初恋は猫に負けた

@poncom

第1話ぼく

ぼくの初恋は叶わなかった。それも、あろう事か猫に負けた。

小学3年生で同じクラスになった海詞ちゃんは、色素の薄い感じの女の子だった。色白で、いつもひとつに縛った髪も、真っ黒よりほんのり茶色かった。それが小学校という、ごちゃごちゃで不揃いな集まりの中でひときわ透き通って見えた。

海詞ちゃんは、夏休み明けには真っ黒になって現れる活発な女の子だった。周りの女の子達に虫取りをした、川で遊んだ、と楽しそうに話していたのが今でも記憶に残っている。その反応が年々、海詞ちゃんの表情とズレていくことも。

小学校高学年にもなると、女の子たちはドラマとかオシャレとかが大好きになって、足の速い男の子をチヤホヤするようになった。

男の子達もふざけながらもまんざらじゃない様子。学年中そういった話題で持ち切りになっていった。

ふうん、好きな人か…ぼくの頭の中には真っ先に海詞ちゃんが浮かんだ。6年生になってまた同じクラスになり、スラリと背が高くなった彼女を僕が目で追ってしまっていることには自分でも気が付いていたし、毎日校庭で走り回っている元気いっぱいの姿に憧れていたからだ。

いつかこの気持ちを伝えたいな、と思っていても勇気が出ない日々に、チャンスは突然訪れた。

ある日塾から帰る途中、公園で女の子がひとり、サッカーボールで遊んでいるのが目に入った。

「海詞ちゃん。」

公園に入って、声をかけてみる。

「やっほ、大きなリュックだね。どこ行くの?」

「塾に行ってきたんだ。」

「えらいねぇー。私は中学生になってからでいいかなーなんて…」

他に周りに同級生はいない。伝えるなら今しかないと思った。

「あのさ、海詞ちゃん。ぼく、海詞ちゃんのことが好きなんだ。」

え、と彼女は目をまんまるくしている。そのまま両手を組んで下を向いてしまった。困らせてしまったかな、失敗だったかな、と唇を噛んで返事を待つ。

「ええと、その…あ!猫だよ!」

え?

「見てあそこ、子猫だ、可愛いね。」

海詞ちゃんはぼくの背後に向かって走っていってしまった。

ふわふわで小さな猫と戯れている。

「おいでよ!人懐こいよ。」

満面の笑みで海詞ちゃんが呼んでいる。なんて可愛いんだろう、断れるわけないじゃないか。夕暮れの公園を彼女に向かってかけていく。

こんな風にぼくの初恋は、猫に負けた。

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