第11話 氷面鏡

 学校が終わり、江西古書店に到着した私は扉を開ける。

 いつ見ても、潰れているとしか見えない店なので営業をしているのか少し不安だったけども、扉を開くと店長さんはそこに居てくれた。


「いらっしゃ……ああ、この前の文学部のデッカい子か。今日はどうした? 一人みたいだけど、なんか探してる本でもあるなら――」

「いえ、その……」

「ん?」


 笑顔で迎え入れてくれる店長さん。その表情を見ていると、以前にまた買いに来るといったのに別件でお邪魔する申し訳なさを感じてしまう。

 ――だから、罪悪感を感じないようにすぐに本題に入る。


「……その、先輩が居なくなったんです」

「はぁ!? あの、チビ助が!?」


 その表情は素直な驚きで、店長は先輩の失踪については全く知らなかったのだろう。

 まあ、考えてみれば江西古書店に失踪の話が来る事はないだろう。店長さんは白百合学園のOBかもしれないが。それでも卒業した時点で部外者となっている。なら、学園の事情なんて知るはずがない。

 ……だが、少し安心した。店長さんまで、先輩の失踪に何もせず静観しているのではなくて。


「それで、チビ助のことは警察には言ったのか!?」

「あ、いえ。数日前からで……もう、警察には捜索して貰っています。ただ……まだ、見つからなくて。それで、学校でも先生から話が来る程度には話題になっていて」

「そうか……まあ、警察に任せてるならいいんだけど、心配だな……もしかして、うちに居ないか探しに来たのか? 残念だけど、うちには来てないぞ」

「そうじゃないです」


 私の答えに、純粋な疑問の表情を浮かべる店長さん。

 それを見て、違う不安が襲ってくる。もしかしたら、この店長さんの代になって探す方法というのは失われているのではないかと。

 もしも知らないと言われれば……いいや、聞くしかない。普通ではない失踪をしている先輩を見つけるために縋れるのはここしかないのだから。


「……先輩を探す方法を聞きに来ました。この江西古書店では、人を探す方法があるって聞いたので」

「――それ、誰から聞いた?」


 ああ、間違ってなかった。

 触れてはいけないものに触れられた表情をする店長さんに、素直に答える。


「水月先生です」

「……あの人かよ……マジかぁ。あの人が誰かに教えることはないと思ってたのにな……よっぽどなのか、それとも嫌がらせか……」

「あ、その。私が無理やり聞き出したので水月先生は悪くないです……ところで、どういう関係なんですか?」

「……あたしが文学部だった時の先輩だよ。まあ、あたしが人生で一番嫌いな人だな。それでも学園を卒業して一番長く縁が繋がってるのも変な話だけどね」

「な、なるほど……」


 そういう店長さんの表情は、なんとも形容しがたいものだ。憎い相手というにはその表情は柔らかすぎて、好きな相手というにはあまりにも険しい顔で。私の人生経験では読み取れないくらいに複雑な感情を抱いていることが分かった。

 ……あえて当てはめるなら腐れ縁の仲というのだろうか? とても気にはなる。だが、それは今は優先すべきことではない。いつか聞く機会を作るとしよう。


「それで、先輩を探すためにはどうすればいいですか」

「待った待った。そう話を急がない。まずは説明をするから……あー、婆ちゃんの頃はたまにそういう客は来てたんだよ。普通じゃない失踪をした探し人や尋ね人の居場所を探すためにね。まあ、それもあたしの代に変わって終わりだと思ってたんだけどなぁ……」


 ぼやくようにそういいながら、古書店の隅にある積み重なった本をどけていく。

 気が重いのか、普段のようなテキパキとした所作ではなく緩慢な動きだ。


「文学部でもそうだけど、ここらへんにはね。変なことが沢山ある。変なものも沢山いる。そういうもんは、触れない。見ない。答えない。それでなんとかなる。だけど、たまに捕まる人間がいるんだよ」

