているのかい?」
「学校にも通いましたし、就労年齢にも達しています。
でも、お気遣いありがとうございます。」
「君は何の仕事をしているんだい。
メイドだっけ。
お茶はとても美味しいよ。
でも、お茶を入れる専門では無いんだろう?」
尋問ですか?
発言は気を付けなくちゃ。
「私は他のお姉様同様、普通にメイドのお仕事をしております。
騎士様達のお世話が主な仕事です。」
「メイドを連れて歩くなんて、ずいぶん過保護な騎士だね。」
「そう言う方もおりますが、それだけ騎士様は大変な任務を任されております。
少しでもその騎士様の負担を少なくする事が、私達の仕事です。」
「その仕事は大変なのかい?」
「そうですね、その時によります。
でも私達の仕事など、騎士様達に比べたら軽いものです。」
そうか…。
彼はそう呟く。
そう言や、名前教えて貰ってなかったな。
まあ名無しのごんべいさんでも何の支障も無いからいいか。
でも、こう一方的に聞かれるだけだと、
情報漏洩も甚だしい。
情報収集に切り替えなくちゃ。
「あなたはずっと家の中で?」
「あぁ、そう言えば名乗っていなかったね。
私の名はリヴィンと言う。
親しい人はリーと呼ぶな。
どうか君もそう呼んでくれると嬉しいよ。」
滅相もございません。
「さっきの質問か。
そうだね、殆んどは家の中で本を読んだり、
世話をしてくれる者と勉強をしたり、チェスなどのゲームをしたりかな。」
「外には出られないのですか。」
「出るよ、たまにね。
そこの張り出し窓からテラスに出られるようになっているんだ。
それから向こうは、そう行かないな。」
引きこもりですね。
あまりよくない状況です。
「大変失礼な質問ですが、
その足は生まれつきなんですか?」
「いや、10歳ごろ馬から落ちてね。
骨折は治ったんだが、少し歩くだけで痛みが出たり痺れたりする。
座っているととても楽なんだ。
だからつい車椅子で座り詰めになってしまってね。」
馬から落ちた。
骨折をした。
でもそれは治っているのよね。
なら原因は他の可能性もあるか?
私は、ちょっと失礼しますと席を立つ。
リヴィン様の下に膝まづき、どちらの足を骨折したのか聞いてみる。
「えっ、ああ、右足は膝から少し下。左は足首の辺だ。」
両足か、可哀そうに。
私は片足ずつサーチをしてみた。
骨折の痕は有るが、確かに治っている。
元々歩けたならば原因は他だ。
考えられるのは頭と首からの神経。
私は彼の背に回り、まず首から腰にかけてサーチ開始。
取り合えずこちらに異常はない…。
いや、待てよ。
この腰の部分。背骨の中の管が狭くなってる。
「厄介だな。
下手をすると他の神経まで傷付けてしまうか…。」
熟練した人なら出来るかもしれない。
すると、何の予兆も無く、ドアがいきなり開いた。
魔道具どうした。
「無事か、エリー‼」
隊長達がいきなり飛び込んでくる。
隊長こそ無事ですか?
綺麗なブロンドの先っちょが、少し焦げてますよ。
もしかしてトラップに引っかかりましたか?
間抜け……いえ、後でちゃんとヘアケアをしておかねば。
「私は大丈夫です、お茶に招待されましたので、お相手をしていました。
隊長達のお帰りに間に合わず申し訳ありません。」
リヴィン様が、少しばつの悪そうな顔をする。
そうですよ~、人には都合と言うものが有るんです。
私は一応断りました。
その時なぜ断ったか考えるべきでしたね。
すると、一緒に飛び込んできた人の中に、訓練司令官さんの姿が有りました。
丁度良かったです。
「訓練司令官様、少しご相談が。」
私は彼女を部屋の隅に引っ張っていき、
経緯を話した。
「ですので、訓練司令官さんなら、それが出来るのではないかと思って。」
「エリー、ちょうどいい機会です。
元々歩けないならいいでは有りませんか。
訓練だと思ってあなたがやってみてごらんなさい。
失敗したなら、私が何とかしますよ。」
おうっ、彼は私の訓練台と言う訳ですね。
訓練司令官さんも付いていてくれるし、
思い切り訓練できると言う訳ですか。
気が楽になった私は早速チャレンジしてみる事にした。
「申し訳ありませんが、どこかに横になり、俯せになっていただけませんか?」
私はにっこりと笑い、リヴィン様にお願いした。
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