第2話わたし

わたしの初恋は叶わなかった。それも、あろう事か猫に負けた。

一年浪人して入学した大学での、音楽サークルの新入生歓迎会で真聡くんに再会した。同い年も混ざって居るなと思いつつ、先輩方には全員敬語で応対していた中のひとり、見覚えのある青年が彼だった。

名前を聞いてようやく、小学校で一緒だったあの子だ、と思い出した。

彼は静かな、目立たない男の子だった。休み時間には本を読んでいたので遊んだことはなかったし、教室で話したことも殆ど無かった。

ただ、近所の公園では何度か話したことがあった。サッカーの練習をしていると、塾帰りの真聡くんが話しかけてくれたのを覚えてる。今読んでる本のことや、塾で習ったことを教えてくれた。

あの時から少し大人びた子だなとは思っていたけれど、

初めて会った時から身長が倍くらいに伸び、手や首元が骨ばって男性らしくなった姿を見ていると、当時から理知的で素敵だったな、なんて、思い出が分かりやすく美化された。

サークル活動中にも真聡くんは楽器の演奏や手入れを丁寧にわかりやすく指導してくれて、わたしはそんな彼にどんどん惹かれていった。

同じ小学校区なだけあって家が近く、練習後の飲み会の帰り道には二人きりになれる。次の飲み会の後に告白しようと計画を進めていた。

当日、その帰り道。練習通りに話しかける。

「真聡先輩、今日もありがとうございました!」

「いえいえ、上達が速いから教える方も楽しいよ。」

「ホントですか?嬉しいです。

…あの、この後もう1件行きませんか?話したいことが…」

「ごめん、僕帰って猫に餌やらないと。」

「あ!そうなんですね!猫ちゃん可哀想ですね、帰らないと…」

「うん。ごめんね、また今度。」

何事もなかったかのように他愛ない話を続けられたけれど、全然頭に入って来なかった。まさか告白以前のところで断られるなんて。

こんな風にわたしの初恋は、猫に負けた。

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