「それが先輩も……」

「いや、それは知らないけどさ。神隠しなんてのは昔からある話で居なくなった誰かを探す方法もここにはある。それについて、はっきり言えば理屈なんてあたしには分からない。もしかしたら、あたしが受け継いだ時点でもう何もかも消え去ってるかもしれない。残ってたとしても、その方法は正直危険だ。それでもいいなら教える」

「はい。大丈夫です。教えて下さい」

「……即答なぁ。若いなぁ……いや、あたしも若いけどさ……ここにはね、婆ちゃんが言うには彼岸だってさ。どこかとこっちの境界線」


 店長さんが片付けていく本の山で隠されていた物が見えてくる。

 そこには壁ではなく、古びた扉が隠されるようにあった。

 使われた形跡は感じられない。埃を被ったドアノブがそれを物語っている。


「――あたしが、この部屋に入ったやつを見たのは三人。そのうち、この部屋に入ってきてからどうなったか知らない奴が二人。一人だけ出てきたその人は探し人を見つけたけど、なんだろうね……人が変わったようになったよ」

「……」

「何が起きるのか。婆ちゃんに聞いても、知らないほうがいいって答えが帰ってきた。まあ、人によって変わるらしいけどね。でも、あたしは一度もこの部屋をちゃんと見たことはない。だって怖いからさ」

「中に……何があるんですか?」

「鏡だよ。古ぼけた鏡。その前に椅子が置いてある。そこに座って鏡を見つめていたらいいんだって」

「それで分かるんですか?」

「さてね。言っただろ? あたしは詳しく知らないし、本当に見つかるのかもわからないって」


 そう言うと、店長さんはカウンターから鍵を取るとその扉を開ける。そして、その後は触れずに近くの椅子に座る。


「もう一度いうよ。ここから先はあたしは関与しない。この部屋の中で何が起きるのかもわからない。ただ、ここでは何かを見るらしい。婆ちゃんから言わせれば、あっちに取り込まれた人を探すならあっちを覗き込むのがいいって話だった。あたしにはよくわからないけどさ」

「……深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ……でしたっけ?」


 危ない場所を覗き込むときは気をつけなければいけない。同じように覗き込んでいる何かに引きずり込まれるから。

 昔の偉人の名言が、ふと脳裏によぎった。


「あー、そんな感じかも。まあ、こういう場所にある鏡なんて昔からヤバいってのは相場は決まってるもんな。まあ、正直この部屋も使わないで閉じればいいかもしれないけど、変に弄っても怖いからなぁ」

「こんな場所って店長さん」


 自分のお店なのに。


「あー、あたしは店長だから好きに言っていいんだよ。言われて怒るような婆ちゃんもいねーし、好きに言っていいだろ……うん」


 そういいつつも、入り口を気にしている当たり店長さんはお婆さんに頭が上がらないのだろう。

 ……中に入って、帰ってこなかった人も居ると言っていた。


「帰ってこなかった人は……どうなったんだと思いますか?」

「さあな。少なくとも、中には居なかった。出入り口は他にないのにな。もしくは……」

「もしくは?」

「探してるやつと同じ場所にいるのかもしれないな」

「……」

「さて、夜までに出てこなかったら鍵を締めるからな。確かにチビ助は心配だ。でも、あたしはチビ助のために命はかけられない。だから、この部屋も夜には開かないようにする。いいな?」

「はい……水月先生も同じようなことを言ってましたよ。自分のほうが大事って」

「げっ……そうか。やだな」


 そう言って、本気で嫌そうな表情をする店長さん。

 それが面白くて少しだけ、気持ちが軽くなる。そして扉に手をかける。


「おい」

「なんですか?」

「……あー、なんだ……チビ助が見つかったらまた本を買いに来いよ」

「はい」


 無責任なことをいいたくないからそんな言い回しになったんだろうけども。

 ああ、この人は不器用だけど優しい人なんだな。だから思わず。


「優しいんですね、店長さん」

「うっせぇ!」


 そんな風に怒鳴られて、慌てて部屋に入った。



 中に入り扉を閉める。

 そこには椅子と、鏡が置いてあった。それ以外には見渡してもなにもない。天井についている小さい電球が照らす部屋は薄暗く、どこか不安な気持ちを掻き立てる。


(……座る)


