第2話 戦闘訓練

「ルージュ姉さま、

私前から思っていたんですが、

なぜ新米の私がいきなり隊長と副隊長の担当になったんですか?」


「あら、分かっていなかったの?」


「はい、全然。」


それはね…とルージュ姉さまが教えてくれた。


「隊長達は新米さんより、それなりの経験を積んでいらっしゃるから、

女性の扱いも長けているの。

それに経験がある分、ある程度の自分の事は自分でできるでしょう。

私達部隊が何かやらかしても、ちゃんと対応できる。

だから我が部隊の新しい子は、たいてい最初は隊長達のお世話になるの。」


おうっ、お世話するのではなく、お世話されるんですね。

なるほど納得。


「それと、やはり男性隊員の方は、

下着をちゃんと洗濯に出してくれないんですか?」


「えっ、大抵は割り切って他の物と一緒に出してくれるわよ。

エリーちゃんの隊長さんは、出してくれないの?」


「はい、出してくれません。

でもあんなもの貯めこまれても困りますから、

大抵請求するか、実力行使で奪い取ります。」


「ふふ、隊長もまだまだ青いわね。

きっとエリーちゃんにそんなもの触らせたく無いのよ。」


「どうしてですかね。

洗濯物と割り切れば、何て事は無いのに。」


学校で特殊部隊の勉強をしていた時に、

ちゃんと教えられていたもの。


「羞恥心かプライドか、

青春よねぇ。」


「青春ですか?」


20代後半でも、まだ青春なんだ。


「まあ、あと数か月もすれば慣れてくれて、下着も一緒に出してくれるわよ。

それまで見守ってあげなさい。」


「数か月ですか…。」


それまで私は、あの追いかけっこを続けるのか。




さて、休憩時間も終わり、再び私達は戦闘訓練に戻ります。

今日の武器は箒。

箒と言ってもただの箒では有りません。

私達専用に改造された箒です。

それも一人一人に合わせて作られています。


束は鋼。房の奥にはワイヤーが仕込まれています。

一応、木の柄のように加工はされていますけどね。

今はまだ束を抜かずに柄の身での打ち合いです。


カツンッ、ガンッ、ボスッ、うっ………。

誰か見事に打たれたな…。

鋼の柄ってかなり痛いのよね。


箒の柄をうまく使い、相手を飛び越え、死角に入ったと同時に打つ。

房を奥のワイヤーを使い、相手の足を払い、転倒させる。

そこをすかさず柄の先で、喉を潰す。

うん、本気でやったら死ぬよね、確実に。

だけど、私達特殊部隊は色々な日用品を武器に、戦う事を余儀なくされます。


やがて指導官の号令の下、鋼の束から剣を抜く。

ギイィン、ガキンッ、カンカンッ、

あちこちから鋭い音が鳴り響く。


「キャアァァァッ…。」


ヤバ、誰かミスった。


そう思った途端、私の足にも熱い痛みが走った。


「エリーちゃん‼」


ペアを組んでいたルージュ姉さまが私に駆け寄り、

すぐに治療魔法を施してくれた。


「一体何を考えているの!

治療の効くケガならまだしも、致命傷なら即死なのよ。

いくら治療しても生き返らないの。

分かってる!?

刃物を使っての訓練は、気を抜かないのが鉄則でしょ‼」


はい、そのつもりだったんですが、つい他の人のケガが気になって。


「何の為のペアなの。

ケガをしたなら治療はパートナーが担当でしょう、

治療の訓練にもなるし、一石二鳥。

それを他の人が心配するなんて、パートナーに失礼よ。」


「そうよ、エリーちゃん、

あなたはまだ経験が浅いんだから、もっと真剣に訓練なさい。」


「本当よ、可愛いあんよに傷痕なんて残ったら大変。

隊長達だって悲しむわ。」


「隊長達だけじゃ無いわ、私達だっていたたまれない。」


見ると私の周りにぐるりと人垣ができていた。

特殊部隊に傷や火傷など、日常茶飯事じゃ有りませんか。

可愛いあんよって何ですか。

痕が残っただけで悲しいだ、いたたまれないって、

私は一体幾つですか、これでも歴とした14歳です!

……微妙な年齢ですね。


すると人垣の奥から、司令官さんが現れ、私のケガを確認した。


「ルージュ、非常に適切な手当です。

処置が早かったので出血もわずか、これなら痕も残らないでしょう。」


「ありがとうございます。」


特殊部隊の鏡。

司令官さんがにっこりと笑ってジュール姉さまをほめている。

カッコ良いなぁ、私も大きくなって、特殊部隊を退役したら、

司令官さんみたいになりたいな。

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