第3話 逆転ホームラン
「ジュエリー、ちょっとそこに座りなさい。」
隊長さんが怖い顔をして私に命令します。
「はい…………。」
お小言ですか?お小言ですね…。
「訓練指令官から報告が有った。
今日エリーは、訓練中よそ見をしてケガをしたそうだな。」
「はい…。」
すると隊長は片膝を着き、私の左足を手に取った。
「………どこだ。」
えっと、ケガをしたところですね。
「ここから…ここ。」
そう言って膝下のけがをした部分を指でなぞる。
「ここか。」
そう言って隊長は、ケガをしたところを、親指でそっと触れた。
魔力を感じるけど、もう傷は完璧に治っているから、その必要は無いんです。
「エリーはもう、戦闘訓練に出なくていい。
と言うか、危ない事は禁止だ。
包丁も火も使ってはいけない。
一人で外を歩くのもだめだ。」
なら私にどうしろと?
仮にも私は特殊部隊。
その私に訓練をするな?
火を使うな?
刃物を使うな?
一人での行動も禁止?
「分かりました。」
そう言って私はトコトコと、いったん自室に戻り、
お気に入りの大きなうさぴょんの人形を持ち、
また隊長達の部屋に戻ってきました。
それを椅子に座らせると、隊長達に深々とお辞儀をする。
「今までありがとうございました。
私はほかの方の担当に志願しますので、
これからはこの人形が私の代わりをします。
よろしくお願いします。」
それからもう一度軽くお辞儀をすると、回れ右をする。
何にもするなと言うのなら、うさぴょん人形でも十分事足りますよね。
さあ、これから自分の事は自分でやってもらいます。
洗濯物を運ぶのも、寝具を整えるのも、連絡係も、お風呂の支度も全てです。
頑張って下さいね。
「ま、待て、どこへ行くんだ。」
「訓練司令官さんの所です。
移動願の申請書を出しに行きます。
そうだ、その前に私物の片づけをしなくちゃ。」
私は方向転換をし、隣の自分の部屋へと向かった。
クローゼットを開け、自分の服を次々と積み上げていく。
とにかくこの部屋に有る私物は全て持って行く事になるだろう。
隊長達、いや、隊長が考えを変えない限り。
だって、副隊長さんはいつもみたいに笑っていたから、
これはきっと隊長一人の判断でしょう。
するとすぐに、隊長はうさぴょんを抱えて私の部屋に顔を出した。
恐る恐ると…。
私はチロッと隊長を見てから、忙しそうに動き回る。
「何か用ですか?」
棚に並べてあった、お気に入りの本、
”武器の種類・パーフェクト版”や”台所用品での戦い方”を持ち、
積み重ねた服の隣に置く。
「どこに行くんだ…。」
「ですから、まず司令官さんの所です。」
「本当にここを出て行くのか?」
「そうですね、ここに私は必要が無い様なので。」
「だ、だが、今から新しい奴に志願しても、
多分下っ端、
今まで特殊部隊が付いていなかったような、無知な奴の担当しか残っていないぞ。
そんな奴は、特殊部隊の事なんてろくに知らずに、
思い違いした扱いをされるぞ。
苦労するに決まっているぞ。」
「今からでしたら、多分そうなるでしょうね。
でも仕方が有りません。
お仕事ですから、我慢します。」
「…此処に居ればいいじゃないか。」
隊長が小さな声でぽつりと言う。
「隊長、私言いましたよね。
ここには私のする仕事が有りません。
だから私はここを出て、仕事の有る所に行くんです。」
そう言って、積み上げた荷物の傍に座り込み、収納のインベントリを開いた。
別名4次元ポケットです。
「待てっ、ここから出て行くな!命令だ。」
「特殊部隊憲法、第12条、理不尽な命令には従う必要はない。
知ってますか?
隊長ですもの、知ってますよね?」
私はにっこりと笑う。
さて、反論でも何でもして下さい。
いざとなったら、お姉さまや司令官さんに言いつけてやる。
すると突然隊長は、腰を90度曲げて頭を下げた。
「すまなかった。
この通り謝るから、エリーはどこにも行ってはダメだ。」
おぉ、まさかの泣き落としですか。
そして、副隊長が、隊長の後ろで、お腹を抱えて笑い転げています。
チャカしちゃダメですよ~、本人は真剣みたいですから。
「謝られても困ります。
私は特殊部隊の一員ですから、お仕事をするのがお仕事です。
それを取り上げられたら特殊部隊では有りません。
だからここを出て行こうとしたんですよ。
隊長、分かっていますか?」
「分かった。いや、良く分かっている。
エリーは今まで通り仕事をしてもいいから、此処に居てくれ。」
「ナイフや、包丁や、箒などの刃物も使っていいですか?」
「いい、ただし十分注意してくれ。」
「コンロや爆薬などの火も使っていいですか?」
「うっ、い…い。取扱いにくれぐれも気を付けるならば。」
「一人で出かけたり、任務の為に単独での侵入行為もいいですよね。」
まあ、そんな事は新米の私には、めったにない事だけど。
隊長は戸惑いながらも、首を縦に振った。
やりました、私の勝利です。
「それでは、私の仕事が戻ってきたようなので、今まで以上に、
誠心誠意使えさせていただきます。」
それを聞いた隊長は、がっくりと首をうなだれ、
私のうさぴょんを定位置、私のベッドにそっと置いて、出て行かれました。
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