 椅子に腰掛け、ふと気づく。扉を開けた形跡はなかった。なのに、鏡にも椅子にも埃が積もっていない。

 だけども、それがどうした。ここで引く理由にはならない。


「……」


 鏡を見つめる。そこには、私が写っている。

 ――じっと見ていると、私というものが曖昧になる。

 私が見ている。

 なぜ、先輩をこうまでして探すのか。

 鏡の私はじっと見つめる。

 視線をそらそうと思っても、吸い込まれるように鏡を見つめる。


「……先輩は、どこにいるんだろう」


 先輩は、大丈夫だろうか。


「先輩が見つかったら、何をしよう」


 新しい話を聞くのもいいかもしれない。

 無事を祝って一緒にご飯を食べに行くなんてどうだろう?


『そんなことのために、探すの?』


 私の口が開いた。

 自分の意志で喋っているつもりはない。だというのに、勝手に口が開いて言葉を発している。それは、鏡の中の自分が喋るのに合わせて私が動かされているかのように。

 自分の口から出てくる声が、まるで他人の言葉のように聞こえる。

 私は、何と話しているのだ。


『なんで、あの人を探しているの?」

「それは、居なくなったから」

『だって、あの人はただの先輩だよ? 偶然、同じ学校に居ただけのただの先輩』

「それはそうだけども、心配だから」

『心配なんてしてないでしょう?』


 私が、私に問いかける。


「心配はしてる」

『してないよ。あの人は、どうやっても大丈夫だって思ってる。そうでしょ?』

「……先輩だって、普通の」

『分かってる。普通じゃないから、あの人はどこかに言ってもなんとかしてしまう。そこには、私は要らない。でも、それを認められないのが私』


 どちらが喋っているのだろう。分からない。境界が曖昧になっていく。

 それは、私が聞きたくない言葉。私が見なかったことにしていたこと。先輩を追い求める理由。


「そんなことは……」

『あるでしょう? あの人の世界に私は代わりがきく。でも、私の世界にはあの人の代わりがない。あの人が大事に思ってくれているよりも、私はあの人を束縛している』

「束縛なんてしてない」

『知ってるよ。あの人が求めるような後輩を演じてるの。もっと、私はエゴイストで、ワガママで自分勝手で。殊勝な存在じゃないってことを』

「……」

『そして何よりも……』


 鏡の中の私は、ニヤニヤとした笑いを浮かべる。

 ああ、なんて嫌な笑みなんだ。


『私は、誰よりもあの人に嫉妬していることも知ってるよ』

「――」

『どうして部活に入ったのか覚えている? 私は――』


 思い出す。

 ああ、私が文学部に入った理由は――



 天気雨の事件に巻き込まれた後。

 私は二年生の教室の近くで上級生の人と話をしていた。


「このくらいの、小さくて綺麗な人なんですけど」

「え、えっと……あ、分かった! 知ってるから、呼んでくるね! じゃあね!」


 早口にそう言うと、足早に去っていく上級生の人。

 ……先日傘を貸してくれた二年生の先輩を探して、手近な先輩に聞いてみたのだけども明らかに怯えていたのは悲しい。別に威圧しているつもりもなかったのだが、無愛想な表情は威圧感を与えることは自覚している。

 昔からそうだ。怖がられたり、怯えられる事はよくある。だからあまり他人と関わらないようにしていたのだけども……


「でも、返さないと」


 あの不思議で奇妙な出来事。それ以上に私の中で優先度の高いことがあった。

 ――あの、私の理想のような少女ともう一度出会いたいのだ。


(……本当に存在しているんだろうか?)


 未だに疑う気持ちがある。あの、雨の日の幻覚なのではないかと。

 あの慌てていた時ですら意識を持っていかれてしまうほどに、私の理想の存在。

 期待が高まりすぎていると、自制する。勝手に理想を抱いて、勝手に幻滅を擦るなどという失礼をするわけにはいかない。


「おまたせ……ああ、貴方は先日の」

「はい。あの、傘を返しに……」


 そして、見た。


 見てしまった。


 己の理想の存在を。


「ごめんなさいね。あの時は、私も巻き込みそうで悩んでたのだけども……」

「……あ」


 話が耳を通り抜けていく。

 ああ、こんな理想が存在していいのか。己が、なりたかったものがこの世にあることに対して感情が渦巻いている。

 ――その中で最も大きい感情は……負の感情だった。

 私が知らない所で、己の理想が生きている事に対する怒り。そして、己の理想がこの手にないことに対する嫉妬。そして、私の前に存在していることに対する憤り。

 だから、次の瞬間には勝手に口が開いていた。


「あの、先輩の所属してる部活ってどこですか? 入部したいです」

「えっ?」


 あの先輩のキョトンとした顔を見たのは、後にも先にもあの時しかないだろう。



 ――それが始まり。

 ああ、そうだ。私は最初から綺麗な思いなどなかった。


「私は、先輩を見ていたかった。あの人は、私の理想そのものだから」

『私は、あの人になりたかった。だから、こうして部活に入った』

「私は、先輩が好きだ。私にないものをすべて持っているから」

『私は、あの人が許せない。私が欲しかったものを全て持っているから』

「だから、先輩を見つけたい。あの人を助けたいから」

『だから、勝手に居なくなるなんて許さない。私を置いていくなんて許すわけがない』


 鏡の私は、私が心の底で蓋をした感情を開いて見せつけてくる。

 それは、己の正しさを揺るがせる。私のしていることの醜さを見せつける。


「ああ、私は」

「ああ、私は」


『「なんて、醜いのだろう」』


 鏡と私の言葉が重なる。

 ああ、鏡の仲の私の言葉を否定できない。なぜなら、それも間違いなく私の本心だから。

 ――そして、鏡は私を誘惑するように囁く。


『私はあの人に焦がれている。憧れて、焦がれて、先輩を繋ぎ止め続けたいくらいに。逃さないようにするくらいに』

「私は、先輩が居なくなるなんて許せない」

『そう。そんなエゴが私なの。でも、んな醜い物が執着するなんて酷い話よね。私は、あの人を自由にさせてあげるべきじゃないの?』

「――嫌だ」

『分かってる。私だから知ってる。この無駄に高い背も、無愛想な顔も。この声も。この体も。雰囲気も。何もかも。私は嫌いだって言うことを。醜い私は、あの人に焦がれているのだから』

「だから、あの人の持っているものが全て欲しい。私の手元に」


 そうだ。私は私が嫌いだ。

 私は生まれて、ここに至るまで私を好いたことがない。己という存在を誰よりも嫌っている。

 だから、あの日の赤蜻蛉の風景に帰ることすらなかったのだ。

 あの人の居ない場所に価値すら見いだせないような私は。


『でも、もう探さなくてもいいようにしてあげる』


 そういって、鏡の中私が徐々に変化していく。

 それは、私だった。だけども、それは――


『ねえ、私? どう? これがあの人のような理想の私。小さくて、愛らしくて、誰からも好かれるような少女の見た目』

「……これが、私?」

『ええ。あの人みたいに小柄で。あの人みたいに柔らかい顔。あの人みたいに安らぐ雰囲気。こうありたかった私』


 先輩のように小さくて。表情は柔らかく。そこにいるのは別人なのに、間違いなく私だった。


『このままでいれば、探さなくても私は理想の私になれる』

「理想の私……」

『そう、あの人を諦めて、このまま帰りましょう? 部屋を出れば、私はこの姿になるの。ほら、見て?』


 そう言われて、私は椅子に腰掛けたまま自分の姿を見る。

 ああ、それは覚えのないほどに小さく華奢な手だった。

 ああ、なるほど。帰ってこない人を理解した。ここではない理想になれるのだ。己の醜さを見せつけられ、諦めれば理想が叶うようになる。店長さんが言う帰ってこなかったというのは、もしかしたら別人になって気づかなかったのかもしれない。

 このまま部屋を出たら、私は先輩のようになる。理想の私に。

 ああ、それはなんて――


『理想の私。なりたかった私。ここで逃せば手に入らない私。ねえ、もう答えは決まった?』

「うん。決まった」


 そう言って鏡に手を伸ばす。

 ああ、前よりも小さくて届かない。鏡の中の私も笑みを浮かべて同じように手を差し伸べる。鏡の中へ手が吸い込まれていく。

 そして――


「――ああ、本当に醜い」


 私は、私の首を締めた

 鏡の中の私は驚愕した顔で同じように締め返してくる。ああ、苦しい。でも、私の顔は歓喜に溢れて、笑顔を形づくっている。

 鏡の私が苦しむ表情とは真逆の顔を浮かべていた。


『ぐっ、ああ……なんで……』

「なんで? そんなの、私なら分かるでしょう?」


 ああ、所詮は見た目だけを真似した私だ。

 私の中の激情を。私の中のおぞましい感情を。何も理解していない。

 上っ面をなぞって、私の奥底まで理解してない。


『だって、理想の私に……』

「私はね」


 更に強く締める。同じだけ締め返される。理想の自分が苦しそうにする。

 ああ、いい気味だ。


「私という存在が、何よりも嫌いなの」


 ああ、確かに先輩は理想だ。

 ――それは、中身も含めての話だ。

 ああ、私という意識が嫌いなのだ。このグロテスクなエゴを抱えた私が何よりも……殺したいほどに嫌いなのだから。


「私が理想の私になるなら、それはもう私じゃないの」


 こんな悍ましいものが理想の私の中にいる事実に耐えられない。

 ああ、貴方は傲慢過ぎたの。鏡の中の私。

 こんな物が、そんな姿をして許せるはずがないでしょう。


「――これ以上そんな姿を見せないで」


 あまりにも無様で、あまりにも冒涜をしている。

 そうだ。私が先輩に焦がれて嫉妬して、それでも離れられないのは……あの人が決して私がなる事ができない理想だから。

 だから、模倣すらも許せない。ああ、そうだ。私は完全に自覚した。


「私が先輩を見つけたいのは、私のエゴだ。あの人が望んでなくても私は見つけ出す。あの人は、私のものだ。私の光だ。だから、私の知らない場所になんていかせない」


 私は醜く、悍ましい物だ。

 だから、なんだというのだ。

 あの人が望んでも望まなくても、もう私は逃さない。


「ありがとう。私。おかげで、はっきりした」


 己の感情の行き場にも。先輩に対する執着にも。

 もう、鏡の中の私は語らない。

 だから、笑顔で別れを告げる


「さようなら、私」


 そして――



「……ああ」


 鏡に手をおいて、私は立っていた。

 どうやら、私はどこからか夢を見ているような状態になっていたらしい。

 ただ……ああ、なんだろう。覚める前に、先輩を見た。

 とても幸せそうに水仙の花畑で寝ていたあの人。私は早く迎えに行かなければならない。


「早く、行こう」


 私が部屋を出ると店長さんは驚いた顔をする。

 外を見るともう日が落ちている。夜になっているのに、待っていたらしい……本当に、この人はいい人だ


「うおっ!? あ、良かった無事だったのか! 体の方は――」

「店長さん、ありがとうございました。行ってきます」

「お、おい! 行ってきますってどこに!?」

「――先輩を迎えに」


 それだけ言い残して私は店を出る。方法はわかっている。そこへの行き方も。

 ――ただ、私は理解していた。ここから、己との対話よりも恐ろしいことが待っているのだと。

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